第20話 南

みなみも、小学6年生だった。



南は、さくらすみれの妹だ。

9人きょうだいの、6番目…



南は、喘息持ちで…

食物アレルギーもあったけど、治療して食物アレルギーは直った。

でも、時々喘息が出るから服用は必須だった。



子どもを通院に連れて行く時は、職員が連れていく。

でも、少ない職員の中で通院に連れて行くのは大変だった。

ホームには、常に1人しか職員がいない。

たまに、シフトの都合で日勤があるけど…

滅多に日勤を組めない。

そうなると…

薬だけを貰いに行くしかなくなる。

この頃の、ホームは職員3人で夜勤ばかりしている状態だった。

1人が休む。2人は夜勤明けと、夜勤…



近所には、診療所しかない。

離れた場所の小児科に行くのも大変だった。

夜勤に入る前に行くしかない…

結局、南と通院に行ったことは無かった…

幸い、南の状態は良くなっていたから

医師にお願いして薬を貰うだけにして貰っていた。



南は、勉強も出来るし学校で困らせることはしない子だった。

でも、生活面では出来ないことも結構あって…

小学生の洗濯物は、職員が取り入れて畳んで

共有のスペースに置いておく…

それを、それぞれが自分の部屋に持っていくのだが…

それを、南は…なかなか持っていかない。



「寝る前までに、持って行かなかったら職員の部屋に持って行くからね」



と、口を酸っぱくして言っているのだけど…

南は、いつも持っていかなくて…職員の部屋に持って帰ることになる。



すると、南は…翌日



「先生、体操服がない!」



と叫びながら、やって来る。



「だから言ったでしょ!ちゃんと持って行かないからだよ」



「えへへー」



それを毎日のように繰り返していた。



施設では、5月と11月にイベントをする。

その時に、男子ホームと女子ホームで

みんなが参加できるような…

輪投げや、ストラックアウトを職員が準備してやる。

ゲームをして、景品を選ぶ段階になると…

南は、いつも悩む…

自分で決めるのが苦手なのだ…

決めるのに、すごい時間が掛かっていた。



施設の子は、南だけではなく…

自分で決められない子が多い。

創作物も、決められた物なら作れるけど

自分で一から作ることが出来ない…

ルールに縛られて生活しているから…

そうなるのかもしれない…



だから、施設を出ると…

色々なことを自分1人で決められない子が多いという。



施設では、朝ごはんの時にご飯が余ったら

ホームに持って帰っていいことになっている。

朝ごはんは少な目…

だけど、女子はあまり食べない子が多い。

でも姉妹3人は、よく食べる。

南は、いつも…



「ご飯、貰っていい?」



と聞いてきた。



「いいよ」



と言うと、満面の笑み…



そして姉妹で、ふりかけを混ぜて、おむすびを作る。

職員としても、ご飯を余らせたくないから…

すごく助かっていた。





父から、貰ったお菓子も…

桜と菫は、少しずつ食べるけど…

南は、あっという間に食べてしまう。



「もう、食べたの?」



「うん!」



その笑顔が可愛かった…



いつか、きょうだい揃って

一緒に暮らせる時が、早く来ますように…

そして、自分で何でも決められることが出来るようになりますように…


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