リトル男の行き詰まり

 あれから何日たったのだろうか。厳密な数字は覚えていない。それほどには長い期間だ。進展を探って早......何日か。覚えてもないのにこういう伝え方はよろしくないな、三千里ぐらい?──まあ長かったってことが分かればいい。

 何日か覚えていないというのは、潜入がとてつもなく濃かったわけではなく、全くもって逆。この何日かがつまらなすぎたということだ。進展がなく、部活もほぼ凍結状態。今はもうコタロウがいつしか言っていた秘策を待つ日々になっている。だがその日々が何もない時間ではなかった。中身でいったらそこそこ濃い。それをつらつらと列挙しておこう。

 まず、あの潜入の後、鉄塔の上であった事をアヤノに話した。今後リトル男の詮索を続けるかどうかの決断も迫った。アヤノとコタロウの続投要求で、結局”最悪な事”に突き進む事になったわけだが。これで私達は後悔を思い知ることが確定したわけだ。初めての、死を経験する後悔の味を、知らなければならない。おぞましいものだ。今でも私の横で、最悪な事は変な笑みを浮かべている。

 あとアヤノがカスミンを探っていたが、成果は無し。学校のHPも教員紹介も、忠告の際の探りも何もボロはでない。ありていに言えば、カスミンは普通の教員だ。隠されていなければだけど。

 そしてそこからのリトル男の進展も無し。秘策も知ることが出来なくなってしまった。コタロウが学校に来ないからだ。この決定の後にコタロウは学校に来なくなった。何やら不安にもなる時期の休学だが、アヤノは連絡が取れているらしいので、もしかして既に、なんて私の思い過ごしだったようだ。

 コタロウがいなくなったということは、勿論あの自作ラジコンも全てなくなっていた。いなくなった時に忽然と。一日であの量は無理ではないかと思ったが、あいつのラジコンは既に完成されていたようで、それを利用すればまぁ無理ではない。あいつのラジコンは六脚で大地を踏みしめて、本物リアルでは無理な量の武器を抱え、70キロで空中を飛ぶ。そんなのを数十機持っている。放棄地では、あいつが最も軍事力があると言っていい。学校に目の敵にされてもおかしくはない。そして指導者にも、いや、これも思い過ごしか。

 あと、濃いもので言えば、──オカルト部の廃部が決定したことか。これはカスミンによるものじゃなくて、校長による、学校の総意のもの。これにはさすがのアヤノも拒否できず、オカルト部は事実上廃止になった。まぁ私の部屋が部室になっているんだけど。勝手なものだ、特に活動はしていないから許しているけれども、レジスタンスを関係ない所でやるのはどうかと思う。

 結局私達は後悔に進むのだが、今のように足踏みを続けていれば、次第に最悪な事は遠ざかる。そして、サンダーバードのように忘れ去られてしまえば万事解決。それに私は期待しているのだ。アヤノは嫌だろうけど、それこそが私達の唯一ある後悔のない道......後ろを向いてそのまま全力疾走だ。道は前にしかないわけじゃない。前にも横にも、上下にだって行ける。私達は後ろに行くのが一番いい道だったのだ。アヤノとコタロウにも後悔決定時に釘は刺しておいた。

「忘れるぐらい進捗が無ければ、この案件は終わりだから。これは、あんたたちにとっての戦略的撤退だと思って。後ろに前進という意図でくみ取ってもいいよ。進捗が無ければ案件は放棄。いい?」

 これには二人も了承した。それは二人が恐ろしさに気づいたわけではなく、案件の取捨選択なだけかもしれないが。一応の逃げ道は確保できたのだ。

 でも、その逃げ道をこの後ふさがれるわけだけどね。私達は、逸脱の民になった時点で逃げ道は無かったのかもしれないと、思い知らされる。

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