第13話 桜

さくらは、中学1年生だった。



ついこの間まで、小学6年生だったのに

桜は背が高く、そして大人っぽい子だった。



桜は、9人きょうだい…

施設には、姉・兄・妹3人がいた。

姉は、高校生のホームにいたから話したことは無かったけど…

桜達は、両親の離婚で父が1人で面倒見切れずに…

養育困難で施設に来た。

でも、父の元に帰省もしていたし…

父は、子ども達のために

お菓子を持たせたり…

服を買ってあげたり…

学校の行事があると、欠かさず来るような人。



最初に、桜と話したのは

私が、ホームの実習で来ていた時だ…

桜は、音楽番組を1人で見ていた。



私も、音楽が好きだったから…



「これって○○だよね?」


「はい」



それだけの会話だった。



桜はシャイな子で、慣れるまでは時間が掛かったけど…



みどりの耳かきをしていると…



「先生、私もやって」



と言ってきた。



そうなると…他の子も



「私も…」って言ってくる。



でも、この時間が…

子ども達と、身近で触れ合える時間だった。



施設では、高校生からしかスマホを持てない。

パソコンを扱えるのも、学校の授業や休憩時間だけ…



テレビは、取り合いになる…

特に録画は…早いもの勝ちに…



施設の録画機器は、2番組まで…

それを順番にとっていくんだけど…

どうしても撮れないものがあると…



桜は


「先生、お願い。これ撮って」



と頼んできた。



私は、家で録画してDVDにおとして

持って行った。



桜は、ずっと同じ歳の女子がいなかった。

同級生は、男子ばかり…

それが、悩みだったようだ…



なぜか、新しい子に桜の同級生が来ない。



ただ、1人女の子が来たとして…

気が合わない子だったら嫌だし…

2人来て、仲間外れになっても嫌だし…

来て欲しいけど…

って悩んでいた。



桜は、普段は明るく喋っているのだけど…

怒られると…

黙り込んでしまう。

何も、話せなくなるのだ。



そんな子だったけど…

本当に優しくて、きょうだい想いの子だった。



見た目もすごく気にする子で

服や、髪型にも気を遣っていた。

少し男の子っぽいけど…

女子らしい面もある。



ただ…小学生の時から着ていた1枚の服を

中学生になっても着ていた。

すごく大事にしていた。

それは、お母さんに買って貰った服だから…



姉は、成績が良い子で…

高校を卒業してから、短大に行った。

1人暮らしを始め…バイトもして…

すごく頑張っていた。



桜の母は、県外で再婚した。

それを知った時には、桜は寂しそうな顔をした。

でも、母から誕生日の荷物が届いた時には…

すごく嬉しそうだった。



その後、同級生の女子が施設に来たらしく…

その子と一緒に、公立高校に合格して高校生のホームに移ったと聞いた。

初めて、きょうだいと離れた生活は

どうだったのかな…



きょうだいも多いから…

なかなか、施設から出れないと思うけど…

数年後、高校を卒業する。



どんな大人になるのか…

楽しみだ。



桜とは、音楽の趣味が合っていたから…

私が買ったCDを貸してあげた。

戻って来ないまま…

私は、退職してしまったから…

もう返って来るとも思っていないけど…

大事にしていてくれたら、嬉しいな…



どうか、きょうだいとともに

幸せな人生を歩めますように…


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