第6話 超える
落ちているというのに頭は珍しく冴えていた。
ランク1風魔法「ウインド」を無詠唱で発動し、落下の勢いを一時的に緩める。
一時的ではあるが、十分すぎる時間が稼げた。
地上にランク2風魔法「
実験で一人ぐらい殺ってもいいよね!
八つ当たりだが、そう思っているほど悔しかった。
魔力を指先に今現在できる全力の出力の2割を圧縮していく。
降り立った私は先頭のオークの前に出て、手で銃の形を作る。
人差し指の指先には明らかに少女が出していいレベルじゃない濃密な藍色の魔力を
4大賢者大老「マーリン」の教えによる卓越した魔力制御で圧縮したのにも関わらず、さらにさらに魔力を練り込み圧縮していく。
その魔力制御の技術や繊細さは、すべてマーリンという師を超えるため。
隠れて寝る間を惜しんで努力し、才能だけではスタートラインに立つことすら成せないレベルの魔力制御。ほぼ無限に近しい魔力総量。
それらはもう既に総合的にマーリンを「超えている」
超える。それは、思いとなり、具現化する。
〈
それは、完璧なる魔力制御ができるようになった者に世界が授けたオリジナル魔法。
無詠唱ができないレベルの魔力制御が前提とされるため威力が少し下がる
無属性で放たれるはすべてを穿ち消し去る圧倒的な魔力の奔流。
地面は抉れ、木々は消し飛び、先頭のオークどころか後ろに連なっていたオーク、鳥でさえ羽ばたくまもなく消し飛んだ。
私は勝ち、生き残った。はずだが、私の心は訓練が終わっても晴れなかった。
ツリーハウスに戻ると、
【何かあったか?】
と、エルが気だるそうに聞くが、私はすべてを答える気になれなかった。
「ううん。大丈夫。」
そうエルに呟いて部屋に戻った。
【なんか。いつもと違うな。後で行くか。】
そうエルが呟いていたことも知らずに。
部屋に戻ったら吐いた。
やってしまった。
私は先頭の子だけを倒そうとしていた。
殺そうとしているわけでもなかった。
でも殺した。
私が。
なんで?
わからない。
どうして?
わからない。
あの子は死にたかったのか?
わからない。
どうして?
どうして?
どうしたら良かった?
どうしたら良かった?
頭が重くなってきた。
自分の考えで出てきた言葉がループしてまた吐いた。
鳥さんだって生きたかったんじゃないか?
オークだって先頭の子を慕ってたんじゃないか?
木々だって心があったんじゃないか?
地面の中にいたミミズ系の魔物だって生きたかったんじゃないのか?
そもそもとして私が生きていていいのだろうか?
私が数多の生き物を殺してしまったのに?
私だってその生き物の中の輪に入って仲良く過ごしてみたかったのに?
やりたいことを自分でやすやすと壊してしまう。
無意識で魔力が漏れ出していく。
藍色ではない、もっと暗いよどんだ紫。
バカバカしくなってきて自然と笑いが止まらなくなる。
「ふふ…ふふふふ…」
魔力がありすぎるのが悪いんだ。
そうだ。絶対にそうだ。
魔力にリミッターをかけていればこんなことにはならなかった。
マーリンやエルにバレないように魔力を制御して心の奥底に貯め込んでいく。
もっとだ。もっと。
減らないはずの魔力の量がどんどん減っていく。
魔力総量をいじれば、使える魔力量にリミッターをかけれる。
でも、基礎魔力量は変えることができない。
だから、自分の基礎魔力量の9割は私でさえ解除できないレベルのロックを掛けた。
マーリンでさえわからないような隠蔽をかけて。
「イア。なんかあったんだったらちゃんと言いな?」
いつの間にか入っていたエルが言う。
「特に…なん…も…ない。」
ああ。やっぱり私の問題は自分で解決しなきゃ。そう考えてしまう。
パチン!
頬につたわる痛み。
叩か、れた?
【抱え込んでしまっちゃだめだよ!】
強く言われた。エルに?
「言えないものは言えないもん!!!」
言ったほうがいいこともわかってた。
言わなきゃいけないのもわかってる。
でも、言う気になれなかった。
【いいか、イア!魔法っていうのはな!強さじゃなくて“責任”だ!逃げんのか?】
ただ諭すのではなく、エルらしい力強さを感じる諭し方だった。
責任。考えたこともなかった。
【マーリンに聞いてみな。責任とはどんなのかってな?あいつも、苦労してたんだよ。】
夜はゆっくりと更けていく…。
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