第20話 守る者と隠される者
急ぎ社に戻った私たちは、境内へ続く階段で足止めされていた。
強力な結界によってこれ以上階段を登ることが出来ない。
「これほど強固な結界なんて……」
「どうしよう。中に入れない……」
「母上ッ!!」
なりふり構わずに結界に突撃する。
――ゴチン!!
「あぐッ……」
しかし、その私の無謀な突撃は、結界によって生み出された障壁に額を強打しただけで終わった。痛い……。
「壱希ッ!? ちょっと大丈夫なの?」
「お姉ちゃんッ!?」
「は、はい……」
ペタンと腰が抜ける。
目と鼻の先に母上がいるというのに、私には何も出来ない……。
「いづなは壱希をお願い。私が何とかしてみるわ。――少しでも風穴を開けられれば」
鈴奈が結界に干渉しようと神力を流す。
ですが、その神力は結界に浸透する前に結界表面を流れて霧散してしまう。
それを見たいづなも鈴奈に協力するが、二人の神力は先と同じようにあえなく霧散した。
まるで他者の神力を一切合切拒絶するかのよう。
どうする? どうしたらいい? 神力が浸透しないのであれば結界に干渉することすら出来ない。
無理矢理こじ開けるだけの神力は鈴奈やいづなには無い。
「でも、どうしたら……」
結界に手を触れる。
母上の神力を感じる。と、同時に触れた手の部分から私の神力が吸われるのを感じた。
あれ? 鈴奈やいづなの神力は拒絶されていたのに?
これは神力供給なのでしょうか。現在進行形で形作られているこの結界は私の神力をも糧にしようとしている?
なら、もしかして私の神力ならこの結界に干渉できる?
「鈴奈。いづな。お願いがあります。私の神力を使って結界に干渉してみてください」
「わかったわ!」
「うん。わかった!」
二人と手を繋ぐ。
二人が結界に触れると直ぐに私の神力が吸われていく。
そして、結界に微かな揺らぎが生じる。
「これならッ。いづな、一気にこじ開けるわよ!」
「うん」
一気に私から神力が吸われていく。
――ドクン
胸の奥底で何かが……?
そして、次の瞬間、結界に穴が開いた。
「飛び込むわよ!」
「うん!」
「はい!!」
鈴奈の掛け声で私たちは結界の中に飛び込んだ。
――ドクン
結界の中は外と変わりなかった。
変わったことと言えば、外のことが全く分からなくなったことだ。
その代わりに中のことが良くわかる。
境内に母上の気配。と、もう一つ、なんだろう何処か懐かしい気配? だけど、そのもう一つの気配に対して私の中の何かが警鐘を鳴らす。
カクンと膝が折れて、私はその場に座り込んでしまう。立ち上がろうにも完全に腰が抜けて立ち上がれない。
これは、恐怖? そうだ、怖い。この先に居るモノが心底恐ろしく感じる。
――ドクン
「あ……。あぁぁぁ……」
「壱希! 壱希!? ちょっと大丈夫なの?」
「あうッ!? す、鈴奈。す、すみません。あ、足が動かなくて……」
「わかったわ。いづなは壱希をお願い。私は先に行くから、動けるようになってから来て」
「――あッ!?」
鈴奈が階段を一気に駆け上がっていく。
止めようと伸ばした私の手は、鈴奈に届くことなく空を切った。
鈴奈の背が遠のいていく、同時に私の中の嫌な感じがドンドンと膨らんでいく。
いけない。このままじゃ、いけない。
「いづな。肩を貸してください。私たちも行きましょう」
「で、でも――」
「大丈夫です。私は大丈夫ですから……」
不安そうな表情のいづなを諭す。
「う、うん。掴まって」
いづなの肩に掴まって何とか立ち上がる事はできた。
そして、一歩を踏み出そうとして、出来なかった。
脚が震えて、いえ、全身が恐怖に震えて動かない。
「壱希お姉ちゃん?」
不安そうに私を見上げるいづな。
早く、早く行動しなければいけないのに、焦燥感だけが増すだけで私の体は言うことを聞かない。
駄目。このままじゃ、このままじゃッ!
『なら、代わりなさい』
――ドクンッ!!
「うぐッ!?」
「い、壱希お姉ちゃんッ!?」
胸が痛い。苦しい。駄目。いけない。この声は、この声だけには……。
『あなたでは誰も救えない。母上も、鈴奈も、いづなも、誰も救えない。――父上を救えなかったように』
「ッ――!?」
彼女のその言葉が私の心を抉った。
それが私の心に僅かな隙を作る。
そして、その僅かな隙さえあれば彼女にとっては十分だったのでしょう。
黒い靄に包まれるようにして、私の意識はそこで途絶えた。
「母上。鈴奈。今行きます」
「え? ええッ?」
“私”はいづなを置き去りにして一気に跳躍した。
そして、視界に入った境内の光景。
それこそが、“私”の犯した大罪と、永遠に終わることのない贖罪の始まりだった。
***
それは壱希たちが社を覆う結界に気付いた直後まで遡る。
「来ましたか」
社に強固な結界を張った壱与は社殿の前に現れたソレを見て静かに向き直った。
そこに居たのは胴体から竜の三つ首を生やした異形。
体高は七尺を超えているだろうか、壱与と比べても二回り以上大きい。
『まさか、結界内に侵入した我をもう一つの結界で強制的に隔離するとは。貴様、強化体か?』
異形は、凶悪な見た目に反して、穏やかな口調で壱与へ問い掛ける。
そこに敵意は無く、むしろ感嘆の色すら見え隠れしていた。
「その強化体というのは存じませんが、あなたを此処に招いたのは私です。さて、あなたは何故私共の隠れ里にいらしたのですか? 返答によっては――」
壱与は手にした太刀の鍔に親指をかける。
『交渉の余地はあるということか? ならば、この里にヤツの――いや、辰の魂を宿した者が居るであろう? それを引き渡してもらおう。我の要求はそれだけだ。要求さえ叶えられれば我はこの里へ手を出さぬと確約しよう』
「ふふ。里の守護者としてその提案は大変魅力的ではありますね」
『クハハ。食えぬ人よな。だが、既に答えは決まっていると見た』
「ええ。残念ながらその提案はお断り致します」
『そうか。ならば貴様を倒してからじっくりと探すとしようか』
轟。と空気が震えた。
直後、強烈な殺意が壱与を襲う。
常人なら失神しかねない殺意を浴びて、しかし、壱与は口元に笑みを浮かべると帯刀していた太刀を鞘から抜き放ち――鞘を捨てた。
『クハハ! 我に挑むか人よ。面白い。ならば死に往くそなたの名を聞かせては貰えぬか?』
「私の名は、上代壱与。この里の守護者です」
『そうか。ならば我も名乗ろう。我が名は神使ブネ。十二柱より遣わされし七十二使が一使也!』
直後、守護者と神使は激突した。
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