冒険者編
第15話 旅立ち
森に朝霧が立ち込める。
マーリンの家の屋根には、夜露が光っていた。
イアは、静かに扉を閉じた。
手には、使い込まれた杖と、小さな革のバッグ。
その中には、魔法書・薬草の束・そしてマーリンのブローチ。
家の前には、エルが立っていた。
「……本当に、行くんだな」
イアは頷いた。
その目は、以前のような幼さが薄れ、強く、静かに澄んでいた。
「ここにいても、もう学べることは少ない。
わたしは外へ出る。人と出会って、魔法を試して、世界を知る。
それが――マーリンが望んでた未来だから」
エルは黙っていた。
けれど、瞳の奥に、尊敬と少しの寂しさが滲んでいた。
「……イア」
「うん?」
「帰る場所は、なくすなよ。お前は“全部背負う”奴だから、時々バカみたいに無理する。
誰かを助けるなら、まず自分を壊すな」
イアはくすりと笑った。
「ありがと、エル。……うん、わかってる。
だってもう、わたし一人じゃないから。
マーリンが、ここにいるんだよ」
そう言って、胸に手を当てた。
静かに、淡い紫の光が灯る。
マーリンの魂と繋がる“魂核”が、やさしく脈打っていた。
エルは少しだけ目を伏せ、それから前を向いた。
「じゃあ、私も連れて行け。
“魂の継承者”として、私の主。
いや――新しい《魔法使い》として」
「エル、ほんとにいいの?
自由が好きだったのに、わたしについてきたら、危険なこともいっぱい――」
「バカ。……お前がいないほうが落ち着かないんだよ。
誰が“お前のリミッター解除”を制御するんだ。まったく、命がいくつあっても足りねぇ」
「ふふ……それもそうか」
イアと一匹は歩き出す。
森の小道を、光の射す方へ向かって。
道は霧に包まれている。
けれどその足取りは、迷いなく、真っ直ぐだった。
森の鳥がさえずり、朝日が木々の隙間から差し込む。
「行ってきます、マーリン」
イアは小さくつぶやいた。
その声に、風が応えた気がした。
そして――
新たな物語の扉が、静かに、開かれた。
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