第三十二話 世界をかけたコマンド入力
一人目 青岬海斗
要求アクションコマンド『→・→・←・→・○・□・○・×・△・□』
入力アクションコマンド『←・→・←・→・○・□・○・×・△・□』
経過秒数二・八秒。判定 “Bad”
残り回数 二回。
「うぇっ…………!」
俺は目の前に表示される判定、“Bad”の文字に変な声が出た。
「海斗てめえ、なにやってんだよ! 凡ミスしやがって!」
「そ、そんな……ばかな……」
俺の手からはだくだくと脂汗が流れた。
このコントローラーに地球の未来がかかっている。緊張して当然だろう。しかし、それにしたってやってしまった。
本来であればこういったミスはゲームにあまり慣れていない椎名のために保険として残しておくべきだったのだ。本当に俺のバカ、もう知らないっ!
「みんな……ご、ごめんよぉ」
俺は半泣きでみんなに助けを求めたが、みんなは冷たく視線を背ける。幻滅されたと絶望していると、椎名が突然ぷっと笑い出した。
「ふふ、緊張しすぎだよ。海斗くん。すっごい顔してたよ……んふっ……ぷっ」
椎名が口元を押さえて耐えきれず笑い始めると、もう止まらなかった。ここまで思い出し笑いの女帝だったとは。それはそれで可愛いけども。
「ほんとダメなリーダーねー、まあでもちょっとは気が紛れたかもね」
「これがリーダーの底力……?」
「ごめんって空ごめん」
声に怒気はないが、なにかとても嫌なオーラを空から受け取った。しかし俺の凡ミス行動も少しはパーティーに献上できたようで、状態異常プレッシャー・緊張を解除することに成功した。結果オーライ……ではないですよね。本当に申し訳ありません。
「よし巻き返しと行こうぜ、次は俺がトップバッターをやるぜ!」
涼介が吠える。
■二回目
一人目:藍染空
要求アクションコマンド『↑・→・↑・→・○・×・○・△・↑・↑』
経過秒数二・三秒。判定:“Excellent!!”
「いやいや、なんで俺にならねーんだよ! 俺の心構えはなんだったんだよ!」
「……きっとランダムなんだろう」
空が余裕綽々と“Excellent!!”の文字に浸っている。
残り回数は二回と出ている。三回の失敗でアウトのようだ。失敗できるのはあと一度だけだ。
二人目に選ばれたのは再び俺だった。先ほどの失敗のおかげか、思った以上に落ち着いてコマンドを入力できた気がする。難なくクリア。続く三人目は涼介だった。格ゲーオタらしく、現メンバーの中で一番入力が速く、正確だった。四人目には美羽が選ばれ、経過時間ぎりぎりだったがなんとかクリア。そして五人目の椎名は――失敗した。
「わたし格闘ゲームなんてやったことないよう」
おいおいと泣き始めてしまう椎名。
「なんでこんなゲームシステムにしたんだよ海斗。椎名泣いちゃったじゃんかよ」
「必殺技はコマンド入力って相場が決まってるだろ! し、椎名……その、ごめんね。泣かすつもりはなくて……あの……ほんとごめん」
「どうせなら音ゲー風にしてくれればよかったのに……」
空がぼそりと言う。
「あー、あたしもそれがいい! 今から変えらんないわけ? ナチュに訊いてみなさいよ」
俺の穴だらけのゲームシステムにケチをつけるナチュの陣。ロマンを追い求めた結果なのだ。
「なんで地球の危機を救うのが音ゲーなんだよ、絶対おかしいからそれ!」
「そもそもゲームで地球を救うってのがそもそもおかしいわよ! このキモオタ!」
「それ結構前から気にしてるんだけど、俺一体いつからキモオタキャラになったわけ?」
「おっ、珍しく海斗がキレたぞ、温厚平和主義野郎もキモオタには精神的ダメージか?」
低俗な言い争いを繰り広げていると、椎名の笑い声が響いた。
「ふふふ……海斗くんのお家で遊んだときみたい……」
椎名は遠い目をして笑みを零した。
俺たちはお互い顔を見合わせて笑った。
「もう十年も前だけどね~……なんだか懐かしいわね、椎名っ」
美羽は笑いながら椎名の柔らかそうな頬をつまんだ。
「えへへ、いひゃいよう、みうひゃん」
「あんたはついついイジメたくなっちゃうのよ、んふ、もうかわいいんだから」
「ひゃあんっ」
成人を過ぎて大人になった俺たちが宇宙空間でゲームのコントローラー握りながら、地球の命運をかけた人生ゲームを繰り広げているなんて、信じられるだろうか。
真剣だけど、笑いながら。プレッシャーに押しつぶされそうだけど、楽しみながら。
そんな昔ながらの友達関係が今も続いていることが、俺は心の底から嬉しかった。
世界を救うことはもちろん大切なことだ。
――だが、今だけは、そんなことを忘れて、この瞬間を噛みしめていたい。
「海斗くん……?」
「ううん、なんでもないよ」
笑みが消えない俺を不思議そうな表情でのぞき込む椎名。
「お前はこんなときになーににやにやしてんだよ! にやにやマン初号機」
涼介が俺の肩を抱いた。そう言う涼介だって相当にやついている。
みんなも俺と同じように今このときを、楽しいと思ってくれているのかもしれない。
「よし、頑張ろうみんな! 次がラストチャンスだよ」
「いやお前が一番焦ってたじゃねーか」「忘れたとは言わせない……」
涼介と空の突っ込みを俺はスルーして、俺は大きく息を吸って叫んだ。
「ナチュの陣……いざ出陣!!」
「「…………ぉ、おぉ~」」
最後まで締まらない。それがナチュの陣らしさなのかもしれない。
「ちょっとあれ見て!?」
驚愕した美羽が地球を指差した。もの凄いスピードで、高エネルギー体が近づいている。
「…………カオスナチュだ、涼介! 早く必殺技の起動を!」
「行くぜ、みんな……構えろよ! 世界が俺たちにかかってるんだ!!」
俺たちはコントローラーをこれでもかというくらいに強く握った。
地球の命運が決まるまで――あと少し。
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