第11話 議題 見せろグッドウィル
週に一度、土曜の23時から
この日は珍しく尾野寺が提案した。「オレ思うんすよ!最近疾駆セイバーが処刑人みたいな扱いされてて、それってあんま良くないんじゃないかなって!」実際、世間での疾駆セイバーの評価はダークヒーローそのものだ。暴れる怪人のもとに現れて始末する、といったことを繰り返していればそう思われるのも無理はない。
「だから、怪人退治以外にも色々慈善活動とか!疾駆セイバーの姿でやりましょう!」あまりに突拍子のない提案に皆呆れたような様子でいると、倫悟が口を開いた。「確かに、僕たちの存在が広く知られるようになれば怪人への牽制にもなります……ここは一つ、兼飛くんのアイディアを試してみるのも良いかもしれません」倫悟の言葉で、渋々ながら皆受け入れた。
***
それから3人の疾駆セイバーは、怪人の始末以外にも活動することになった。
ソートルは交通事故を未然に阻止したり、ヘリアスは火災の現場に飛び込んで子供を救出したり、コルブは怪人災害の現場で救急隊の指揮を執ったり…。そんなこんなで2週間が経ったある日、宰苑のラボでサイレンが響く。
「
葵は法定速度スレスレでバイクを飛ばし、現場に着いた。
「あのスーツは…」あの夜脳裏に焼きついた、臙脂色のスーツ。そして左胸には「秋霜烈日…検察官徽章だと…?」何度も法廷で見たバッジが夕陽を反射していた。
葵は怒った。検事と弁護士とは、当然ながら法廷で争う相手である。しかし葵は検事に対し、尊敬の気持ちを忘れたことはなかった。裁く者の矜持と護る者の矜持。互いに異なる正義の下で戦っていることを理解していたからだ。
だからこそ、この蜘蛛怪人が許せなかった。同じく法を志す者でありながら、秩序を乱して暴れていることが。
「ふっっざけんじゃねぇ!」葵は駆け出し、叫びながら仮面を装着する。
黄金色の装甲を纏った戦士、ヘリアスの姿で蜘蛛怪人に蹴りかかったが、蜘蛛怪人の放った糸に阻まれる。「クッソ…足が…!」着地した瞬間、脚を地面に固定されて動きを封じられた。
「あら〜?お久しぶりじゃない、葉刈 葵くん♪」何故か自分の名前を呼ばれて怖気立つ。あの夜のことを覚えているのだろうか、それとも以前に法廷で対峙した相手なのか。もしくは、その両方か。「でもまだ、まだまだまだ!殺すには早いわね〜…私以外の怪人に殺されないよう、せいぜい頑張ってちょうだい?」
妖しく振り向いて手を振る後ろ姿を、睨むことしかできなかった。
「疾駆セイバー!大丈夫か?」キャップを被った少年が視界の端から自転車を漕いできた。仲間と3人がかりで糸を引き剥がす。「うわぁ…ベタベタじゃんか…」
そうこうしているうちに倫悟が現れた。「ちょっとみんな!何やってんの!?」作業を続ける少年の腕を掴み、無理やり引っ張っていった。
ナイスアシストだ。装甲をパージして瞬時に脚を引き抜く。こうすればまとわりついた糸との間に隙間ができ、すぐに脱出できるのだ。もっともさっきは人目があったので解除できなかったが。
***
「倫悟くん、あの子達は…?」
「あぁ、うちの生徒なんです。3人すごく仲良しで、よく学校サボってたんですけど…」かつて疾駆セイバーとして助けたこと、そして最近真面目に登校するようになったことを、倫悟は嬉しそうに語った。教師としてか、はたまた疾駆セイバーとしてか。とにかくその目には、深い慈愛と喜びの色があった。
「はは、随分と嬉しそうだねェ?なんかいいことあった?」「それに比べて葉刈さんは浮かない表情っすけど…」ラボの奥から慈亞と謙飛が2人揃ってぬるりと顔を出す。
葵は、さっきまで話していたこと、そしてあの夜の蜘蛛怪人と戦ったことを明かした。地面に散らばった研究資料のコピーを見つめながら、あの夜のこと、そしてあの朝のことを語る。
両親の死、冤罪、恩師の死、そして今に至るまでの全て。
「そんな…酷すぎるっすよ…」あまりに辛い過去に、謙飛は表情を暗くする。
葵は目を閉じ、深くため息をつく。「もう過ぎた話だ、気にしなくていい」そう残し、ラボを後にした。
***
「さっきの、マジなんすか…?」苦い表情の慈亞に、謙飛が尋ねる。慈亞は表情を変えずゆっくりと頷く。
「全て真実だ。そして、私が研究を続ける理由もそこにある」
葵が孤独から救ってくれたこと、力になれず悔やんだこと、必死で勉強して今までの全てを語った。
謙飛と倫悟はかける言葉が見つからないといった様子で、慈亞の手元を見ていた。
なんとしても、あの蜘蛛怪人を倒さねば。葵のため、その両親と恩師のために。
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