第24話 過労 休めジーニアス
「やっぱこの人頭いいのに馬鹿ですよね。過労とカフェインの過剰摂取です」軽く診察した篤泰は、最低でも3日は休ませるように言いながら慈亞をベッドへと運んだ。激化する怪人との戦いの中で次から次へと新しい装備の開発が必要になり、休む暇もなくほとんど眠らずに作業を続けていた。そんな日々が徐々に慈亞の体力を削り、ついに限界が来たのだ。
「慈亞は、睡眠も食事もなしで何日も研究に没頭する悪癖があんだ…それを知っていた俺がもっと早く止めるべきだった。余計な心配をかけて申し訳ない」
深く頭を下げた葵が顔を上げると、篤泰が微笑んでいた。「逆に、取り返しのつかない事態になる前でよかった。宰苑さんには助けられてますから、お互い様です」
これまで見たこともないほど穏やかな表情の篤泰に礼を言い、慈亞の方を振り返る。慈亞がろくに睡眠をとるのは何日ぶりだろうか。2人だけ残ったラボには静かな寝息だけが聞こえていた。
「ほんと馬鹿だなぁ…お前も、俺も」ジャケットをハンガーにかけ、葵はシャワーのバルブを捻る。暗い窓から入る湿っぽい空気を洗い流せば、腹の中で渦巻くモヤも消せると思いたかった。
天気予報によれば、じきに小雨が降るらしい。
***
葵が目を覚ますと、慈亞はパソコンのモニターに齧り付いていた。「…お前昨日の夜倒れたんだぞ?赤樹くんからは休むように言われてるわけだし、そのエナジードリンクも没収させてもらう」慈亞の手から缶を奪い取ったものの、慈亞は一向に手を止めようとしない。そんな様子を見た葵は諦めたようにソファへ腰掛け、天井をじっと見つめていた。このまま研究や開発を続けさせたら今度こそ慈亞の体が壊れるかもしれないが、今の自分たちには慈亞の技術が確実に必要だ。ジレンマの中で頭を抱えていた葵の脳を叩き起こすように、慈亞の声が轟いた。
「完ッッッッッッ成だよぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!!!!!」
裏返った素っ頓狂な叫び声にソファから転げ落ちて起床せざるを得ない。「ん何ッだよ!!!!!」「疾駆セイバーのニューマシン…の、設計図さ!」画面を見ると、バッタのような意匠を持つバイクのソリッド3Dモデルが映っている。今すぐにでも材料を加工して実車の製作に取り掛かろうかとほざく慈亞を制圧し、ソファに投げて半ば気絶のように寝かせた。
「馬鹿野郎休め!!!」肩で息をしながら3Dモデルを眺める。バイク。といえば先日の蟋蟀怪人も乗っていただろうか。軽く操作し、パーツ単位で観察していく。バイク好きの葵には、慈亞がどのようなマシンを作ろうとしているのかすぐに理解できた。相当凝った作りの緩衝機構に、かつて類を見ないほどの高出力エンジンが搭載されていたのだ。蟋蟀を追跡して絶対に逃さない。そんな気概が感じ取れた。
ふと思い立ち、馴染みのバイク屋に電話をかける。「…もしもし、おじさんにまた頼みたいことがあってね」
***
翌日、疾駆セイバーのメンツが集まる中外から聞こえた大型バイクの排気音。ぴたりと止むと、大柄な中年の男がラボのインターホンを押す。
「葵ー!おるかー!」革ジャンに髭を蓄えた声の大きい男は、徒無で「虎熊モータース」を営むバイク屋、虎熊 ルーサーであった。
「おうおう、なんだと思って来てみりゃパーツもできてねぇってのかい!?」「ごめんよおじさん!でも急ぎなもんでさ、報酬は弾むからお願い!」彼の師であった中田弁護士が街のために尽力したこともあるのだろうが、江田市内有数の敏腕弁護士である葵は街の人々から慕われている。
「お前さんの頼みならしょうがねぇな…一応同業のヤツらは当たるが、過度な期待はするなよ?」ルーサーは徐にスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかけている。自分のバイクを作ろうとしていることなど知る由もない倫悟は、眠る慈亞の隣に座りながら口を開いた。
「葉刈さん、その方は?」「あぁ、この人は俺の世話になってるバイク屋のおじさんでね、この辺に『虎熊モータース』ってあるだろ?あそこの」なぜか聞き覚えのある店名に倫悟は首を傾げる。虎熊、虎熊といえば…。そう、授業を受け持っているクラス、それもその中の不良(?)グループのひとりに虎熊という苗字のものがいた。
ちょうど電話を切ったルーサーに倫悟が話しかける。「もしかして、虎熊 慎之介くんの親族の方ですか?」「なんでい兄ちゃん、慎之介の知り合いなのかい!?あのドラ息子がいつも迷惑かけてるだろ、すまんな!」予想した通り、Magenta MONSTERSの慎之介の父親であった。父親に海外のルーツがあるならば、あの彫りの深い顔立ちは納得だ。
「慎之介くんのクラスで授業をしているんです。確かに少し問題行動はありますが、友達思いのいい子ですね」学校での様子、最近は生活態度が改善したことを伝えると、ルーサーは力強く倫悟の手を握った。
「お前さんいい先生だなぁ!ちゃんと生徒ひとりひとりを見てる!先生がそう言ってくれたこと、うちで慎之介にも伝えるよ!」大きく口を開けて豪快に笑う姿は、普段クールな慎之介とは対照的に見えた。
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