第5話 新人新聞記者
はじめまして。
今回、自分が調べもののお世話をさせていただきます。よろしくお願いします。
あ、若いんで驚かれました? だいたい同い年ぐらいですもんね。自分も編集長から言われたときには正直、「なんでオレ!? 」と思いましたし。
いや、新聞社内でも担当者についていろいろ検討したんですよ。なんせあの先生が他人を紹介なんてめったにあることじゃないもんで。
ただ、今じゃ革命のころから活躍している先輩方なんか軒並み退職していますし。前回の「月影をまといし」頃に現役だった人たちは管理職として残ってもいるんですが。
まぁ、自分が今の部署で一番の新入りなもんで。
お話では、革命時代から活動していたという「怪盗紳士」について調べにくる人物の案内と手助けを、とお聞きしているんですが。
自分もそのころはまだガキんちょでしたし、資料倉庫の中で手助けになりそうなものをいろいろ見繕ってみたんですけどね。
たぶんこのあたりが最初期の頃の記事です。
『クアルタンプス男爵夫人、ご自慢の大粒ダイヤのブローチ盗難さるるか?』
『またも怪盗紳士 夜会に出没 外聞はばかり被害届は出さない方向で』
『弱者いじめで話題のノックス伯 家宝の絵画 怪盗紳士に盗まるる』
……時代、なんですかねえ。
いかにそのころの貴族が鼻持ちならない連中か、いかに平民が彼らを嫌っていたか、そしてそういう鼻持ちならない連中相手にやってのける、かの「怪盗紳士」がいかに痛快と受け取られていたかがわかる見出しですよね。
それが革命がおこると一気に話題が出なくなって。
……活動をやめたわけじゃないんですよ。書けなくなったんです。
一説には裏で革命政権に協力していたという噂がありました。後日その通りだったと公表されましたが、その時期にはわかりませんでしたし。
ある時には革命政権内の権力争いの関係に関与していたのか、そういう情報が出たこともあったのですが……ほら、この記事です。
『ジュコバント侯爵邸の書類盗難 主犯の怪盗紳士に革命政権の影』
そう書かれた日の翌日の一面には……。
『訂正のお知らせ:先日お知らせした「ジュコバント侯爵邸の書類盗難」は事実と異なると判明したためここに訂正いたします』
……早々に訂正させられた、というわけらしいんですよ。
いやぁ、政治闘争ってほんとに怖いっすよね。
それからほんとに関与した事件らしきものもまったくといって無くなって、もう引退かと思っていたら……前の記事から10年ぐらいたった頃ですね。
『産業大臣宅にて盗難 全警察が目下犯人を捜索中』
自分たちの世代で怪盗紳士ってったらこのあたりですよね~。
ここから時の政権の大臣を中心に犯行が重なるわけで。
『運輸大臣宅に侵入者 怪盗紳士風の犯人像』
『政府により秘密裡に移送中の馬車 怪人物に襲撃されるか』
そして、時の宣伝相による”反怪盗紳士キャンペーン”ですよ。
いまでこそあの当時の宣伝相は情報を扱う者の悪しき見本みたいな言われ方なんですけどね、当時はそれがその時代の「真実」だったものですから。
『怪盗紳士、その正体とは』
『かつての革命政権の協力者「怪盗紳士」、友に牙剥くその懐事情』
『「怪盗紳士」を支える女の影 その泥沼にも似た愛憎劇』
『貴族時代の悪しき風習「呪いの力」を得て「月影」をまとうその忌まわしき所業』
そして……大失敗に終わったわけです。
『怪盗紳士、衆人監視の中宝物を奪取』
その後も革命政権権力者への犯行が続きまして……ええと、『宣伝相、解任』の記事はどうでもいいから……そう、これこれ。
『大本営に「怪盗紳士月影」出没か 深夜にわかの軍事訓練』
『尼僧院墓地にて騒乱の通報 前大統領の関与あるか』
ここから。この時点でその行方がぱったりとわからなくなってしまったんです。
……これらが怪盗紳士月影のあらましということですが、政府、警察、新聞社、記者、総出でおいかけて記事として出せたのがこのあたりということですね。
実際どこまでやっていたのか、その全体を知る者は、本人しかいないんじゃないでしょうか。
……この前定年退職した先輩が「俺が辞める前にアイツの正体だけはすっぱ抜きたかった……」と言ってたっけ。
長い自分の記者人生の中で、自分もいつかそう思えるような事件に出会うことができるんでしょうかね。
先生だって自分と年の頃も変わらないのに「怪盗紳士」について調べようとしてるってのに……先生?
何か面白い記事でもありましたか?怪盗紳士最後の事件と目される日の新聞記事ですよね?
すごいなぁ。
……先生、怪盗紳士に直接会った方にお会いしたくないですか?
つてがあるんです。怪盗紳士事件の被害者。気さくな方で自分みたいな木っ端記者でも話をしてくれるんで。
そんで、そんでですよ、お願いがあるんですが。
……先生、もしこの後も怪盗紳士について調べるつもりなんでしたら、オレ、手伝ってもいいですかね?
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