第20話、ジジョウ
「どうしてですか?」
ファラクが聞いた。
なぜ、クルックが『ヨモツヒラサカ』と失踪したかである。
場所は、空母『キサラギ』の艦長室だ。
メルル―テとイナバ、イオリとファラクがいた。
クルックと上官が飛行艇、『ヨモツヒラサカ』と基地を飛び去ったすぐ後に、飛行艇『ゲッカビジン』三機がスクランブル発進。
北のヘタリナ王国、国境まで追跡した。
しかし、国境を超えるわけにはいかず追跡を断念している。
「それはね~、エンバー伯爵家に問題があるの~」
メルル―テが言った。
「クルックの実家ですね」
イオリが確認する。
「そう~」
「ここからは私が説明するよ」
イナバが答える。
「エンバー家はね、元第二王子キバ派の貴族なんだ」
「……第二王子キバ、といえば、周辺国を巻き込んで、『魔薬』と『奴隷売買』を行った人ですね」
周辺国は『魔薬』も『奴隷売買』も禁止されている。
「5年前に行方不明になってるんじゃ」
イオリが腕を組んだ。
「エンバー家は5年前まで、『奴隷売買』で大金を稼いでいたんだ」
「奴隷って、それじゃあ」
「クルックは、『モンジョ古王国』に向かったの?」
ファラクが声を上げる。
「間違いないと思う」
イナバが答える。
「どういうこと?」
「それはね、イオリ。 モンジョ古王国には、『ヌヒ』とよばれる
「主に、砂上船のオールの漕ぎ手とかね」
「エンバー家は、もう一度、『奴隷売買』を再開させるつもりなんだろう」
実際、キバ第二王子が行方不明になった後でも、ヘタリナ王国のアキンドである『キノクニ家』の娘を妾(めかけ)に取って続けようとしていたのだ。
『キノクニ家』は『奴隷売買』を主に行っていたが、主人が5年前に変死している。
シゴトニンに始末されたともっぱらの噂だ。
「一緒に行った、彼の上官もエンバー家の寄り子である子爵だから……」
イナバは、実はクルックの母親が、売られてきた奴隷であるということは言わなかった。
「多分、『ヨモツヒラサカ』を手土産にするつもりだろうと思う」
「そうね、昔からアールヴとモンジョは、奴隷制度で対立してるから」
アールヴは奴隷は禁止である。
「アールヴの新型飛行艇は魅力的かもね」
「でも、『ヨモツヒラサカ』は無理よ」
「あれ、イマワミだもの」
「イマワミ?」
「そうね、イオリ」
イオリの手の甲に浮かんだ、銀色の
「船巫女と船の魔紋の契約を切れるのは、船主だけなのよ」
イオリは、自分の手の甲に浮かんだ魔紋を見る。
「そして、契約が切られる前に、船巫女か船に何かがあった場合、魔紋が黒く染まるわ」
「黒く染まった状態を『イマワミ』というの」
「……イオリ、もし『イザナミ』が沈んだり。私が逝くときは必ず側にいてね……」
魔紋の魔は、悪魔の魔なのである。
「……分かった」
「……『ヨモツヒラサカ』はね、船巫女なしで魔紋を動かそうとした機体だよ」
「でも、魔紋は禍々しく形が変わり、真っ黒に染まったんだ」
「強力な『魔封じの魔術式』を描き込んでもダメだった」
「『ヨモツヒラサカ』は、精神を侵す」
「危険だよ」
イナバが答える。
「それで、二人に任務が追加される~」
「クルックと上官の身柄の確保と、『ヨモツヒラサカ』の回収もしくは破壊よ~」
メルルーテが言った。
「はっ」
イオリとファラクが答えた。
「他に質問はな~い~」
「あっ、えーと」
「いいですか」
イオリが申し訳なさそうに聞く。
「……センサカンって何ですか?」
「うっ。 せ、説明しにくいなっ」
イナバが困った声を上げた。
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