第9話、クンレン

 ”ネコジャラシ”の飛行訓練は続く。


 今日の訓練は、可変翼の開く角度を変えての離着水りちゃくすいだ。

 可変翼が、”全閉ぜんへい”している時は大変だった。


「くっ、このおお」

 クルックがたまに失敗させて、海面に堕ち、盛大な水の柱を上げた。


「ふふ」

 たいへんだ

 イオリは、力なく笑う。


 クルックが、カナード翼の片方を破損はそんさせて訓練は終わった。


「ちょっと、大丈夫~」

 ファラクがイオリに声をかける。


「可変翼が”全開”に出来ないときは、前部小型ジェットを使った垂直離着水VTOLを推奨っと~」

 メルル―テが、評価試験用のファイルに書き込んだ。



 次に行われたのが、海上での垂直離発着訓練である。

 これも同じように、翼が開いた状態と閉じた状態で行われた。


 シュパアアアア


「こっちはまだ楽だなっ」

 クルックが、危なげなく”ネコジャラシ”を海面近くでホバリングさせている。


「確かにな」

 イオリが”ネコジャラシ”を空中でピタリと停止させた。

 その場で横に180度、クルリと回す。


 ある程度二人が慣れてきた。


「じゃあ、そこで可変翼の角度を変えてみて~」

 メルル―テの声が無線から聞こえてくる。


「えっ」


「えっ」


 左手はスロットル、右手は操縦桿をせわしなく動かしている。

 可変翼の角度を変えるには、どちらかの手を離してハンドルを回さなければならない。


「うっそおおお」


 ドッパアアアン


 クルック機が派手に水柱を上げる。


「くっ、このっ」

 流石のイオリもフラフラになった。


 二人が、操縦桿を太ももで挟むことに気がつくまで、クルックが三度水柱を上げた。

 


 約二週間、どんな状況下でも、離着水できるようになるまで訓練は続いた。


「そろそろかな~」

 安定して離着水出来るようになってきた。

 メルル―テは、飛行艇空母”キサラギ”を、”シラフル湖”の真ん中に浮かべた。

 

「それでは、空母”キサラギ”への離発着訓練を行います~」

「これまで以上に慎重に行うように~」


 ”キサラギ”の飛行甲板には、前と後ろに白で、円とHが描かれていた。 

 その印を目指して、垂直で離発着するのである。

 円の外に二個、収納用のエレベーターがあった。 

 前と後ろ、同時に二機、離発着が出来る。 


「失敗は許されない」

 クルックも慎重に訓練を行った。


 二人が、危なげなく離発着、出来るようになるまで、二週間かかった。



 ”シラフル湖”の上空に”キサラギ”が浮いている。


「最終訓練だ~」

「これから、飛行中の空母に離発着してもらう~」 


「「了解」」

 訓練を初めて、二人ともかれこれ一カ月くらい経っていた。


「イオリ機、離艦を許可する~」


 後部飛行甲板だ。

「こちらイオリ、離艦する」


 ハンドルを回して、可変翼を全開に開いた。

 後部メインジェットのベクターノズルは、最大まで下を向いている。

 前部小型ジェットの噴射口を開いた。

 ”ネコジャラシ”の垂直離発着VTOLモードだ。


 シュパアア


 イオリがゆっくりとスロットルを上げていく。


「”ネコジャラシ”、テイク、オフ」

 ふわりと、機体が浮かび上がった。


「クルック機も離艦を許可」


「了解っ」

 同じように、前部飛行甲板から、クルック機が舞い上がった。

 

 二機、同時離艦が出来るようになっていた。


 しばらく、艦の上にホバリングした後、


 ドオオオオオン


 二機が左右に分かれて加速。

 加速にともなって、可変翼が閉じられていった。


 二機が、左右反対周りで『シラフル湖』の湖岸をクルリと回る。


「「着艦許可を求む」」

 同じタイミングで帰ってきた。

 可変翼が開かれていく。


「クルック機は、後部へ」

「イオリ機は、前部甲板へ、着艦せよ」


 可変翼を全開にし、”ネコジャラシ”を垂直離発着VTOLに変える。

 白いHの文字めがけて降下させた。


「着艦」


 ふうううう


 イオリは息を吐いた。


 クルクルとハンドルを回し、可変翼を全閉にしていく。

 空母の格納庫に収納されるからだ。

 移動用の車輪のついた下駄をフロート部にはかされ、エレベーターに移動される。

 格納庫のハンガーに収納された。


「お帰り~」

 ファラクが出迎えてくれる。


「ただいま」

 イオリはオープンコックピットから下りた。

 機体の整備をするつもりだ。


 ファラクは頭の後ろに手を組んで、黙ってイオリを見ていた。

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