第一曲目 第二楽章

ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト


18世紀終わりにオーストリアはウィーンにて、数々の名曲を作り上げた音楽家


僕のいちばん好きな音楽家の一人だ。


「ピアノフォルテの1オクターブ内全てを押すなんて、君も中々酔狂な事をする。ま、天才の私でもよくやったのだがね。」


先ほどは、『その12音でいい音楽を作れる』的なことを言っていたのに、矢継ぎ早に言ってくる。


「さて、いま私しか語りかけてないが、君には言葉ないのかね?それともピアノフォルテで語るのかい?」


そんなことできるか。あなたにピアノの旋律に聞かせるわけにはいかない。直接的に、かつ辛辣な事を遠慮なしに言ってくる。そういう手紙が残りすぎてる音楽家だ。


いやまて。絵だろ?なんで喋ってるんだ?てか、耳も聞こえてるのか?


「ああ退屈だ。せっかくひどい音で目覚めたのに。せっかくそこに音楽家がいるのに。私の才能に触れたいと思わないのかい。なんと退屈でつまらない人物だったか!」


「いや、流石に勝手すぎる!!」


ただでさえ、辟易としているのに、この音楽室という名の僕の安全地帯に、しかも心の安全地帯まで土足で踏み込まれたらたまらない。あ、モーツァルトは室内にいるのか。でも、ヨーロッパは寝る時以外外履き脱がないから。て、そんなことはいまはいい。


「あの、おま、えは、、やだな、、貴方は、絵か写真でしょ?なんで喋ってるんですか?」


「やっと言葉を使ったな。私は、私だ。絵だの写真など私を囲ったところで、私と私の才能は世界に滲み出てしまうものだよ。まさしく、アマデウス(Amadeus)=神の愛 を抱いた人間というとこかな」


「そんな無茶な」


正直、ホ◯ワーツの校長室になったかと思った。ここは音楽室だ!!部屋の違いではないが。

そういえば、と疑問をいだいた。


「あの、なんで日本語をしゃべれるのです?」


「ああ、もちろんこの部屋に来た時にはわからなかったがな、聞いているうちに覚えた。知っての通り、私は耳がよくてね。モテットでも聞くだけで採譜できたほどの耳だ。それに、君らは、大きさを様々な板を使って言葉を並べるが、私は宮廷語と舞台語と生活の言葉と、他にも多くの言葉を覚えたからな。なんら難しくないさ。いや、ここの言葉は文法だけは苦労したかな?」


そういえばモーツァルトは、トリリンガルだったと聞いたことがある。当時のウィーンでは、宮廷がフランス語、オペラはイタリア語、生活はドイツ語であった。モーツァルトはそれらを使いこなしていた、と。


「まあせっかくだ。私にとっては久しぶりに音楽家がピアノフォルテを弾いているんだ。君の音楽を聴かせてもらいたいな。私がレッスンしてやろう」

…え?あの、モーツァルトがレッスン??

絵の中から?


「あの、レッスンて、僕は何をすればいいですか?」


「レッスンなのだ。君が、君の才能を発揮できる曲を聴かせてくれたまえ。」


僕の、才能。


演奏家として、音楽家としての自負はある。

けど、才能というものに、僕は打ちひしがれ、挫折し、いまこの仕事をしているのも、また事実だ。

でも、モーツァルトを目の前にして、心からの言葉が口をついた。


「フィガロの結婚から、フィガロのアリア、Non più andrai farfallone amoroso もはや飛べないぞ この蝶め」

僕が、声楽を志すきっかけになった歌

「この曲を、ぜひ聴いてください。そして、教えてください。」


「おお、奇遇だな。その曲はよく知っているよ」



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