第29話 世界そのもの

闇に包まれた空間の中で、イアはまるで眠りながらも目覚めているかのような不思議な感覚に囚われていた。アルカナクスの放つ光は彼女の心の奥深くへと届き、封じられた記憶の扉をゆっくりと開いていく。


見知らぬ景色、断片的な声、温もり。イアの魂は震え、胸の奥が熱く疼く。けれどその感覚は恐怖ではなく、懐かしさを伴った。


「これは……わたしの記憶?でも、こんな景色、見たことがないのに……」


そっとロゼの手を握り返し、イアは呟いた。


その時、光の中から淡い声が響き渡った。


「イア……お前は、世界。全ての源。だからこそ、忘れても懐かしく感じるのだ」


アルカナクスの言葉だった。だが、ロゼもその意味を完全には理解できず、ただ静かに見守る。


「覚悟しろ。これから過去の断片が暴かれる。真実は時に残酷だが、それを受け入れることが未来を拓く鍵となる」


イアの胸の中で、マーリンから受け継いだ“魂核”が淡く輝きを増した。


「逃げない。わたしはすべてを知って、前に進みたい」


その覚悟が、闇を切り裂き、イアの意識は過去の世界へと引き戻された。


彼女の目の前に広がったのは、光も闇もない“始まりの世界”。そこには無数の原初の存在が、静かに存在していた。


「お前は“この世界”そのものだった――」


アルカナクスの声が、過去と現在を繋いだ。


イアの心は、世界の記憶の欠片に触れ、真実の扉を開け放つ。


だが、その真実は、彼女にとって祝福でも呪いでもあった。


それは、すべてを背負い、生きていく覚悟を決めるための、最初の試練だった。


「お前はこの世界の“核心”だった――その存在が言葉となり、形となったのだ」


アルカナクスの声が時空を超え、イアの魂に届く。


記憶の断片が彼女の内側で震え、世界の真実を形作っていく。すべての出来事は彼女の存在に繋がっていた。


だが、それは同時に重い責任でもあった。


「お前はただの魔法使いではない。世界の一部であり、変革の鍵だ」


胸の“魂核”が強く光り、イアは自分の中に眠る力と運命の重さを感じ取った。


そのとき、ロゼがそっと呟く。


「イア、無理しないで。君は一人じゃない」


言葉は短いが、深い優しさが込められていた。イアは微笑み返し、涙を浮かべながら答えた。


「ありがとう、ロゼ。これからも一緒にいてほしい」


闇が晴れ、イアの視界に現実が戻る。胸に響く鼓動と共に、彼女は覚悟を決めた。


「これが、わたしの真実。そして、未来への第一歩」


この瞬間から、彼女の運命は大きく動き出す。

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