第10話、エンセイ
「離発着はもう心配ないだろう~」
「次は、遠距離飛行を行ってもらう~」
メルル―テだ。
飛行艇空母”キサラギ”のブリーフィングルームである。
「ここを飛んでもらう~」
「大体4時間くらいのフライトだ~」
机の上の地図を指でなぞる。
地図には”
◆
”白眉山脈”は、レンマ王国の南に横たわる山脈である。
三千メトル級の山々がつらなり、渓谷沿いを飛ぶ”ルート”があった。
直接飛び越えるより安全に移動できるのだ。
今回飛ぶのは、シルン領から南東にあるシルルート王国に通じる”ルート”である。
昔は、飛空艦に乗った空賊が出没していた。
今は、”キサラギ”や”ミナヅキ”が定期的にパトロールしている。
目的地は、山上湖である”マルーン湖”だ。
”マルーン湖”は、シルン領からシルルート王国の丁度半ばくらいの距離にあり、最近は観光地として人気がある。
◆
「今回は、”飛竜飛行艇二段空母、ミナヅキ”の協力を得た~」
「先に、マル―ン湖で待機してくれる~」
「ミナヅキに着艦せよ~」
”ミナヅキ”に着艦するのは初めてだ。
「それと、後席にファラクを乗せてもらう~」
「以上だ~」
出発は明日の午前八時と決まった。
◆
”キサラギ”の飛行甲板から、二機の可変翼飛行艇”ネコジャラシ”が飛び立った。
切り立った崖の間のルートに、二機が侵入していく。
何かあった時のために”キサラギ”が後をついて行くのだ。
クルック機の後席には、ファラクが乗っている。
帰りはイオリ機に乗る予定だ。
飛行艦が一艦、ギリギリ飛行できるくらいの幅を二機は飛ぶ。
翼は全開にされていた。
「今度は吐くなよ~」
「機内では、吐いてないわよっ」
ファラクは、あれから訓練して鍛えられている。
「実際、この機体はどうなのよ」
「ふんっ、縦も横も安定が全然足りてねえ」
「ちょ~と油断するとすぐ、スピンだ」
「でもなっ」
「きゃっ」
いきなり鋭角に急上昇。
前部小型ジェットを吹かした。
垂直離発着用のジェットを使った強引なベクタード・スラスト(推力偏向)だ。
元の高度に戻る。
「はっ、可愛い声出してんじゃね~よ」
クルックが笑う。
「いっ、嫌なやつね、あんた」
「クルック、遊びすぎだ」
イナバの声が無線から聞こえる。
「了解」
クルックは、飛行艇を操る腕だけは確かなのである。
◆
昼少し前だ。
くねくねと曲がったルートを抜け、目の前に山上湖である”マルーン湖”が見えてきた。
もう既に、空母”ミナヅキ”が湖に着水していた。
飛竜飛行艇二段空母”ミナヅキ”は、甲板の後部にある飛竜用の竜舎の天井に、飛行艇用の甲板を取り付けたものだ。
左右にティルトローター式のプロペラ推進器が四機。
後部に、術式プロペラ推進器が×字状に四機、搭載している。
仮設空母に近い。
「こちら”ミナヅキ”、着艦訓練どうぞ」
「せまいな、こりゃ」
イオリ機が、先に着艦。
イオリ機がすぐに離艦してから、続いてクルック機だ。
一機ずつしか離発着は出来ない。
”キサラギ”が到着する昼過ぎまで訓練は続いた。
”マルーン湖”は月見の名所である。
今夜は月見をしながら、ファラクやクルック、新たな整備士の歓迎会を行う予定である。
今夜と明日一日を休暇日とした。
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