第15話 決着 二人のヘリアス
鋭い音のした方向を向くと、大ぶりなショットガンを持った慈亞が傍聴席に立っていた。
「葵〜、あんまり私を心配させてくれるな?…変身」
葵のものと対を成すような純白の仮面を装着すると、慈亞の体に青い光が降り注ぎ白い衣となる。破れたガラスから飛び込む装甲を纏い白銀に輝く体、ベルトに弾薬を装着し、漆を塗ったような黒い鬣のヘリアスとなった。
「ヘリアスの開発用プロトタイプが残っていてよかったよ…いや、2号…の方がかっこいいかな?どう思う?葵」
「ははっ、おせーよバカ」いつもの調子で軽口を叩く慈亞に、葵は全てわかっていたかのような笑みをこぼす。
「また邪魔モノ増えちゃった…このクソガキが……!まぁいいわ、葵くぅーん…?大事なお友達が惨たらしく殺されるの、指咥えて見てなさい…♡」
新たな獲物を見つけたと言わんばかりに突っ込む蜘蛛怪人の猛攻を、ゆらりゆらりと幽霊のようにすり抜ける。不安定な重心と乏しい戦闘経験が予想外の動きを生み出し、かえってアドバンテージとなっているのだ。
攻撃を外して蜘蛛怪人がよろけた隙に、慈亞は葵に絡みついた糸を引きちぎる。
「まったく、検事さんのくせにあまり頭は良くなさそうだね?私たちの絆に踏み込んだのが運の尽きだったのさ…」
「ふん、お前はもう『ヘヴン』とやらには行けない…できることなら助けたかったがもう手遅れだ。」
並び立った白と黒のヘリアスは威勢よく啖呵を切ると、長年の友情を見せつけるかのように噛み合った攻撃を繰り出す。
2号が蜘蛛怪人を惹きつけ、ヘリアスが後ろから蹴り込む。攻撃対象が移れば、ガードしながら鋭いパンチを繰り出すヘリアスの後ろから2号がショットガンで狙う。
「お前の動き、なかなか悪くねぇ…!」
「葵だって、さすが『疾駆セイバー』なだけあるねぇ」
2号は実体があるのかないのかもわからないほどにのらりくらりとかわし、小さな綻びを見抜いて的確にスラグ弾を撃ち込む。
「この弾丸はちょっとだけ特殊でね、怪人の体組織を破壊することが可能なんだ」
蜘蛛怪人に何発か撃ち込んでみせながら、慈亞は葵に解説する。
正統派のボクシングスタイルでヘリアスは拳を叩き込み、2号は酔拳のように虚をつく。
金と銀のヘリアスが同時にパンチを打つと、蜘蛛怪人は吹き飛ばされた。
***
慈亞の車内でモニター越しに2人の戦闘を見ていた倫悟も、すごい…と思わず声を漏らす。
謙飛も同調するように頷き、モニターに見入る。
「いやぁ…すごいっすね…どうなってんすかこれ…」
「やっぱり猛くんもそう思…猛くん!?なんでこんなところに!」
なぜかMagenta MONSTERSの三人が車内に上がり込んでおり、倫悟は驚愕する。
「なんでって…騒ぎを聞きつけてみりゃこのザマっすよ。なんすかこれ…」
「…もう!尾野寺さん、この子達の相手してて!ほら、この人あれ、漫画家だから!」
4人を車の外に放り出し、モニターから音声での援護に集中する。
「葉刈さん聞こえますか!今ちょうど蜘蛛怪人と宰苑さんの間に証言台があります!葉刈さんは弾道上から離れて、宰苑さんは台に隠れて隙を狙ってください!」
「了〜解」
慈亞は小さく返事を落とし、ショットガンを排莢する。
***
カラン、と小さく鳴った排莢音を聞きつけ、蜘蛛怪人は証言台を狙う。
「ヤバいヤバい来る来る来る来る…よしっ」
慈亞は慌てながらも器用にクアッドロードを行い、銃口を蜘蛛怪人の腹に突きつける。
「ははっ、蜘蛛さん、後ろ」
「なっ…!」
後ろから接近していたヘリアスが飛び後ろ回し蹴りを側頭部に放ち、同時に2号が腹へ散弾を撃ち込む。
「
「う…ぐっ……どうして…なんでこんなに強いのよっ…!」
先ほどまでの攻勢からは一転、蜘蛛怪人は醜く地を這うことになった。
「ち、ちょっと…!2対1なんて卑怯よ!!もう、悪かったわよ葵くん!これまでのことは謝るから、どうか見逃して…!」
死の恐怖から、プライドを打ち捨てた必死の命乞いをする。
「少しでも許す隙間があったら、見逃してただろうな…」
「疲れた〜!…じゃあ葵、私はこれで。」
ヘリアスは画面越しにわかるほど冷たく蜘蛛怪人を見下ろし、2号は腕を組み法廷から出ていった。
「…次に会うのは、地獄か」
ヘリアスは床を砕くほどの走力で壁を駆け上がり、天井の角から飛び込むように蜘蛛怪人の胴体に蹴りかかった。
「いやッ!嫌よ!死にたくない!私はもっと…まだ……!」
「父さんも…母さんも…中田先生も…!お前と同じ事を思っただろうな」
ヘリアスの足先が蜘蛛怪人の左胸にめり込み、検察憲章を粉砕する。
「本当の『強さ』はこのスーツのことじゃない…これを作った『人の思い』が!『仲間』が!俺の持つ…本当の強さだっ…!」
ぐっと足に力を込め宙返りしたヘリアスは砕け散ったバッジのかけらを握りつぶし、天国の三人に届けるように勝利の雄叫びを上げた。
「…やっと、終わったよ」
溶けていく蜘蛛怪人を見つめながら、葵は誰にともなく呟き裏口から出る。
***
「いててててて!!!!!!」
「なぁ、なんでこいつこんな…なんかこの…」
痛い痛いと呻く慈亞を指差し、葵は篤泰に尋ねた。
「大袈裟だけど、特に捻挫とかでもない。ただの筋肉痛ですね…何やったんですかこの人」
「あはは…昨日、葵もヘリアス着て戦っててな…」
篤泰は目を丸くし、ふっと笑う。
「普段から運動してればこうはなってませんから、生活習慣を見直すことですね」
「えぇ〜!私は研究だけやってればいいんだよ〜!…いたたたたたた!!!!!!」
駄々をこねる慈亞を見て、その日は和やかな笑い声で暮れた。
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