第30話 運命の裂け目
イアがギルドの奥深くで見た断片的な記憶と真実は、彼女の心に重くのしかかっていた。だが、それでも彼女の歩みは止まらない。胸に灯った“魂核”の光は、未来への道標となり、仲間たちと共に新たな試練へと進む力となった。
その日、ギルドの大広間は普段とは違う緊張感に包まれていた。冒険者たちが噂し合う声は、やがて静まり返り、重々しい空気に変わる。
「緊急会議が開かれます。全メンバーは集まってください」
そんな召集令が響き渡った。イアとロゼもすぐにギルドの中心へと駆けつけた。
集まった者たちの表情は様々だった。恐れ、疑念、そして決意。
ギルド長のクリストファーが静かに口を開いた。
「皆、報告だが、最近、世界のあちこちで“裂け目”と呼ばれる異常現象が観測されている」
裂け目――それは異なる時空や次元を繋ぐ亀裂であり、そこから未知の存在が侵入する危険があるとされていた。
「裂け目からは、かつてない強大な魔物や旧時代の遺産が姿を現している。これまでの常識では太刀打ちできない力を持っている」
イアは胸の“魂核”が反応するのを感じた。世界の“核心”としての自分の役割が、ただの偶然ではないことを悟る。
「今回の異変の裏には、お前たち新米の力も試されている。だからこそ、特別に調査と討伐の任務が与えられる」
クリストファーは目を鋭くして続けた。
「だが、それだけではない。お前たちの調査に先んじて動いている者がいる。かつて滅びた旧時代の“神々”と呼ばれた存在だ」
その言葉に会場はざわついた。旧時代の神々――長らく伝説の彼方に葬られたはずの存在が、いま再び動き始めたという。
イアはハッとした。先日、アルカナクスが言っていた“呼ばれぬ神々”のことかもしれない。
「その存在が何を企んでいるかは不明だが、世界の均衡を脅かす可能性が高い。お前たちはただの冒険者ではない。未来を背負う者として、覚悟してほしい」
静寂の中で、イアはロゼの顔を見た。彼女の瞳にも同じ覚悟が宿っていた。
「わかりました。私たち、新米でも全力を尽くします」
イアの声は強く、周囲に勇気を与えた。
ギルド長が頷き、手元の書類を差し出す。
「では、最初の任務は裂け目の調査だ。現地は未開の地で、危険が伴う。準備を整え次第、出発しろ」
イアたちのチームは緊張しつつも、期待と不安を胸に抱えながら任務に向けて動き出した。
準備中、ロゼがふと口を開いた。
「イア……あの真実を見てから、君は変わった気がするよ」
「うん、私も感じてる。何かが目覚めて、世界が今までよりもっと鮮明に見える。でも、怖くはない」
イアは胸の“魂核”に手を当て、確かな決意を噛み締めた。
「私たちの旅はまだ始まったばかり。新しい敵も、困難もあるだろうけど、私たちは乗り越える」
そう言って、仲間たちと顔を合わせた。
その時、ギルドの外で不穏な影が動いた。見えざる敵の視線が、彼女たちをじっと見つめていた。
新たな戦いの幕が、静かに上がったのだった。
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