第27話 偽神の爪跡と七番目の檻
ギルド本部に戻ったイアたちは、静かな異変に気づいた。
門の警備兵たちは彼女たちの顔を見るなり、無言で敬礼し道を開けた。だが、その目に映るのは、明らかな“警戒”だった。まるで――“何かに触れた者”を見るような、距離のある視線。
「……なにこれ、歓迎されてないの?」
ルナが囁くように言う。
「いや、もっと厄介だな。上層部が“口封じ”を決めた時の対応に似てる」
ゼノが険しい表情で返す。
報告所に赴いても、対応したギルド職員は一言。
「今回の任務は、上位機密扱いに移行しました。以後の発言は制限されます」
イアが何か言おうとする前に、ルナがさっと腕を引いた。
「これは……もう“報告すべきではない案件”にされたってこと。つまり、“私たちが見たもの”は、外に漏らしてはならない」
「どうして……?」
イアの問いに、ゼノは天井を見上げながら静かに答えた。
「それだけヤバい存在と接触したってことだ。“世界の裏側”に触れた者は、例外なく“世界の構造”に関与する……」
イアは自分の胸元を無意識に抑えた。まだ思い出せない記憶。だが確実に、自分の中にある“何か”が目を覚ましかけている。
──その夜。
ギルド本部・地下第七封印区画。
普段は誰も近づかぬその場所に、一人の老人がいた。
灰色のローブを纏い、片手に《失名書》と呼ばれる古文書を携える、元・大賢者クラスト。
彼は、半ば崩れた封印壁に手をかざした。そこには、かすかに浮かび上がる“刻印”があった。
【IA-00:対象記録再接続準備中】
「……やはり、動き出したか。七番目の檻が。世界そのものを記録する《原型因子》……今こそ、その鍵が開く」
彼の目に、禍々しい輝きが宿る。
──同時刻。
ルナは夜の屋上に立っていた。月明かりに照らされたその横顔は、どこか寂しげだった。
「私が“記録者”だったのなら……どうして、あの時、イアを選んだ?」
自身に問いかけるように呟いたその瞬間、風が揺れ、背後に気配が現れる。
「よう、随分と哀愁漂ってるな」
「……ゼノ」
「お前も気づいてるんだろ。“あの記録”が、再び動き出してるって」
ルナはゆっくりと頷いた。
「七番目の封印。あれは“ただの記録保管装置”じゃない。――“神を封じた記録そのもの”」
「記録にして、監獄。そして鍵は、イア……」
二人の会話を裂くように、遠くで警報音が鳴り響いた。
ギルド地下から。
封印区画が、崩れたのだ。
ルナの瞳が鋭くなる。
「始まったわ。やっぱり、間に合わなかった」
ゼノが剣を抜く。
「急げ。次は、“神の模造”じゃ済まない。あれは……本物の《神の欠片》だ」
──その頃、イアは自室で夢を見ていた。
それは、“誰かの記憶”だった。
深い闇の中で、彼女は確かに《存在の名前》を呼ばれていた。
――IA。世界の始祖。
君は世界の「本当の姿」であり、世界そのものの存在。
だが、その記録は七つに分断され、封じられた――
そして今、再び“統合”の時が来る。
イアは目を覚ます。
視線の先、鏡に映る自分の瞳に――わずかに、光が滲んでいた。
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