第29話、ユーレイセン

 いい天気だ。

 ゆったりした河の流れのなか、のんびりと船が行き交う。

 今も昔も、河はものを運ぶのに重要な役割を果たす。

 ”アールヴ“の首都も河沿いにあった。


 潜砂艦^アマテラス”は、首都を目指して、“ヤマタ河”を上っている所だ。

 暗車スクリュー航行が珍しいのか、小さな船が珍しげに寄ってくることがあった。

 船は、マストと帆が主流である。


「おっと、見えてきたぞ」

 艦橋で、エルザードが言った。


 遠くに大きな都市が見える。


 首都、“サーハリ”だ。


 その都市の周りを、河がクルリと回り込んでいた。

 水路兼お掘りのようだ。

 港が都市を、囲んでいるようになっている。


「三番ドッグへ、入港をお願いします」

 無線が伝えてくる。


 潜砂艦“アマテラス”は、軍艦であり海賊船でもある。

 周りが壁に囲まれて外からは見えない、ドッグに入港する。


 “アマテラス”の乗組員が、アールヴ王と謁見した

 ファラクもエルザードも、王の子供だが、数えるくらいしかあったことはない。

 目の周りがどことなく似ていた。

 簡単なあいさつで終わる。


「いま、モンジョとの関係が悪化している」

「数年前から、南の諸国への奴隷売買の、密輸が増えているのだ」

 王の近くにいる宰相が言う。


 “モンジョ古王国”と、南の国は“アイール山脈”によって分けられている。

 どうしても、アールヴ国内を通らないと南には行けなかった。

 数年前は、奴隷商人が大型の飛行船で山脈を越えていたようだが、今は捕まっている。 


「密輸の航路の”偵察と監視“が、”アマテラス“の主な任務にだ」


「砂の中なら、モンジョ国内にも入りやすいだろう?」

 宰相が言った。

「極秘任務だ。 なるべく目立たないように行動するように」


「はっ」

 必要な報告を終え(クルックと”ヨモツヒラサカ“のこととか)謁見が終わった。


 補給を終え、潜砂艦、”アマテラス“は、南東にある、”アールヴ“と”モンジョ古王国“の国境付近を目指す。



 今、潜砂艦”アマテラス“は、通行量の少ない航路を選んで、砂上を南西に向かっている。

 目立たないようにするのと、密輸船がいるかもしれないからだ。


 早朝だ。

 白い霧が出てきた。


「視界不良」

「周りの監視を厳にせよ」

 手の空いているものは、双眼鏡で周りを監視する。


「キャプテンッ、右舷に船影」

「何かおかしいですっ」

 

「わかった」

 エルザードが、ブリッジについている、測距用の大型望遠鏡でみた。

「むっ、これは」


 黒いもや。

 折れたマスト。

 ボロボロの船体。

 黒く染まった魔紋。 

 甲板上をぎこちなく動く人影。

 船首の上部には大きく、稲穂イナホをモチーフにした、模様が描かれていた。


「ゆっ、幽霊船だっ」

 近づくと、魔紋に精神が侵される。


「……艦砲射撃用意っ」

 エルザードが叫ぶ。


「艦砲射撃用意」

 復唱が帰って来た。


「近づく前に仕留めたい」

「飛行艇、”イザナミ“、上がってくれ」

 測距と命中の確認の為にだ。


「了解っ」

「わかりました」

 後部甲板から、飛行艇”イザナミ“がスクランブル発進。

 白い霧の中を飛んだ。


 飛行艇”イザナミ“は、幽霊船の上を旋回している。


「発見、方位○○、距離××」

 無線で”アマテラス“に報せる。

 

「ここまで”ケガレ“ていたら、もう燃やすしかないわ」

 ファラクが、船の上をうごめく、人影を見て言った。


「あれは……、船主ね……」

 手の魔紋から黒いもやが出て、船に繋がっている。

 肩から斜めに、何かに切られたような跡があった。 


「焼夷榴弾がいく、離れてくれ」


 ”イザナミ“が機体を翻(ひるがえ)した。


「発射」


 ドキイイイイン


 甲高い発射音だ。

 白い霧に大きな穴をあけて、砲弾が飛んでくる。


 ズバウン


「着弾、いまっ」

 船の少し手前におちて、炎の柱を作った。


「修正、×メトル手前におちた」

 イオリが、着弾位置を報せる。 


 ギ、ギギギギ


 幽霊船が、”アマテラス“の方へ船首を向ける。


「二射目、発射」


 二発目の焼夷榴弾は、船に命中して、船を燃やし始めた。

 船の上の人影も炎の中だ。


「つっ」


 シャラン


 ファラクは、鈴を鳴らし、鎮魂の歌を口ずさんだ。

 

 船が燃え尽きて、黒いもやが無くなるまで待った。

 船に乗り込んで、調査する。


「盗賊に襲われたみたいだな」

 エルザードだ。


 ”アマテラス“は、少し焼け焦げた稲穂イナホを模したキャラバン旗を回収した。



「あっ」

――そう、逝けたのね……、父さん

 フィッダの、手の甲の魔紋が、ゆっくりと消えていった。


 フィッダは静かに涙を流している。


「おいっ」

「……泣いているのか?」


 コクン


 フィッダがうなづく。


 クルックは、泣いているフィッダの顔を隠すように、両腕で抱きしめた。

 

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