第20話 正規登録者試験

朝霧が街の石畳に漂う頃、ギルド《塔の灯》の訓練場には、十数名の若き仮登録者たちが集まっていた。


「――全員、揃ったな」


ギルドの訓練責任者・ドランは、鋼のような体躯と低い声で言った。元Aランク冒険者で、その名は新米にも知られている。


「今日、お前たちに課すのは仮登録者試練。実戦形式だ」


ざわめく声が広がる。訓練かと思っていた者たちの顔に、緊張が走る。


「今回は、街の外れに現れた“野伏せりの群れ”を討伐してもらう。正確には、その“前哨戦”だ。深追いはしない。だが……舐めれば死ぬぞ」


野伏せり。――元は人間でありながら、魔瘴に染まり獣化した存在。理性を持たず、集団で人里を襲う。


「三人一組でチームを組んでもらう。隊長は、実力順だ」


そう言って、彼が読み上げた最初の名前――


「第一班、隊長「イア」


静まり返る空気。誰もが、彼女の名を知らない。


「は? 誰だ……」


「聞いたことねぇ……」


その中で、ロゼが嬉しそうに手を挙げた。


「イア、一緒にやろうぜ!」


「うん、よろしく。エルもいるし、戦えるよ」


「……まぁ俺がいるし、死なせねぇけどな」


「ロゼ、お前隊長じゃねぇのにうるさいぞ」と後ろから突っ込まれつつ、第一班の三人目――選ばれたのは、白銀の髪の少女だった。


「ルナ・ヴァルシェリア」


彼女は一言も発さずに、私とロゼの横に立つ。


ロゼが小声でつぶやいた。


「……え、マジで? チーム、濃すぎない?」


エルも隣で唸った。


「おいイア、マジで何者だお前。明らかに“ただの新米”じゃねぇぞ」


私は笑って、肩をすくめた。


「マーリンの弟子、ってだけだよ」


「4大賢者の弟子?うそだぁ」


隊列が整い、各班が装備を確認する。


そして、訓練場の扉が開く――


そこには、森の入り口へと続く“試練の道”があった。


森は静かだった。だが、空気には明確な“異物感”があった。


腐臭、鉄のような匂い、そして――


「血の匂いがする」


私は静かに呟いた瞬間、ロゼの背筋がぞくりとした。


「待って、それどういう――」


「前方、五十メートル先。四体。弓持ち二体、近接二体。奇襲狙って伏せてる」


ルナが即座に詠唱を始めるのはランク3雷属性魔法「雷矢」


「“雷撃の矢よ、貫け”――《スパーク・アロー》」


稲光が地を這い、野伏せりの隠れていた茂みを裂いた。吠える獣の声。飛び出した個体はすぐさま、私が詠唱なしで放ったランク3氷属性魔法「氷刃アイシクルブレイド」に貫かれた。


「無詠唱!?」


ロゼが驚く間もなく、私は次の術式を展開する。


「結界展開:氷壁アイシクル・ウォール


氷の壁が半円を描いてチームを包み、敵の矢を完全に遮断。


「ロゼ、右から回って! ルナは左翼、援護を!」


「お、おう!」


「了解」


訓練されたように動く三人。だがその中心で、私はまるで“完成された戦場魔術師”のようだった。


最後の野伏せりが呻くように倒れたとき、戦闘はわずか三分で終わっていた。


ルナがじっと、私を見つめていた。


「……あなた、何者?」


「イア・メルセリア。ただの新米だよ」


ロゼは乾いた笑いを浮かべた。


「嘘つけ、誰が信じるか……」


だが、それはまだ始まりにすぎなかった。


試練の本番は、ここから。


森の奥――“失われた聖堂”に、真の敵が待っている。                       エルはその言葉に、何も言わなかった。ただ静かに、私のそばで目を閉じた。


朝は、もうすぐそこまで来ていた。

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