第22話 救急 民間のドクターカー
「さて、皆を呼びつけたのは他でもない…新たなる発明品をご紹介するためだ。さぁ見たまえー!」
江田市郊外、
「なっ、なんすかこれー!?サイズ感的にデカいロボット?もしかして、オレがパイロットになっちゃうとかー!?」
「尾野寺くん、一旦落ち着け」
発表前からはしゃぐ謙飛は、シートの隙間から覗き込むようにして正体を探る。それを静かに制止する篤泰は、不思議と慣れた様子だった。
「まぁまぁまぁ、これは篤泰くんが一番喜ぶやつかな」そう言ってブルーシートを剥がすと、側面に「Nahsh」の文字と蛇がプリントされた小型トラックが現れた。
赤色灯こそないが、赤と白、そこに少しの青で彩られたその姿はドクターカーや救急車を思わせる。
「宰苑さん、これって…」
篤泰は一歩踏み出し、車体全体を見回す。
エンブレム部には疾駆セイバー コルブの顔をシンボル化したようなマークが刻まれ、後部の荷台には窓がついている。
もしかして、と篤泰が溢すと、すぐさま慈亞が高らかに叫ぶ。
「あぁ、君専用の民間ドクターカー、『ナーシュ』さ!」
荷台を開けると、その中には救急医療用の担架やストレッチャー等必要な物資がほぼ全て揃っていた。
二体のロボットのようなものが佇んでいることを除けば、一般的に配備されるスーパーアンビュランス程度の設備だろう。
「こっちの赤いのがセルピで、こっちの白がエンテ。名前呼んだ後に指示出したら大体のことはしてくれるから、是非活用してくれたまえ」
そう紹介されたロボットは支援用に開発されたAI搭載のもので、セルピは現場に赴いて救助や応急処置の支援、エンテは車内での高度医療行為用に設計されたものだと慈亞が語る。
「まぁまぁ、謙飛くんにもこれをあげるから」
小さく反応した謙飛の左肩に、拳ほどの大きさのガジェットが飛び乗った。
「わ、かわいい〜!なんすか、これ?」
昆虫を模したようなロボットを指先でつつく謙飛は、先ほどまでのガックリとした表情を忘れたかのように喜んでいた。
「そいつは『カミラ』、アリ型の補助デバイスさ!」
「補助デバイス…?なんか凄そうっすね!」
「それがあれば、君自身がわざわざ危険な戦場に赴かなくても好きなだけ資料を集められるってわけ。もちろん君の生体データを持ち主として登録してあるから安心したまえよ」
謙飛の肩から飛び降りたカミラは、踊るように6本脚を鳴らした。
突如、ナーシュからサイレンが響く。
「おっと、早速出番のようだねぇ!ここはロールアウト兼実地試験と行こうじゃないか!」
慈亞のラボにあるパソコンと同様に、怪人の出現場所を通知するアラート機能がナーシュにも備わっているのだ。
「宰苑さん、これって準中型免許じゃなきゃ…」
「言い忘れてたけど、それは自動運転!自分で運転したかったら別途免許をとりたまえ〜」
篤泰はため息をつきながらシートにつく。せめて免許の有無くらいは聞いてくれてもよかったのではないか?
100パーセント善意であるからこそ、逆にタチが悪い。
「はぁ…まぁ休職中でヒマだし免許取りますよ…費用は宰苑さん持ちで」
***
やはりどの怪人災害も同様に、現場では凄惨な光景が広がっているものだ。折り重なる死屍累々、砕けた瓦礫、その上に立つ異形の者。此度のは飛蝗…いや、
逃げたくなる時もあるが、逃げた先に道は残されない。
「篤泰くん、顔が怖いよ?君は今日は戦闘ナシ、私の新作を試してみたまえ」
「っ…ははは、言われなくても最初からそうするつもりでしたけどね。俺はあの人らと比べて弱いけど、誰も見捨てたくない」
倫悟と葵がバイクから降り、怪人の方へ歩き出す。戦士の前に医者である自分の仕事は、戦いは彼らに任せて怪我人を救助することだ。
ナーシュのコンテナに飛び乗り、2体のロボットに指示を送る。
「セルピ、まずはトリアージだ。赤はストレッチャーに乗せて埋まり次第城北大学附属病院まで、黒は…できるだけ、人目のつかない場所でブルーシートを被せて。エンテは搬入された負傷者の応急処置を頼む!」
ナーシュ内にストレッチャーは2台。搬送先を勤務先に設定すると、救急箱を抱えて軽傷者救護にあたった。
「…変身」もし助けられなくても、自分にできることであれば何だってする。自分が後悔したくないだけのエゴなのかもしれない。それでも、目の前で人の命が消えそうならば手を伸ばしたい。それが戦う理由だ。
「大丈夫ですか!すぐ救急車が来ます、それまでの辛抱です!」
四方八方から助けを求める声が聞こえる。瓦礫の山を崩しながら移動させ、負傷者たちの安全を確保する。
この人たちは、怪人の圧倒的な力の前にはなす術もない。「力無き者が力を持つ者に虐げられているのなら、また別の力を持つ誰かがそれを救うべきだ。俺たちは、疾駆セイバーは、その『救う』誰かであらねばならない。だから『saver』なんだ」
と、何日か前に葉刈が呟いた一節が脳内を駆け巡る。
そうだ、その通りだ。
ただ助けたい。わけなんかなくとも、ただひたすらに人を助けたい。それだけなのだ。
医者の矜持だとか意地だとか誰のためだとか、そんなたいそうなものを理由に掲げるつもりはない。
ましてあの日喪った全てを弔うためでもない。目の前の人も助けられないなら、自分の命に価値はない。ただ、向き合って戦うだけ。
「これが俺の…疾駆セイバーの仕事だ」
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