第7話 流魔

朝になった。

エルのお陰で気持ちの整理をつけることができた。

魔法を使う責任から逃げるな…。

いまいち意味はわからないが、

総量の9割はロックしたまんまだ。

あの魔法は怖いし、魔力総量に頼りすぎていた気がするし。

少ない魔力総量で戦う方法も学ばないと。

「マーリン、私、魔法で人を助けたい。」

言った。

思っていたことを。言えた。

「いいことじゃない。でも、襲われることだってあるわ。だから、自衛手段を教えてるのよ。」

そういうことか。


「マーリン、魔力総量が少なくなったときはどうすればいいの?」

気になっていたことを聞いてみた。

「そうねぇ…。魔力制御はできてるから、次は、魔力を抑え込むんじゃなくて、流す。つまるところ、「「流魔技術フロウ・アーツ」」を練習しようか。」

うーん…魔力を抑え込むんじゃなくて、流す?

魔力察知サーチを使ってみて。」

言われるがままに魔力察知を使う。

マーリンさんを見ると、

赤色、翡翠色の線が体をぐるぐる回っている。

魔力を溜めるときには、この線を抑え込んで溜めているが、流すらしい。

「魔力総量が少なくても、魔力を消費するんじゃなくて、流して再利用するってイメージかな。そしたら、総量が少なくても、うまくやれる。」

再利用すれば、そもそも減らないのか。

「具体的な特訓の方法って?」

聞きたいことは聞いとかないと。

「座って、魔力を回し続けることかな。それができたら、立って見たり、移動したりすることだね。基本的に、強い魔法使いは常時やってる。」

へー…。

「わかりました!やってみます!。」

そう言って離れて練習を始める。



【なぁマーリン。イアの魔力総量、少し減ってないか?】

「そうかしら?そこまで変わらないと思うけど。なんでそう思うわけ?」

【野生の勘ってやつかな。】

「あなたにはないでしょ。」





この練習は非常に難航した。

魔力の流れがうまく行き渡らないのだ。

多分基礎魔力総量にロックを掛けたからだと思う。

それでもゆっくり時間をかけて調整していくことにしよう。


ちなみに、ご飯はマーリンが作っている。

意外と美味しいのだ。

森から出たことがないから、いまいちどれくらい美味しいのかが言えないが、

少なくとも私は好きだ。


他の練習以外の時間は、マーリンの魔導書を読んだり、魔力をこねくり回したり、色々している。

ある日の練習の休憩時間。

夕暮れが差しこむ森の空気は、ほんのり湿っていて、静かだった。


私は、ちょこんとマーリンの隣に座った。

頬にはまだ汗が残っていて、呼吸も浅い。だけど、目だけは真っすぐだ。


「ねえ、マーリンってさ……昔から、魔法上手だったの?」


その問いに、マーリンはふっと笑う。


「上手って言えば聞こえはいいけど、そりゃあ最初は派手に失敗ばっかよ。火の玉が暴発して、部屋を焦がしたり、風魔法で自分の足なのにこけたりね」


「私、上手になれるかな?」


「きっとなれるわ。努力すれば。私、昔は王国魔法団の“教導官”やってたの」


「教導官って、前言ってた…王国?のお抱えの魔法団の魔法使いの中でもすごい人がなるやつじゃん!」


「ま、あの頃は“すごい人”ぶってただけだけどね」


マーリンはどこか、遠くを見るような目で木々を見た。


「毎年、才能のある子が集められて、競わせられて。教える側も、結果ばかり求められてた。──使えなきゃ、意味がないって」


「……」


「イアが“魔法で誰かを助けたい”って言ってたでしょ。ああいう場所にいると、だんだん忘れるのよ、そういう気持ち。力があるやつは前に出ろ、弱いなら消えろって」


私は拳を握る。


「そんなの、魔法じゃない……!」


「そう。だから私は、抜けたの。自分が何を教えてたのか、分からなくなって」


マーリンは片膝を立てて立ち上がる。


「でもね、旅をしていて、4大賢者になった時に思ったのよ。魔法を“使う”んじゃなくて、“共に生きる”って道が、まだ残ってるんだって」


「……!」


「だから、教えるの。私の知ってる全部を。あの頃の私が教えられなかったことも、今の私なら伝えられる気がする」


マーリンが手を差し出した。イアは、その手をしっかりと握る。


「さ、練習、練習!!」

「はーい」

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