第4話「予知夢」


「おい、起きろ」


その一言で私は目が覚めた。

眩しい光が眼を突き刺す。


「おはようさん」


身体を起こして辺りを見回す。

僅かな木々と果てまで見える道路、そのくらいしか無かった。


「どこ?」

「ルート36、ガソリンスタンド」

「なんでそんな辺鄙な」

「ここはまだの手に掛かって無いからな」


ドウマは笑った。

以外にも歯を見せて笑うタイプ。

私は荷台から降りて、少し伸びをする。


「あれ、トウリ君とルカちゃんは?」

「そこのダイナーで飯食ってる」


ガソリンスタンドに付設しているダイナー、そこを指さした。


「キョウカも飯食ってこい」


ドウマはそう言うと、ポケットからコインを投げ出した。


「いいの?」

「ああ、ガキは遠慮すんな」


追いやるように手を振られ、仕方ないから食べることにした。

ドアベルの軽い音が通り抜ける。


「いらっしゃい」


還暦を迎えてそうな店主が言った。

カウンター席にはトウリとルカが居る。


「隣、いい?」


そう聞くと、トウリは無言で頷いてトーストを一口。


「エッグサンドと…フレンチフライ、あとソーダで」


カウンターの上に貰ったコインを置きながら。


「ケチャップはいるかい?」

「もちろん」

「はいよ」


店内はラジオの声と調理する音が響いて、穏やかな雰囲気だった。


「キョウカ…だっけか」

「うん、なに」

「この先どうするよ?」


ナプキンで口を拭きながらトウリが言う。


「俺は…ドウマに着いてく。ルカも居るし、それが一番良い選択肢だと思ってる」

「素性なんて知らねぇけどあいつ、結構金持ってそうだから」


オレンジジュースを頬張るルカの頭を撫で、窓の向こうを見つめる。つられて振り向くとタバコを吸いながら、トラックに寄りかかるドウマが見える。


「私は…」


香ばしい匂いが私の鼻を通り抜ける。


「はい、お待ちどおさま。エッグサンド、フレンチフライ、ソーダね」


店主はカウンターに置いたコインを取り、ポケットへしまった。

私はすぐに大きな口を開けてかぶりつく。

こんな時でも私の舌は正直だ。


「美味しいよ」

「はは、嬉しいね」


コーヒーを淹れながら言った。


「聞いてもいいか?」


急かすように聞いてくる。

まぁいいよね。

もう私の中では固まった事だし、トウリたちには関係ない事だし、何より私の問題だから。

言ってしまおう。


「私はレント・アレグロを殺しにいく」


トウリは驚いていなかった。

というか呆れている。

でもそうなるのも理解できる。


「思ったよりも子供だったんだな」

「本気だよ、私は」

「じゃあどうやって?」

「これで一発、ドンって」


私は内ポケットを指さし、それから銃を撃つ真似をする。


「馬鹿みたいな事言ってないで現実見ろ。もう帝都は機能してない、先週のデカいの一発で完全に終わった」

「ううん、終わってない。私がいるから」

「じゃあお前一人で何が出来んだよ。帝都に行っても撃てずにお前が撃たれて死ぬだけだ」

「死んだらそれはそれで素敵なことかもね、今の世の中じゃ」

「…おねえちゃん死んじゃうの?」


今まで一言も喋らなかったルカが初めて言葉を発した。

それも悲しい言葉を。


「大丈夫、死なないよ」


トウリのように頭を優しく撫でる。

それからまたオレンジジュースを口いっぱいに含む。


「なぁ、本当に戻るのか?地獄に」


地獄。

あの惨状じゃその言葉がお似合いかも。


「うん」

「頑固だな」

「案外そうかも、それじゃあね」


私はソーダを一口流し込み、席を立つ。

あまりにも清々しくて、全部を流してしまいそうで、薄い透明なふちは少し濡れてて、どこか綺麗で艶やかだった。


不意に靴紐が解けて、ちぎれる。

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