第14話 継承

私はベッドのそばに座り、マーリンの手を握っていた。

その手は、もうあたたかさをほとんど失っている。


「……やめてよ、こんなの……!」


私の声は震えていた。

息をするたび胸が軋む。


「全部、教えてくれたじゃん……!

魔力の制御も、式の構築も、心の使い方も……全部……!」


マーリンの瞼は、静かに閉じられていた。

もう応答はない。


イアの中で、何かがはじけた。


「まだ終わりなんかじゃない……終わらせない!!」


次の瞬間、

イアの全身から、藍色の奔流のような魔力があふれ出す。

まるで空間が悲鳴を上げるように揺らぐ。


その魔力は――制御されていなかった。

今まで必死に閉じ込めていた“基礎魔力量のリミッター”が、

心の叫びに応じて、一気に壊れた。


イアの体のを中心に森全部を埋めつくのではないかと思うほど巨大な魔法陣が出現する。見たことのない構造――けれどどこか、マーリンの魔法に似ていた。


「見ててよ、マーリン……今度は、私が作る……!」


イアは、両手をベッドの上に差し出す。

そして、自分の“魔核”を開いた。


――魔力回路、開放。

――霊魂位相、同調。

――対象:マーリン・オルトラン。

――魔法式:魂縫い《エンリンク・ソウル》。

それは、全属性魔法使いの「第一次進化ファースト・エヴォルブ

全属性魔法使いの頂点に立つものと世界の頂点に立つものの結束と友情に世界が授けた「独自オリジナル祝福ギフト」。

「ここに宣言する……!」

「マーリンは、私の師であり、私の始まり。

その魂、今より――わたしとともにあれ!!」


爆発のような魔力衝撃。

部屋中の窓が砕け、床に刻まれた魔法陣が眩しく輝く。


その中心で、

マーリンの胸元から、淡く白い光が立ち上った。


それは“魂の残滓”――本来なら天へ昇るべき光。


けれど。


その光は、イアの胸に吸い込まれるように宿った。


――そして、静かに、重く、何かが満ちた。


イアの瞳の一つが、まばゆい紫に染まっていた。


「……いたんだ、マーリン。」


声に、確かなぬくもりがあった。


「もう一人じゃない……。

これからのあたしには、あなたの魔力も、記憶も、心も……全部一緒にある。」


その瞬間、

私の背に、六枚の光の羽根が広がった。

マーリンの象徴である“六式連陣魔法”――

それを、自然と、無意識に纏っていた。


エルが扉の外でそれを見ていた。


「……魂ごと、抱え込んだのか。

ほんと、とんでもない弟子だな。」


私はふらつきながら立ち上がり、

けれどどこか、凛とした笑みを浮かべていた。


「――これが、私の“継承”。

マーリンが遺そうとしたすべてを……この命に、刻んで生きていく。」


夜が明ける。

魂と魔力の風が、森を駆け抜けていく。

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