第27話、シンショク
砂嵐は通り過ぎた。
空は晴れていた。
遠くの方に、白い入道雲が見える
潜砂艦”アマテラス“は、首都”サーハリ“に向かって、砂上を北上中だ。
手の空いているものは甲板に、外の空気を吸いに来ていた。
イオリとファラクが、甲板にいる。
「そろそろ”イザナミ“を飛ばしたいなあ」
イオリが、抜けるような青空を見渡しながら言った。
「砂漠に来てから、一度も飛ばしてないわねえ」
ファラクだ。
「そういや、この艦で飛行艇、”イザナミ“は何をすればいいんだろう?」
――砂嵐が来たら飛べなくなるし
イオリが首をかしげる。
「砂漠では、あんまり飛べないわねえ」
ファラクが腕を組む。
「よっ」
後ろから声がした。
「あっ、かんちょ……、キャプテン」
振り向くと、エルザードと、船巫女二人が歩いて来た。
「こんにちは」
「こんにちは」
キレイにはもった。
「ああ、飛行艇が何をするかだよな」
どうやら聞いていたらしい。
「そうだなあ」
エルザードは艦内に戻り、無線を取る。
「ブリッジィ、大砲出してくれ」
「アイアイ、キャプテン」
前部甲板の一部が、左右に開いていく。
開いた後、下から後込め式のカノン砲がせりあがって来た。
「主武装の、88ミリカノン砲だよ」
「飛行艇、”イザナミ“には、これの測距と、着弾位置の確認をしてもらうかな」
目標までの方角や距離、着弾位置のずれを観測する。
「まあ、他に偵察とかもあるけどね」
「下げていいぞ」
大砲が下がっていった。
扉も元のようにしまる。
「わかりました」
「わかりましたわ」
二人が答える。
「
「はい」
次の日、空が曇っている。
スコールが来そうだ。
遥か前方に、建物や緑が見えてきた。
「ヤマタ河に近づいてきたわね」
「意外と緑豊かなんだな」
「ヤマタ河は、大きいから」
ポツリ
大粒の雨が落ちてくる。
ザ、ザアアアアアアア
突然の大雨に、二人は大慌てで艦内に入った。
「ふってきた、ふってきた」
イオリは、隔壁が下ろされた、格納庫の丸いガラス窓から外を見た。
叩きつけるような雨だ。
「恵みの雨よ~」
ファラクが後ろから、窓の外を見ていた。
二人は仲がいい。
◆
「王都、”ヒミコ“に真っすぐむかえっ」
カスマールだ。
フィッダの踊りのおかげか、元気になっている。
しかし、何かにとりつかれたようなきびしい表情だ。
「いや、と言われても……」
ローズヒップが渋面を作る。
「平民がっ、俺は子爵だぞっ」
「それに、”エンバー伯爵家“の手紙もあるぞっ」
懐から、丸められた手紙を出す。
”エンバー家“の紋章が入っていた。
当然だが、船上では船長が一番偉い。
乗っているすべての人の命に責任があるからだ。
「……カスマール」
――仮にも命の恩人だぞ
クルックが、駆けつけてきた。
「はっ、この奴隷の子がっ」
「この船があれば、あんな得体のしれないもの(『ヨモツヒラサカ』)に乗る必要もないわ」
「ついでに、お前も用済みよなあ」
カスマールがクルックを指差す。
クルックの上には長男が一人。
長男の予備として生かされていた。
「くっ」
夢の中の女奴隷が、頭をよぎる。
クラり
立ち眩みがした。
その時、
シャラン
フィッダだ。
クルックの手を取る。
「もう、大丈夫」
「この船を、接収す……」
シャララン
「うっ」
カスマールが言い切る前に鈴の音が響く。
フィッダの深紅の瞳が、カスマールを見据えた。
カスマールの表情が少し和らいだ。
「ちっ、ここまでにしといてやるっ」
自室に帰って行った。
フィッダが、”ヨモツヒラサカ“の魔紋を鎮めたのだ。
「彼(カスマール)は、”ヨモツヒラサカ“の魔紋に浸食されてる」
浸食されると、攻撃性が増し本性がむき出しになるのだ。
「ま、そんな気はしたよ」
「ははは、他国の貴族が何言ってんだろうねえ」
ローズヒップが豪快に笑う。
「ほらほら、解散だよっ」
殺気だった乗組員を解散させた。
「……すまない……」
クルックが頭を下げた。
「……兄さんも色々あるんだねえ……」
肩をすくめた。
「フィッダさん」
「フィッダでいい」
「……フィッダ、ありがとう」
クルックが少し顔を赤らめる。
「んっ」
フィッダは、クルックの手をしばらく離さなかった。
「おやおや」
――フィッダも、意外と面食いだねえ
「ふふふ」
――ま、この兄さんの男っぷりなら仕方がないね
手を握ったままの二人を微笑ましそうに見つめた。
腹が出て固太りなクルックは、砂漠ではイケメンなのである。
この後から、飛行艇、”ヨモツヒラサカ“の後部座席に、”フィッダ“が座ることになる。
さらに、クルックとフィッダが、一緒にいる姿がよく見られるようになるのだった。
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