第10話 遭遇 病めるドクター
医師
幼少からの憧れだった救急医になったはいいものの、怪人犯罪に伴って増加した重傷者の治療やトリアージにより心身共に疲弊しきっていたのだ。
深夜に帰宅し、シャワーをさっと浴びてコンビニ弁当を食べ、気絶したように眠る。起床すればすぐに身支度をし、朝食を摂る間もなく職場に向かう。
激務に次ぐ激務、もう何連勤目かも覚えていない。いつまでこんな生活が続くのだろうと思っていると、急な立ちくらみに襲われ倒れてしまった。
「医者が病院で倒れるなんてシャレにならないからね!とりあえず赤樹くんは休んで、元気になったらまた来なさい!」院長の言葉に大人しく従い、しばらくの間休職することになった。
それから篤泰は気の赴くままに生活した。どこへ行くでもなく外を歩き、暗くなれば家に帰る。車は使わない。今の自分には、ゆっくり自分の足で地面を踏み締めることが必要だと思ったからだ。
3日目は海沿いを歩いていたが、思ったより帰りが遅くなってしまった。墨のような空に浮かぶ月を見上げながら歩いていると、前方が何やら騒がしいことに気づく。
「何突っ立ってんだアンタ!怪人だ!早く逃げろ!」すれ違った男の呼びかけに応えることもなく駆け出した。医者の使命。傷ついた人を救いたいと願う一心で煙の立つ方へ走った。手当ての道具があるわけでもないが、ただ身一つでも何かできるはずだと思って向かった。
「お前何者だ?何してやがる?」蛙怪人は動きを止め、篤泰に問う。「ただの医者だ!お前のせいで久々の仕事だよ!」怪人には目もくれず手当てを続ける篤泰の後頭部めがけて、激昂した蛙怪人が蹴りかかる。
その足先が届く瞬間、篤泰の皮膚が硬質化した。皮膚はひび割れ、しなやかかつ堅牢な鱗へと変わり、攻撃を弾く。根元のあたりで折れたカーブミラーが映した篤泰の姿は、人の服を着た大蛇のように変貌を遂げていた。
「取り込み中だ、水をさすな馬鹿野郎」大きな眼で睨みつけた篤泰は、流れるような動きで攻撃を避ける。そのしなやかな様はまさに蛇そのものだった。
避け、いなし、かわしつつ的確に一撃を叩き込む。繊細かつ大胆に、流麗かつ凶暴に。相手の攻撃をすり抜けて弾丸のような速さで繰り出された拳は、蛙怪人の左眼を抉りとった。
蛙怪人の体に絡みつくような関節技をかけ、左足を逆方向にへし折る。
「医者なめんな!」燃え盛るビルの中に蛙怪人を投げ込むと、蛇怪人の姿のままフードを被って踵を返した。
「
草臥れたソファに横たわりながらスマホを見ていると、最近存在が噂されるようになった謎の人物がいるらしいことを知った。投稿された画像を見てみると、明らかに
***
「蛇怪人が…ですか……?」
ある時期から、街で暴れる怪人だけを手にかける蛇の怪人が現れたということを
「わ〜お!
***
「きさん、疾駆セイバーとか言っとうヤツか?」まだ青い蜜柑を貪りながら猪怪人は問う。
「あぁ、非公式ながら一応そう名乗らせてもらってる」蛇怪人は一言答えると、地を這うように駆け出した。うねるように、また氷上を滑るかのようにスムーズな移動と打撃。小川のせせらぎのように、時に荒れ狂う波のように打ちつける拳。
そして猪怪人の突進をものともせず躱す。
「しけとう野郎…しまやかす!」勢いよく飛びかかる猪怪人の顔面を、迎え打つように蛇怪人の飛び蹴りがぶち抜いた。「洗濯だるいんだよな…」蛇怪人は足を引き抜くと、溶けていく死骸を見つめていた。
倫悟と葵が駆けつけた頃には既に猪怪人の姿はなく、その場にはパーカーのフードを目深に被った男が立ち尽くしているだけだった。
「貴方達、疾駆セイバー……ですね?」男はフードを上げて2人の顔を交互に見ると、2人の方へ歩いてくる。「そうだが、君も疾駆セイバーを名乗っているんだろう」葵は右手を差し出した。
「俺の名前は葉刈葵、それとヘリアス。正式に疾駆セイバーとして協力し、共に戦わないか?」そう提案した葵の手を握りながら男は答える。「俺は赤樹篤泰です。名前はそうだな… Colubridae…あ、コルブでお願いします。」
正義の蛇怪人は、こうして疾駆セイバーコルブを名乗ることになった。
戦士 疾駆セイバーコルブに迷いはなかった。
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