第21話 蕾

つぼみは、小学6年生だった。



蕾は、見た目は他の6年生に比べて小さい…

そして、ハッキリ言って不思議ちゃんだった。



一時は、アイドルになりたいって言って…

アイドルの練習をしていたらしい。



蕾は、母の養育困難で施設に来た。

蕾の母は離婚後、精神状態が悪くなった。

施設にも、夜中だろうと電話をして来た…

そして、私が入る前に

母は、自〇したそうだ…



母は、亡くなる前日に

ホームに電話を掛けてきて・・

蕾の様子を聞いた。

いつも通りの母だったと…



翌日、母が亡くなったと聞いて…

職員が蕾を連れて…

県外の母の実家に行ったそうだ。



蕾は、それでも明るく振舞った。

みんなの前で、踊ったりするから…



みんなに



「アイドルになりたいんでしょ?」



踊ってよーとからかわれる。





蕾は、本当に不思議ちゃんで…

急に…



「地球は、滅亡するんでしょ?怖いよー。心配で眠れない…」



と突拍子もないことを言ってくる。



「学校で、何か習ったの?」



と聞いても…



「ううん。習ってない…私が思っただけ…」



ホントに…突然



「おばあちゃんから聞いたけど、おじいちゃんが具合が悪いんだって。おじいちゃん死ぬのかもしれない…。どうしよう?」



おじいちゃんは、そんなに悪いわけじゃないのに…

すごく心配していた。



それを、心理の先生に相談したら…

小さい時の、トラウマからかもしれないと…



蕾は、変なことばかり言うから

みんなにイジラれることも多かった。



でも、職員の私もついつい…

いじりたくなるような…

可愛い子だった。



長期休暇には、県外のおじいちゃん、おばあちゃんの所に帰省する。

田舎みたいで…

蕾は、帰ったら楽しかったことを沢山話してくれた。



1年目と2年目は、感染症の流行で

プールも中止になった。

でも、蕾たちがホームに来た年はプールがあったから

職員は、その準備に追われた。

奥にしまわれていた、水着とタオルと帽子を出して…

子ども達に着せて…サイズを合わせて…

名前を縫い付けなければいけない…



子ども達も、3年ぶりのプールだった。



中学生は、嫌がるけど…

小学生は、プールに入るのが大好きだ…



蕾は、可愛い巻きタオルが欲しかったのだけど…

決めるのは、中学生の大きな子からと決まっている。

可愛いのは、どんどん無くなっていった…

寂しそうに…



「蕾、これでいい…」



と気に入らないタオルに決めていたけど…



大きな子が、急に



「やっぱり、これにする」



って返しにきた。



そこにちょうど居合わせた蕾は…



「先生、それに変えていい?」



「いいよ」



その、顔はすごく嬉しそうで…本当に可愛かった…



そして、プールに入る時は

男子も一緒だから…

蕾は、いつまでもタオルを巻いて…

プールに来なくて…

怒られていた。



でも、入ってしまうと、さっきまでの恥ずかしい態度はなんだったのか…

と思うほど、はしゃぎまくっていた。





蕾には、肉親が祖父母しかいない。

祖父母も、いつまでも元気でいられないだろう。



蕾は、もうアイドルは止めた…

ケーキ屋さんになるって言っていたけど…



そんな蕾も、もう中学2年生…

もう夢も変わったかもしれない。



蕾が、夢をつかんで…

自立した生活ができますように…



そして、誰かの愛を沢山受けられますように…


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