第12話 邪悪 読めないターゲット

宰苑からの報告を受けて事件現場に向かったヘリアスは、またもあの蜘蛛怪人と対峙する。「ウフフフフッ、また会ったわねェ葵くん…親の時もあのクソ弁護士の時も、いい顔してたわよね〜……『次』は誰がいいかなぁ?」蜘蛛怪人の発言に、葵は心臓が握られたように苦しくなる。やはりあの夜両親を、そしてあの朝恩師を手にかけた蜘蛛怪人は彼女だ。

また俺の周りで誰か死ぬ。そう思うと、震えと怒りが止まらなかった。

「お前を!ぶっ潰す!今、この瞬間に!」ヘリアスの出力は再び異常値を叩き出し、拳の連打が蜘蛛怪人を圧倒する。

「やめろ葵!これ以上は本当に危険だ!ヘリアススーツの人工筋肉が自壊しかねないぞ!」慈亞の制止も虚しく、幾度となく殴り続け、攻め続けたヘリアスは暴走防止用安全装置が働き、スーツが稼働を停止して動けなくなってしまった。


「また会いましょぉ♡近いうちにね♪」蜘蛛怪人はヘリアスの顎に手を添え、耳元で意味ありげに囁いた。彼女の目的が何なのか一切わからないが、とにかく自分に対して危害を加えようとしていることは確かだった。


***


葵はラボに戻ると、謙飛に先程の出来事を伝えた。

「慈亞、謙飛くん、必要なものがあったら俺が買うから、これからしばらくラボの外には出ないでくれ」疾駆セイバーの力を持たない二人に何かあってはならないため、いざという時に助けられるよう自分と慈亞と謙飛の3人で、ラボで生活しようというわけだ。

「か、考え過ぎなんじゃないっすかね〜?ちょっと大袈裟っすよ!ねぇ宰苑さん!」謙飛は陽気に振る舞うが、その顔には冷や汗が浮かんでいる。

とりあえずは謙飛の家へ彼の仕事道具を取りに行った。


「この感じ、大学のルームシェア以来っすよ!なんか懐かしいっすね〜」呑気なことを言う謙飛に、葵は声を荒げる。「ふざけるな!俺はお前たちを守るために…!これ以上大事な人がいなくなるのは嫌なんだよ!」

涙を流しながら訴える姿を見て、謙飛は葵の過去を思い出す。これまで何度も大切な人を奪われてきた彼は、今自分の手が届くものを守りたくて必死なのだ。

謙飛が申し訳なさそうに俯いていると、ドアが開き倫悟と篤泰が入ってきた。「葉刈さんこんばんは!…どうしたんですか?怖い顔して」「倫悟くん、彼、柄にもなく泣いてますよ」

何が起きているのか全くわからない様子で、部屋の中を見回す。

「あ、いや…なんでもないっす…オレが葉刈さんに、無神経なこと言っちゃったんで…」肩を落とした謙飛が代わりに答えるが、慈亞は先ほどから目を閉じたまま一言も発さない。何か思うところがあるのだろうか…、と倫悟が訝しげに覗き込むと、サイレンが鳴った。

「ふん、全員揃った頃に出るとはいい度胸じゃねぇか」葵が呟くと、皆立ち上がり扉が開く。


***


「「「変身!」」」

倫悟と葵は各自のバイクの上で、篤泰は慈亞の車の中で変身した。

「なんだ、ただの蟻か…まぁいいぶっ潰す!」

現場に到着するなりヘリアスは蟻怪人をボクシングスタイルで殴り飛ばし、ソートルはジャックナイフの勢いでフリップして飛び蹴りを叩き込む。コルブもヘッドシザーズ・ホイップで投げ、薙ぎ払う。

「やってみれば、意外とできるもんだな…」そんな感想とともにコルブが残りの数を見ると、さらにわらわらと現れる蟻怪人の向こうに蜘蛛怪人の姿が見えた。


「君の相手は私よ…あ・お・い・くん♪」

「またお前か…そっちから来てくれるなんてありがてえこったな」挑発に乗らないよう平静を装いながら答える。

「ところでぇ、お友達が2人も乗った大事な車、あんなとこに置いてていいのかしらね?」まさか、と思い慈亞の車を見た瞬間、正面からの強い衝撃で吹っ飛ばされた。完全に揺さぶられ、まんまと不意打ちを喰らったのだ。

「油断は禁物でしょう!このクソガキッ!!!こんな雑魚じゃ、ぶっ殺し甲斐が無いってのよぉッ!私の相手をさせてもらってるのに!気を抜いてんじゃないわよォッ!!!!」激昂する蜘蛛怪人にマウントポジションで顔面を重点的に殴打され、視界端にアラートが表示される。危機感を煽るような警告音も鳴り始めたと思うと、葵の肌が突然外気に触れる。仮面の目元が割れてしまった。

「ッふぅ〜〜……いい顔してるじゃない♡その怯える顔、たまらないわぁ…♡」

呼吸を落ち着かせ、どこか恍惚としたような表情で葵の顔を撫でたと思うと、ゾクゾクと身震いさせながら葵の顔を殴り続ける。

「ほら、もっと怯えなさい!恐怖と絶望に打ちひしがれて、もっと私をコーフンさせてよッ!!!」仮面の穴がどんどん広がり、葵の顔は血まみれになる。血が入るから左目は開けないし、意識が朦朧として体は動かない。抵抗する術もない。警察は何をしている。このままじゃ、死……


ドゴオッ


意識が途絶える直前、ソートルが蜘蛛怪人の顎を蹴り上げた。

「葉刈さん、大丈夫?……あぁ、これはひどいな。とりあえず、うちの病院で精密検査してもらいましょう」コルブは葵に応急処置を施し、蜘蛛怪人を睨みつける。

「あーもう!バッタ風情が邪魔すんじゃないわよっ!!葵くん、また会いましょうね〜♪あ、アンタはすぐブッ殺すから!」ゴキゴキと首を鳴らした蜘蛛怪人は、ジャケットの裾を翻らせながら宵闇に消えた。

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