第11話、ツキミ
夜が来た。
パトロールに来た”ミナヅキ”と”キサラギ”は”マルーン湖”で一泊して、”月見”をするのが慣習となりつつある。
今も昔も”マルーン湖”は”月見”の名所である。
”キサラギ”の飛行甲板の上で、バーベキューを行った。
次の日は一日、休暇なので、お酒もふるまわれる。
メルル―テとイナバと、トウバの三人が一緒に酒を飲んでいる。
イナバはもと”ミナヅキ”の整備士でもとトウバの部下。
メルル―テは、トウバの妻であるシルファヒン元第三王女の元付き人。
ハーフエルフであるメルル―テは、シルルート王国出身である。
”マルーン湖”の穏やかな湖面に、丸い月が映っている。
標高が高いので空気が澄んでとても美しい。
「月が奇麗ねっ」
ファラクは、イオリの隣に座った。
イオリに食べ物の乗った皿を渡す。
野菜が多めだ、
「ああ、奇麗だな」
イオリが、ファラクをちらりと見て言った。
受け取った後、
「ありがとう」
「どういたしましてっ」
周りは酒が入って、盛り上がっている。
「ふふ、踊っちゃおっか」
少しお酒を飲んだようだ。
ファラクは、カーゴパンツに、フライトジャケットを羽織っていた。
フライトジャケットを脱いで、イオリに渡す。
下はTシャツだった。
タンッ
タタンッ
立ち上がったファラクが手を叩く。
「はい、手拍子っ」
「おおお、いいぞ~」
「手拍子だっ」
タンッ
タタンッ
月明かりの下、ファラクが緩やかに踊りだす。
ときには回り、ときには、大きく跳ねた。
座っている人の間を踊りながら、移動した。
神に怒りにふれ、”ヤマタ河”の両岸に離された恋人の踊りらしい。
一年に一日だけ会えるそうだ。
神秘的な踊りに、みんな口をつぐんだ。
手拍子だけが辺りに響く。
踊りが激しく盛り上がった後、両手を開いてひざまづいた。
一瞬の静寂の後、
「すげええ」
「おおおおおお」
「奇麗ねっ」
大歓声が上がった。
イオリは、汗ばんでほんのり上気した顔のファラクから目が離せない。
「ふふふ」
イオリの視線に気づいたファラクは、満足気に笑みを深めた。
◆
次の日は、休暇日である。
二日酔いのクルーもいるので、それぞれが好きに過ごす。
二艦は湖の上に浮いている。
釣りをするものも多かった。
良い天気だ。
「ここの、レインボートラウトは有名だぜっ」
クルックが周りの人を釣りに誘う。
「いいね~」
周りにいたクルーの何人かが釣りの用意を始めた。
「釣りか」
――しばらくやってないな。
イオリだ。
実家は、港を守る辺境伯だ。
「私、釣りは初めてよっ」
砂漠育ちのファラクである。
イオリに釣りを教わった。
仲良く釣り糸を垂れる。
昼食は、釣った魚をその場で焼いて食べた。
のんびりとした一日を過ごした、
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