第14話 確執 迫るスパイダー

ヘリアスはライオンの走力に由来する、猛スピードの突進から蜘蛛怪人にドロップキックをお見舞いする。

「どうだ?食べごろを待ってる間に、食われる側になっちまう気分ってのは」蜘蛛怪人の放つ糸を次々と回避しながら、ヘリアスはパンチのヒットアンドアウェイで確実にダメージを蓄積させていく。

「レディーの顔に傷つけるなんて……自分が何をしてるかわかってんのッ!」

蜘蛛怪人は壁を這い、四方八方から糸を飛ばしてきた。巣を張るように、何周も回っては糸を飛ばす。

走力の高いヘリアスも避けきることができず、一本、二本と粘着質な糸を浴びてしまった。


***


「葉刈さん、大丈夫なんでしょうか…」

慈亞の車内にて、ヘリアスの映像を見ながら倫悟が呟く。これまで何度も蜘蛛怪人に蹂躙されてきたヘリアスでは、またやられてしまうのではないか。そして今度こそ殺されてしまうのではないかという一抹の不安が脳裏をよぎっていた。

「倫悟くんは心配性だねぇ〜…。葵なら、ヘリアスなら大丈夫さ」

「なんでそんな呑気なことが言えるんです!?」

慈亞は自分に向けられた真っ直ぐな目を見つめ返し、ふっと不敵に微笑んだ。

「まぁ、なんとしてでも私が死なせないからだね」


***


「正体バレちゃったらもう派手に暴れられないじゃな〜い……この際だから、そんなに気になるなら私のこと教えてア・ゲ・ル♡しょうがないから、葵くんだけ…よ?」

またも搦め捕られ身動きの取れなくなったヘリアスに馬乗りになり、耳元で囁く。


***


糸川は、超エリート一家の一人娘として生まれ厳しい教育を施されてきた。

成績優秀だった彼女は、当然一流の中高一貫女子校に通うようになる。彼女の人生が変化しだしたのはその頃だ。


テストでの不正行為を報告したのをキッカケにスクールカースト最上位の上木から恨みを買い、虐めの標的となってしまったのだ。


学校内で大規模な窃盗事件が起きた。生徒の携帯や財布、その他多くの物品が1ヶ月間で126点も盗まれたというのだ。帰りのホームルームで事件の概要が伝えられ、彼女は挙手した。

「上木さんが机の中を物色してるの、私見ました」復讐のように上木を吊し上げる、根拠も何もない出鱈目な発言だ。上木は反論するが、すでに場の空気は糸川のものとなっていた。

この事件の真犯人は糸川であったがその前日、上木の家の庭に証拠品を全て埋める、という方法で「上木が証拠隠滅を図った」事実を作り上げたのだ。


さらにこの事件で上木が停学処分となったのをキッカケにして、かつて嫌々上木を支持していた生徒たちからの信頼を獲得。上木は復学後新たな虐めの標的となり、糸川は最上位への下剋上を果たした。


彼女はこれに快感を覚えた。自分の意図で他人を操る感触、自分の一言で他人の信用を破壊する感覚。他者を蹴落として勝者となる快感、人を裁く、優位に立つ快楽。このつま先から脳天まで突き上げるような快楽を追い求め、検察官を目指すようになった。


彼女が検察官として活躍を始めた頃、自宅にスーツを着た白髪の男が訪れた。

「糸川小色検事ですね?私は人類の更なる『進化』をお手伝いする組織、『H.E.R.O.』から参りました」

男は名を名乗ることもなく、H.E.R.O.と呼ばれる組織の理念を語った。


「これより、強化外骨格型人類進化手術きょうかがいこっかくがたじんるいしんかしゅじゅつ-蜘蛛様くもようを開始する」

H.E.R.O.は「Humanity's Evolution Ruling Organization」の略であり、直訳すれば「人類の進化を支配する組織」となる。

手術によって人間と他の生物の特徴を混合し、上位の生命体へと「進化」させるのが目的の団体であるが、その進化した者が人の姿から所謂怪人へと変貌する際、極度な闘争本能の向上などが見られる。

それにより殺人、傷害事件を発生させることも多々あるため、それを問題視していたH.E.R.O.は怪人の存在を公に認めさせないようにするべく警察や検察の内部から証拠を隠滅する者を欲していたのだ。

斯くして彼女自身も蜘蛛怪人となり、自分、そして他の怪人の起こした事件を検察内部から揉み消す重要な役割を担った。


***


「そうこうしてるうちに、暇つぶしに襲った家であなたを見つけたの…♡私という圧倒的脅威の前に、こんなしっかりした男の子が恐れ慄くなんて……最ッ高のヘヴンだったわァ♡」

葵は呆れた。もう怒りすら湧いてこなかった。そこにあったのはただの憐れみ。歪みきって人間であることを捨て、堕ちた者への蔑み。

「どぉ?どんなに強くなったって所詮旧人類!『進化』した私たちには遠く及ばないってこと♡」

「それが『強さ』だと…このスーツが俺の『強さ』だと、お前はそう思うんだな?」

ヘリアスは勝ち誇った蜘蛛怪人へ、意味ありげに語りかける。

「はぁ?」

「バッジを着けてりゃ偉いわけじゃないんだなぁ〜。糸川検事…俺はあなたを人として尊敬していました。」

「法廷での良き好敵手として、同じく法学を志すものとして…。まさか信念も矜持も何もないマリオネットだったなんて」

仮面の中で鼻を鳴らして笑った葵に、蜘蛛怪人は激怒する。

「ふっっっざけんじゃないわよ!殺してやるわこのクソガキィ!!怪人の強さをなめてんじゃないわ!」

蜘蛛怪人が振り上げた腕は、次の瞬間爆発するような音と共に吹き飛んだ。

「ッ何!?何なのよコレ!?」

「ふっ…お前にはわからないだろうな。これが人を『信じる』こと…そして、本当の『強さ』だよ」

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