第8話 刺客

やっと流魔が上達してきた頃。

新たな流魔の使い方を練習することになった。

「いい?イア。流魔は体の部位を強化することだってできるの。体の魔力の流れを高速で進めることで、体の代謝と共に、身体の性能が上がるわ。身体強化魔法みたいなものね。でも、進める速度が速すぎると、体に負荷がかかりすぎてしまうわ。」

「はい!わかりました!」

返事をして、魔力の流れを速めていく。

グルグルグルグル魔力の流れを進めていきながら1歩踏み出してみた。

「わわっ!?」

明らかに1歩の距離ではなかった。

4mくらい進んでいる。

「もー。上達が早くて私自信無くしちゃう!」


「あはは。マーリンの教えがいいからだよ。」

そう言って笑い合っていた。


「…っ!」

「え?」

見えないくらいの速度でマーリンに弾き飛ばされた。

そう思考が結論をつける事ができたのは、

私が18mくらい吹っ飛んで後ろの木に激突したときだった。

流魔を使う訓練をしていたことで、背中がじんじんするくらいで済んだ。

文句を言おうとマーリンの方に視線を動かした。

すると、マーリンが何かを言っていた。

「そ…こ…か…ら…逃………げて」

「え?なんて…?」

そう言った。それが間違いだった。そんなことしている暇あったら逃げるべきだった。マーリンがこっちに駆け寄っているその時魔力の波動を感じた。

まるで…三日月のような形の翡翠色の魔力…!?

今度は横にマーリンに突き飛ばされた。

「ひっ」

今。しっかりと見てしまった。

いや。ホントは見たくなかった。

鮮血とともに飛んでいったマーリンの右腕のことが。

「マーリン!」

「ちぃっ!」

うまく受け身を取って右腕を止血するマーリン。

その勢いのまま残った左腕でランク3風属性魔法「斬裂風エアロスライス

短期詠唱クイックで打ち返している。

木々を真っ二つに切れ倒しながら進む風の斬撃は

40mくらい進んで魔素へと姿を変えた。



「いやぁー相変わらず化け物だねぇ…マーリン・スレイマンちゃんよぉ?」


「化け物呼ばわりされるのは勘弁だね。あんたも4大賢者だろう?

4大賢者ハルフォード・グラディウス。」


お互いの魔力をぶつけ合いながら威圧し合う二人。

正直レベルが違う。

逃げないと。


背を向け走り出す。

「ちょっとちょっと。俺は嬢ちゃんに話があるんだぜぇ?」

回り込まれた…!?

「ひっ……」


「おぉ?なかなかに可愛い顔してんじゃん?しかもエルフときた!こいつはいいな!犯して俺の女にしてやるぜぇ!」

な…何言ってんの…!?この男の人……!?

「こっ…こないでぇ!!!!」

声は出る。声は出るけど

逃げれない。

確信に近い直感で悟った。

「おお?マーリンちゃん?邪魔しないでねー?」

戸惑いもなく立ち上がろうとしながら魔力を溜めているマーリンに、ランク2風属性魔法「風斬エアカッター」をマーリンより早い短期詠唱クイックで撃った。

三日月のような形の風の刃はマーリンに吸い込まれるように飛んでいって。

「ぐうっ」

直撃した。

普段のマーリンなら避けるか防御できた攻撃だった。

しかし、右腕の止血で使っている魔力で魔力察知で上手く見えなかったようだ。

マーリンの老いてきた体に深々と傷がついた。

流魔と魔力で止血するも、ほとんど意味がないレベルで出血している。

ついにはマーリンが膝をついた。

初めて見た。

マーリンは強いイメージしかなかった。


「あーあ。もうちょっと楽しませてくれると思ったのに。…目障りなマーリンを倒せたから帰ろ。」

なんという気分屋なんだ。

そう思ってしまう。

でも、魔力制御等の技術はあちらの方が確実に上。

楯突くことさえできない隔絶された技量の差。

私は何もできないまま、空間に消えて行った男。ハルフォードを見ていることしかできなかった。

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