第25話 完成 集うエンジニア

慈亞の第二ラボ、という名の貸し倉庫では、早朝から深夜まで三日間に渡り作業が続いた。江田市内のあらゆる町工場と技術者の協力によりパーツ製造は滞りなく進み、後は全て組み上げるのみだった。

「過労でヤバいんですから、宰苑さんは休んでてください。俺らでなんとかしますから」そう言いながら篤泰も製作に協力し、徐々にバイクの形になっていく。

慈亞の設計通りに完璧なマシンが完成しつつあった。


突如、倉庫が大きく揺れた。地面にボルトが飛び散り、オイルがぶちまけられる。十中八九怪人であろうが、倫悟と篤泰は正体を隠しているため変身できない状況。しかし葵がバイクではなく車で来ていたために、ヘリアスが対応することもできなかった。ヘリアスのスーツは葵のバイク、アクセラ・レイに搭載されているマテリアルでなければ変身できないからである。全ての疾駆セイバーが戦えない状況、まさに絶体絶命であった。

「オイルくせぇ…俺様の好きな匂いだァ…」シャッターをぶち破り、鼻を鳴らしながら蟋蟀怪人が入ってくる。どこからこの場所を嗅ぎつけたのかこそわからないが、ソートルのバイクを狙っているであろうことは確かだ。


「まったく、葵はドジだねぇ…私が行くよ」慈亞が立ち上がり、ヘリアス2号のフェイスを手にする。「バカ、お前は…」「篤泰くんに示された休養期間は最低3日、だったろう?」葵の言葉を遮るようにそう言い放った慈亞は、静かに仮面を装着した。青い光に引っ張られ、ワゴン車からアーマーが飛び出してくる。白銀のボディに黒い鬣のヘリアス。以前と違い、スーツの上に多くのホルスターが追加されていた。ヘリアス2号はゆらりゆらりと歩き、一閃、蟋蟀怪人にハンドガンを撃ち込んで問う。

「どの弾がお好みかな?」15発撃ちきるとマガジンを交換し、一歩、また一歩と接近していく。「ふざけやがって…『進化』すらしてねぇ旧人類が…!」蟋蟀怪人の高速突進に合わせるように腹へと散弾を撃ち、怯んだところへ横蹴りがめり込んだ。

「あぁ、確かに私は『進化』していない」吹き飛んだ蟋蟀怪人へと歩み、大振りの拳が飛び出す。「これは、私の力は…『進化』よりも価値のある、人類の『進歩』さ」

振り抜いたままの勢いに乗せ、後ろ回し蹴りが肩口に落ちる。蟋蟀怪人は怯んだかに見えたが、ヘリアス2号の背に中段蹴りを打って逃走した。被害拡大を防ぐべく追わんとしたところ、謙飛の声で足を止める。


「宰苑さーん!できたっすよ!完成!」振り返るとそこには、慈亞の設計した通りのバイクが佇んでいた。「どんな状況でも冷静な仕事すんのがプロってもんでな!ガスタンクもパンパンよ!」ルーサーが威勢よくサムズアップをすると、ヘッドライトが真紅に発光しヘリアス2号の元へバイクが走ってきた。AIの判断による自動運転も申し分なく機能しているようだ。

「ステイだカヴァレッター!君の相棒はソートル、倫悟くんだよ!」慈亞が叫んだ途端、カヴァレッターは後輪を滑らせながら勢いよく旋回し、倫悟のもとへ駆けた。「宰苑さん…!ありがとうございます!」倫悟はカヴァレッターに跨り、ヘルメットを被る。急発進に轟音を響かせながら前輪が跳ね上がる。


***


予想以上の馬力に振り回されながらアスファルトを駆けていく。法定速度を優に超えるスピードメーターの数字は最高で時速500km。超電導リニアに匹敵するスピードが出るようだ。

オイルを馴染ませながら回転数は高速域に突入、通常のバイクであればハンドルブレで制御不能にもなりそうなところだが、カヴァレッターはその限りでない。江田の職人たちが作り上げた技術の結晶ともいえる優秀なショックアブソーバーにより、最小限に抑えているのだ。目の前には蟋蟀怪人の背中が見えている。「このマシンなら…あいつを越えられる!」

倫悟はスロットルレバーを捻りバルブをこじ開ける。「変身!」左目に蟋蟀怪人を見据えながら全身から外骨格が飛び出し、覆われていく。時速100kmの風を浴びながらソートルは右足を後ろに振り上げ背後一閃、蟋蟀怪人に回し蹴りを叩き込んだ。

「このクソバッタ野郎!」蟋蟀怪人はガンガンとバイクで体当たりをしてくるが、カヴァレッターはびくともしない。「畜生、なんでこんな強ぇんだよ!」悪態をつく蟋蟀怪人の肩口を、前腕の鋭い棘で斬りつけてソートルは冷たく言葉を落とした。「殺しのための道具と比べるのが間違いなんだ」

「なんだとォ?もう一回言ってみろや!」「カヴァレッターは、人を『守りたい』想いが創った、最強最速のマシンだ!君の殺戮道具とは違う!」

蟋蟀怪人を抜き去ったカヴァレッターは、その前方で大きくドリフト旋回した。そして逆走を開始し蟋蟀怪人とすれ違う瞬間、その頸を左手に掴む。再びドリフトしたたソートルは、もがく蟋蟀怪人を地面に擦り付けながらそのまま走行。「てめぇ!コケにしやがって!」聞く耳を持つこともなく海沿いへ走っていく。


***


「皆導くんが無理していなければいいが…」心配する葵の肩に慈亞の手が触れる。「倫悟くんなら大丈夫さ、私が常時確認している」慈亞の車内にはカヴァレッター視点でソートルと蟋蟀怪人の戦闘が映し出されていた。海岸に投げ飛ばされた蟋蟀怪人のもとに飛来し、砂を散らしながら肉弾戦に持ち込む。

ソートルは蟋蟀怪人の首根に手をかけ、拳や肘を往復で打ち込み、跳び膝蹴りを鳩尾に突き刺し吹き飛ばす。蟋蟀怪人が這うように立ち上がると、禍々しいバイクがソートルに体当たりしながら向かった。バイクに飛び乗った蟋蟀怪人がソートル目掛けて突っ込んでくる。「轢き殺してやるクソバッタぁぁぁ!」

ソートルは宙返りで攻撃を回避しながら叫んだ。「来い!カヴァレッター!」轟音と共に画面が移動する。倫悟の声に反応して自動運転機能が発動したのだ。

苛立つ蟋蟀怪人が再び突進しようとした瞬間、鈍い衝撃音と共に遮られる。

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疾駆セイバー 縁瑠 @Beryl5AFF19

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