第18話 夏

なつは、私が3年目の時に、小学6年生になって…

低学年のホームから来た子だ。



夏は、施設歴でいうと…一番長い…

幼児の頃から、施設にいる。



夏は、両親が離婚して父の元にいたが…

育てにくい子だったのか…

父と祖父が、他の子は可愛がるのに

夏だけに、虐待をした。



今は、長期の休暇だけ帰省をしている。

夏は、帰省の前にしか家に電話をしたいと言わない。

夏の家からも、電話は掛かってこない。



夏は、下のホームでもヤンチャだと有名な子だった。

それが…このホームに来て…

周りも驚くほど…大人しくなった。

それは、怖い先輩がいっぱいいるからだ。

一番上の子は、その頃には高校2年生になっていた。

夏は、その先輩たちに気に入られようと…

一生懸命だった。



小学生の洗濯物は、職員が洗濯を回し…

職員が干すのだけど

夏は、低学年のホームでやらかしたことの反省で

洗濯を干すのを手伝うということになっていた。



洗濯を干す時間は、おやつを出してあげたり…

高校生のお弁当を一緒に作ったりと何かと忙しい。

だから、夏が干してくれるのはすごく助かっていた。



「夏が、手伝ってくれると…先生すごく助かるよ。ありがとう」



そう、言うと…

夏は、照れていた。



夏は、反省の時期が過ぎても…

洗濯を干すのを手伝ってくれた。



他の友達と一緒になって…

私に見つからないように

洗濯物をカゴに入れて…

こっそり干しに行ってくれた。

気が付くと終わっていて…

本当に助かっていた。



褒めると…みんな嬉しそうに笑う…



一度、夏が学校の屋根に上がっていたと

学校から連絡があったから、上司の男の人が

ひどく怒ったことがある。

夏は、大泣きしていた。



「後は、紬先生と話して」



と上司がいなくなって…

どうしたものかと思ったけど…

夏は、喋ることも出来ないくらい…

ヒックヒックしていた。



「少し、落ち着くまで…待つよ」



時間が経って、落ち着いてから話をした。



「なぜ、屋根に上がったの?」



「楽しそうだったから…」



「そうか…夏は、大丈夫だと思ったかもしれないけど、ケガするかもしれない。先生たちは、夏のことが心配だから怒っているんだよ。夏は、このホームに来て本当にいい子になったよね。先生は、それがすごく嬉しかったんだよ。だから危ないことは止めて欲しいな…」



「はい…」



夏は、泣きながら話を聞いてくれた。



それから…何かあると



「先生、聞いて」



学校であったことを話してくれるようになった。



冗談で、私が辞めたらって話をした時に



夏は…顔色を変えて



「えっ、先生辞めるの?」



って言ったから…



「大丈夫、辞めないよ」



私は、そう言ったのに…

退職してしまった。



それから、夏は…

また、悪くなったみたいで…



他のホームから来た職員と

バトルをしていると聞いた。



顔色を変えた時の夏の顔が忘れられない…



夏には、本当に悪いことをしてしまった。

年齢にすると…お婆ちゃんの年齢の私を慕ってくれて…



今では、中学2年生…

夏は、落ち着いただろうか…



夏が、家に戻れる状況になるかは…分からない。



高校生まで、施設にいるのか分からないけど…

夏は、幼児から施設にいるから…

貯金も沢山たまっていると思う。

それを、悪用されないように…



自立した女性になれますように…

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