第24話 偽りの神

それは、都市の北西にある廃村ノルグレアから届いた報告だった。


「村の外れで、空が“裂けた”ように光が走り、得体の知れない影が現れた……と。」


ギルドの作戦室で、イアは仲間たちと共に任務の説明を聞いていた。報告を読み上げているのは、ルナだ。冷静な声の奥に、微かな不安が混じっていた。


「現場にいた探索班は、ほぼ全滅。生き残ったのは一人だけ。それも錯乱状態で、まともに話せないみたい。」


「“裂けた空”……」イアは呟いた。


彼女の中で、何かがざわめいた。聖堂で見た“あの光”と、どこか似ている気がする。


「これはただの魔物事件じゃないわ。魔力の偏差が大きすぎる。“神性”に近い反応があったの。」


「神……って、まさか、また封印が?」私が言うと、ルナはかぶりを振った。


「わからない。でも、これは“人為的”なものかもしれない。古代の神域を模倣し、人工的に再現したような――そんな痕跡が、報告書にあった。」


任務はすぐに決定された。イアたち《元仮登録者》の精鋭が、現地調査に向かう。



《ノルグレア》は静まり返っていた。


日が落ちる直前、イアたちは廃村の中央に到着した。長く打ち捨てられた家屋、雑草に覆われた広場、崩れかけた鐘楼。だがその中央に――異様な“裂け目”があった。


空間がねじれ、光と闇が重なりあうような不安定な空間。近づくほどに、体の奥から吐き気のようなものがこみあげてくる。


「……ここ、何かが“存在してない”気がする。」イアがぽつりと呟いた。


「逆だよ、イア。」すぐ後ろにいたロゼが言う。「“存在しすぎてる”んだ。重なってるんだよ、二つの“現実”が。」


イアはその言葉に、なぜか確信を覚えた。


裂け目の奥、ゆがんだ空間の先に、建物のようなものが見えた。だが、それは現実に建っているはずのない構造――まるで“儀式の場”のような、石柱と環状の台座。


「人為的に……作られてる?」


「ええ。見て、周囲の魔力の流れ。“神域形成”の初期段階にあるものよ。」ルナが石に触れて、眉をひそめた。「これは……自然には、絶対にできない。誰かが“神”を呼ぶために、意図的に設計したもの。」


その言葉と同時に、周囲の空気が震えた。


「……来る!」ルナが叫ぶ。


空間の裂け目から、黒い影が這い出てきた。それは獣にも虫にも似ていたが、どこか人の形にも見える。だが、“存在の形”が崩れている。視る者によって姿が変わるそれは、まさに“偽りの神”の端末だった。


「迎撃!フォーメーション・ガンマ!」


イアの声で全員が動いた。


ルナの魔法が影の核を狙い、ロゼの剣がその攻撃を封じる。そしてイアの魔力が、光の剣となって影を貫いた――


爆発音のような音が響き、影は霧散した。


だが。


その瞬間、“奥”にあった石柱群の中心――台座に、光が宿った。


「これは……転移陣?」


イアが近づこうとしたとき。


空間に、低い“声”が響いた。


≪――呼ばれしは誰か。扉は、いま、開かれん≫


その声に、イアの胸がしめつけられるように痛んだ。


何かが――ずっと前に、ここで目覚めようとしていた。


そして今、その“何か”が、イアの魂に呼応している。

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