第12話 最後の転生
俺は、パトカーの中で気絶していた。
若い刑事が俺に声をかけている声で我に返った。
額と体にはじっとりと汗をかいた後の不快感が残る。
若い刑事に支えられ、自分のマンションへ戻る。
まったく…情けない。
…そう言えば…手のひら血がにじんでたけど…
俺は、ゆっくり手のひらを確認した。
手のひらには小さな絆創膏がいくつか貼られていた。
それに気づいた若い刑事が
「その絆創膏、俺がつけました。気絶してる時に声をかけながら消毒とか済んでますんでもし、血が止まってたら外してください」
俺は、絆創膏と刑事を交互に見た後、お礼を言った。
「ありがとうございます…」
刑事は、何か少し言いづらそうに眉間にしわを寄せる。
「…この意識障害は心因性ですか…?」
俺は、刑事が貼ってくれた絆創膏をみながら頷いた。
刑事は、また質問をする。
「…病院には通われていますか?」
「…はい。」
「処方箋などは…」
「…ありません。カウンセリングで治療を進めています。」
「…そうですか…」
刑事は、何か考えるように俯いた。
そして、語り始めた。
「…俺には、年の離れた姉ちゃんがいるんですけど、ある日…突然働いてる時間に帰ってきたんです。その時、まだ学生だった俺しか家にいなくて…その時、俺姉ちゃんに声かけたんです。一瞬怯えたように体がはねたあと…いつもの優しい顔で俺に言ったんです。「今日、体調不良で帰ってきちゃったからおつかい頼んでいい?」って。」
俺は、何の話かあまりわからなかったが黙って続く言葉を待った。
「家からだいぶ遠い場所のスーパーへ買い出しを頼まれました。姉ちゃんは、俺にお金を渡してから玄関先で見送ってくれました。思春期だった俺は、恥ずかしいとか何とか言いながら自転車に乗って一時間以上かかる場所まで買い物に行きました。なんでだよ。とかいろいろ思いながらも頼まれた菓子パンやらジュースを持って部屋に入ると真っ暗だったんです。何故か嫌な予感がしました。」
刑事は、俺に長話すみませんと頭を下げる。
大丈夫だから話してほしいことを伝えてから話の先を促した。
「ずっと鳴りやまないシャワーや水の音に俺は違和感を感じました。そして俺は意を決して浴室に声をかけました…少し空いている浴室から見えた床を見て俺は…血の気が引きました。…真っ赤だったんです…一面。俺は…叫びながら隣の人に助けを求めて救急と警察を呼びました…」
俺は…思わず息を呑んだ…
俺も…お姉さんと同じ境遇になるところだったんだ…
「姉は自分から死を選んで最後の手紙は、会社が辛いこと。自分がいらない人間だということ…家族への感謝でした…」
俺はいつの間にか刑事をみていた。
「…結局。姉を追い詰めた会社は潰れず。追い詰めたと言われる人物達も解雇されることはありませんでした。
俺が、刑事になったのは…姉の死の原因である人達が今も…のうのうとしていることが受け入れられなかった。加害者はのうのうと生き続け…被害者が苦しみ続けるのはおかしい。敵を取りたいという不純な理由です。」
俺はやっと声を出した。
「…ひどい会社だ…俺の会社もか…」
刑事は、俺をじっと見たあと、絆創膏へと目を向ける。
「すみません…姉と重なってしまって…」
俺は、静かに首を振った。
「…大丈夫です。俺。まだ死ねませんから…」
刑事は、俺へ手を差し伸べた。
俺はその手をしっかりと握った。
刑事は、俺を見て頷く。その目には力が宿っていた。
「必ず終わらせます。」
刑事は、そういうと握る手にさらに力を込め握手してきた。
正直痛いほどではなかったが、何か固い決意のような物は感じた。
刑事はパッと手を離した後、俺に
「気をつけてください」
そう伝え、乗ってきたパトカーに乗り帰っていった。
……。
俺は、自分の部屋に行く道中考えた。
一人捕まってはいるが…まだ問題はある。
あの二人がいる限りは何も動かない。
結局。同じことが起こる…
俺は、部長へ連絡をした。
明日。俺は、計画していた事を実行する。
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