第31話裏 影の中の真実
ギルドでの緊急会議が開かれる直前、街の静かな一角に二つの影がひそんでいた。ルナとゼノは、誰にも気づかれぬようにひっそりと集まっていた。
ルナはいつも通り冷静な表情を浮かべていたが、その瞳には複雑な感情が揺れている。彼女の過去、そしてイアの秘密を知る者としての重圧が、彼女の心を締め付けていた。
「ゼノ、この異変はただの偶然じゃないわ。裂け目も旧時代の神々の動きも、すべて繋がっている」
ルナの声は低く、だが確かな決意が込められていた。
「俺もそう思う。だが、我々が表立って動けば、ギルドやイアの仲間たちに疑われる。慎重に動かないと」
ゼノは冷静に周囲を見渡しながら言った。彼の存在自体が謎に包まれている。ルナにとっても、ゼノの真の目的は完全には分かっていなかった。
「イアが知らない“核心”の秘密――それは単なる力の源ではない。世界そのものの“構造”そのものだわ」
ルナは拳を握りしめる。
「私たちは、この世界の真実に近づきすぎている。もしそれが明るみに出れば、混乱は避けられない」
「だからこそ、俺たちは動くんだ。誰にも気づかれず、イアの未来を守るために」
二人はしばし沈黙した後、小さく頷き合った。
「これから先、いろんな勢力が動き出すだろう。だが、俺たちは背後からイアを支える。彼女が壊れないように、守り続ける」
ルナは懐から古びたペンダントを取り出した。それはかつて彼女が失った、家族の形見だった。
「これは……」
ゼノが静かに尋ねる。
「私の過去の象徴。これもまた、旧時代と繋がっている。私にはまだ隠された力があるはずだわ」
ルナの瞳が鋭く光る。
「だが、今は焦らず、計画を練る時。イアたちの動きを見守りながら、裏から世界の歪みを正す」
「わかった。俺も全力で動く」
ゼノはそう言うと、薄暗い路地に消えていった。
ルナはひとり、静かに空を見上げた。
「――世界は、まだ終わらない」
その言葉に、強い覚悟がこもっていた。
街の朝は静かに始まっていた。冒険者ギルドの広間に集まったのは、まだ若く、新米のイアたちだった。だが、その目はこれまでとは違っていた。強さと覚悟が確かに宿っている。
「今回の任務は、裂け目の調査だ」
ギルドの責任者がゆっくりと言葉を紡ぐ。裂け目――それは世界の織り目が不自然に裂け、魔力の異常流出が起きている場所。未開の地であり、極めて危険だった。
「その地域は人がほとんど入らず、情報は乏しい。何が待ち受けているか予測不能だ」
イアは顔を引き締めた。だが恐れはなかった。マーリンから受け継いだ力を胸に、彼女は自分の魔力を何度も確認した。
「準備はできている」
イアの声は揺るがなかった。隣でエルが頷く。
「私もだ。イアの背中を守る覚悟はできている」
仲間たちも、それぞれの武器や魔法の調整を終えていた。ルナもゼノも、影から彼女たちを見守っていた。
「安全は約束できないが、全力を尽くす」
ギルドの責任者が短く告げ、任務の概要書を配る。
「裂け目は地形も変わっている。足場の崩壊や魔物の襲撃も予想される。何より気をつけるのは、裂け目から漏れ出す“瘴気”だ。魔力を乱し、精神を蝕む。集中力が切れたら終わりだ」
イアは冷静にうなずいた。
「瘴気を打ち消す術式も準備してある。任せて」
エルが小さな巻物を差し出した。そこには特殊な結界魔法が記されていた。
「これで多少は安全になるはず」
チームのリーダー格であるイアは、仲間たちの顔を一人ひとり見渡した。
「みんな、これは単なる調査じゃない。世界の危機の根源に触れるかもしれない。だけど、私たちは恐れず進む」
彼女の言葉に仲間たちは固くうなずく。
「準備が整い次第、出発する」
その言葉のあと、ギルドの鐘が響いた。任務開始の合図だった。
イアは深呼吸をし、杖を強く握った。
「いくよ、みんな」
森の奥へ続く道を、彼女たちはまっすぐに歩き出した。背後にはまだ見ぬ世界の謎と、迫りくる危険が待っている。
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