第28話、カクニン
潜砂艦”アマテラス“は、”ヤマタ河“の近くまで来た。
スコールが過ぎた後、天気は晴れだ。
青い空が広がっている。
眼下には、緑色をした畑。
小さな林のようなものも見える。
民家の壁は茶色い。
その間を、砂地を残した砂上船用の航路が走っていた。
コオオオオ
その上を、イオリとファラクは、飛行艇、”イザナミ“で飛んでいた。
可変翼を最大まで開いている。
時折、キラリと銀色の魔紋が、日の光を反射させた。
キャノピーを、後にスライドして開けている。
「航路の確認を頼む」
「先に一隻、小型の船がいるよ」
ファラクが、無線で答える。
「了解した」
航路は、”アマテラス“が一艦、航行できるくらいの幅である。
安全のために艦を停止、ギリギリまで端に寄せた。
「ありがとう」
小型の民間船は、礼を言ってすり抜けていく。
’アマテラス”の艦橋は二階建ての家くらいの高さがあった。
艦橋からクルーが手を振っている。
「もう少しで、川に出ます」
「航路クリア」
イオリが無線で知らせた。
イオリは低空を、ゆっくりした速度で飛ばす。
“ヤマタ河”上空に出た。
「大きいなっ」
対岸が見えない。
川幅は、10キロメトルくらいありそうだ。
「ふふふ、広い所で、20キロくらいあるわよ~」
ファラクが自慢げに言う。
「すごいっ」
低空を飛んで、川面に白い線を引いた。
砂上船は、当然水上も航行可能だ。
色々な大きさの船が、行き来している。
ひと際、大きな船が見えた。
二本あるマストに帆は、張られていない。
船体の横に、
「あれは、モンジョの大型船ね」
「ドウタクサイズよ」
“モンジョ古王国”の、造船所“タタラバ”製。
ドウタク>ハニワ>ドグウ、の順で大きくなる。
――あの
ここ数年、奴隷売買に関して、“アールヴ”と、“モンジョ‘の関係は、急速に悪化している。
「川についたぞ~」
無線から聞こえてきた。
「了解、帰投します」
モンジョの大型船の上を一度飛んでから、”アマテラス“に向かった。
川面に白い波を出しながら、”アマテラス“が浮いている。
ドウタクサイズより二回り小さいくらいか。
「着艦します」
艦後部にある、飛行甲板に後ろから近づいた。
「垂直離発着モードに変更」
イオリだ。
「了解~」
ファラクが答える。
『イザナミ』の着艦に、”アマテラス“が少し沈んだ。
◆
周りは一面の砂漠だ。
所々に、キャラバンの航路を表す、目印となる看板が立っている。
空は晴れているが、遠くの方に黒い雨雲が見えた。
スコールが来るかもしれない。
「気分が悪くなったりしてないか」
クルックは後席の、”フィッダ“に声をかけた。
クルックは、飛行艇、”ヨモツヒラサカ“の後部座席に、フィッダを乗せて飛んでいる。
「大丈夫」
フィッダが答えた。
「……ありがと」
シャラン
後席から腕を伸ばして、クルックの頭を撫でた。
腕についた方形の鈴が音を立てる。
「う、ううっ」
クルックは、思わず顔を赤らめた。
フィッダから、何気ないボディータッチが増えているような気がする。
――魔紋を鎮めるために違いない……
クルックは、そう思うことにした。
今、二人と”ヨモツヒラサカ“は、砂漠の航路の上を飛んでいる。
航路の安全確認のためだ。
ローズキャラバンの船長、”ローズヒップ“に頼まれた(やとわれた)のである。
ローズキャラバンは、”モンジョ古王国“の、王都『ヒミコ』に向かっている。
”モンジョ古王国“はその名の通り、周辺国に比べかなり古い国だ。
”
”国巫女“や、”船巫女“、”魔紋“は、”ヤヨイジダイ“とよばれる、異世界から持ち込まれたと言われていた。
「航路上に船は見えない」
「ただ、スコールが来そうだ」
無線で伝える。
「分かったよ~」
「ふらないうちに帰っておいで~」
ローズヒップの声が無線から聞こえる。
「了解」
「……調子はどう?」
フィッダが聞いて来た。
「……頭痛とかはないな」
クルックが少しためる。
「気のせいかもしれないが、機体の調子がいい」
「……スロットルとか、可変翼とか勝手に動いてるような気がするのだが……」
「ふふふ、この子(ヨモツヒラサカ)があなたを仲間だと思ってる」
珍しく、フィッダが笑った。
シャラン
答えるように”ヨモツヒラサカ“の魔紋が、一瞬、銀色に輝いた。
ザ、ザザアアアアアアア
スコールが降り出した。
キャラバン船の後部にある飛竜用甲板に、大慌てで着船させる。
大雨で視界が悪い中、スムーズに着船出来た。
「ふうむ」
――やはり、こちらの意を組んで機体が勝手に動いてるなあ
クルックは、無意識の内に、”ヨモツヒラサカ“の機体を優しく撫でた。
フィッダが、柔らかい表情でそれを見ている。
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