第13話 最終回 別に死んでもないし転生もしてないけどいっぺん死んだと思って人生やり直します。
部長へ連絡を入れる。
部長も準備は整ったと話してくれた。
明日…俺は。会社を壊す。
決行はすべての部署から職員が集まる朝礼時。
いつもの朝礼は部署ごとだが…
今回の件もあり、全体で行うとのことだった。
…これは。好機だ。
俺は…全然寝付けなかった。
だが、これはいつもの嫌な寝付けなさとは違う。
ただただ高揚して眠れなかった。
高揚した自分を抑え込むように俺は目をつぶった。
気づくと朝になっていた。
支度を済ませ、俺は会社へ向かう。
運転する手には少しの動揺と高揚が入り混じる。
これから起こるかもしれないことを考えると…少々身震いする。
会社の玄関口で部長と合流した。
目を合わせ。コクリと頷く。
始まるのだ。俺も含め誰かにとっての終わりが。
部長は俺の背中にポンッと手を添えた。
「…全てさらけ出そう。そして変えよう。」
俺は、部長の言葉に頷く。
先に進む足は気持ちとは裏腹にだいぶ重さはあるが、部長の言葉に少し救われる。
俺達は会社につき、タイムカードをいつものように押す。
すると後ろから声がした。
振り返るとそこには。社長が立っていた。
少しやつれたような表現で俺達に手招きをする。
俺と部長は、顔を見合わせたあと社長のほうへ駆け足で近づいた。
「少し時間をくれないか?」
社長は、俺達を力なく社長室へ案内した。
社長は、俺達のほうへ向き直ると床に手を付け、頭を付け…土下座をしていた。
「この度は妻がすまない!!まさか。こんなことになっているとは知らなかったんだ!こんな言い訳で許されるはずはないが謝らせてくれ!!」
俺は、社長へ駆け寄り肩を支えようとした。
その瞬間。後ろから冷く低い押し殺すような声が聞こえた。
俺は。後ろを振り返る。
…部長…?
「今度は…何にたいして…土下座されているのですか…?社長…?」
社長の肩がヒクリと微かに動いたのを見逃さなかった。
「あなたは。私が。奥様やその取り巻き達の不正、パワハラなどの証拠とともにこの会社の改善を進めて行きましょう。と伝えた時。
…その時も土下座をなさっていましたね…?「妻の不始末は私の責任だ。今後は、私が厳しくチェックをしていく」とおっしゃいましたよね?」
社長の体が微かに震え始める。
「じゃぁ。何故。このような状況になっているのでしょうか?」
「そっ…それは…」
社長は、微かに声を漏らす。
「…出来ない…でしょうね…だって。あなたは奥様。そして取り巻きにも弱みを握られているのですから。」
社長がガバッと体を起こす。
その顔には血の気はまったく感じられない。
「…どこまで…知っている…?」
「…どこまででも…あなたのしてきたこと…奥様がしてきた事…全て証拠を取らせて頂いています。」
「…君は…雇われ部長だったろう…?友人から優秀な人材がいるから勉強がてらこの会社で働かせたらいいと言われて…君を雇った…そんなやつが…わかるわけ…」
部長はふっと息を吐いたあと続けた。
「あなたは私に…いいえ。私達に時間を与えすぎました。」
社長の顔がワナワナと震え始める。
心当たりがあるようだ。
「…あなた。そして奥様…その取り巻きから提出される用途不明。明らかに改ざんされた領収書の処理…事務所の社員さん方にさせているそうですね…?見かけは口封じもしっかりされていたようですが…
まぁ…一人一泊10万円以上する海外のホテルの領収書。これはいささか…出張とは無理のある話ですよねぇ?あるときは、私のデスクの鍵を勝手に使って部所金を使おうとされた日もあったとか。そして…部所金の預け先を冴島くんにしたことに腹を立てある社員さんが…難癖をつけに行った事もそうですね。冴島くんから証言を得ています。そして、冴島くんに仕事とは別に用途不明の部所金の照らし合わせや接待、出張日の支出の照らし合わせ、噂の裏取りなど行っていただきました。」
かなり骨の折れる仕事ではあったが、かなりの証拠が残っていたお陰で相手が誰なのか使った用途、ホテルの割だしなどスムーズに行うことができた。
それに俺は、倉庫に隠れて仕事をしたり、早退することもあったため、あまり他の社員に見られずに証拠集めをすることができた。
まぁ、パワハラ音声なんて日常茶飯事だったからすぐ証拠は集まったんだが。
社長は、漫画に書いたようなシドロモドロさでこの場を切り抜ける方法を模索しているようだった。
部長は、その姿を見てもなお言葉を続けた。
「それと。奥様が握っているあなたの弱みは…女性の影…ですね?」
社長の動きがまたピタリと止まる。
「会社のお金を使ってあるホステスに貢いでいた。だが、その事がバレてしまった。奥様とその取り巻きは、それをつかって社長を脅し始めた。「会社が成り立つのは私達が秘密を秘密のままにしているからだ」と。そこからは…今の通りです。」
俺は、社長から静かに離れ、部長の隣へと戻った。
社長は絞り出すように言葉を口にするが聞こえなかった。
「社長。あなたは、社員にも手を出そうとして執拗にある女性社員への付きまといなどあったようですね…それを見た奥様は…その社員をひどくいじめ始めた。」
「つッ!そんな!いじめ始めたなんて!!」
社長は、床に座り込んだまま声を荒げた。
部長はなおも冷静に冷たく言い放つ。
「…その社員さん。どうなったかは…ご存知ですよね…?ご自宅で……第一発見者は弟さんだと聞いています…その弟さん。…刑事さんになられたそうですよ…?」
社長は、額の汗を拭う。
ボタッボタッと落ちた汗が床に溜まっていく。
顔色はどんどんと悪く青白くなっていき、呼吸も荒い。
「そっ…それに関しては終わった事だっ!」
社長は絞り出す様に声を出した。
部長は、社長へと一歩近づく。
「…終わってなんかいないんですよ。負の連鎖は今もなお。続いています。…それも。今日で終わりです。」
部長は、俺の肩にそっと手をおいた。
「…冴島くん。行きましょう。」
俺は、社長へ目を向けることはしなかった。
そのまま部長と社長室からでていった。
俺は、部長と共に朝礼のある会議室へ向かっていた。
社員殆どが入ることのできる規模の大きい会議室の扉を開けるとそこには、すでに社員が揃っていた。
見渡すと御局と上司。その取り巻きも来ていた。
それはそうか。
ホワイトボードからやや離れた位置から俺を睨み、
「まだいる。」「だるすぎ…」
「来るとか図太すぎる。」
「空気読めよ。」
などなど恨み節が聞こえてくる。
まだ開始には時間があるが…先にここにいる社員達に伝えなければならないことがある。
部長は、まっすぐにホワイトボード前へと進んでいく。
それに続いて俺もホワイトボード前へと進む。
部長が、社員全員に向けて声をかける。
「おはようございます。皆様お集まりではありませんが、これより朝礼を始めます。
今回社長はこられませんが、代理として私と冴島から話をさせていただきます。
まず、今回起こりまさした。事件について冴島くんから話を。」
社員達はざわざわとどよめく。
部長はざわつく社員達へ声を荒げることもなくお静かに。とだけ言うと俺へ話を促した。
「おはようございます。今回の件についてお話をさせていただきます。
今回の事件、社長の奥様が逮捕されました。」
さらにどよめく会場に部長はまた、静かに。とだけ伝えた。
変な静けさに包まれる中俺は話を続けた。
「また、今回の件以前からたくさんの問題が発覚し、独自に調査を進めてきました。
まず。会社内で横領や未納税、借金など金銭に関わる問題発覚しました。そして、皆さんも薄々感じていらっしゃる過去から繰り返されるパワハラについて…」
またざわざわとする社員の中にしんっと口を結び、下を向く集団を見つける。
御局を除いて…
俺はその御一行様へ一瞬視線を向けた後、説明を続けた。
「今回。発覚した横領、未納税。そして、パワハラ。この件含めて警察、労基、税務署、弁護士などの関連機関への通報は完了しており、データや証拠品など提出済みとなっておりま…」
言葉を続けようとした瞬間、バン!と音が響いた。
音の方へと視線が集中する。
「おっ…おかしいだろ。…死にぞこない…何やらかしてんだ!!会社への迷惑をかんがえろ!!」
俺は、音に動じること無く続けた。
「…本村さん。
…会社の迷惑?何をおっしゃっているのですか?」
歯をギリギリとさせながら上司は、俺を睨む。
「…死にぞこない…死にぞこない…」
呪文のようにつぶやく。
なんとでも言えばいい。
俺は、深く息を吸った。
「…はっきり申し上げます。この調査は次の犠牲を出さないため。皆さんの日々の仕事を円滑にするために実施したものだったと聞いています。今の現状だけ見れば今は耐えているかもしれません。ですが、いつかは耐えられなくなる日が必ず来ます。そんなことは続かない。キャリアは1からになってしまう。だけど、会社と一緒に事実を知らずに一生懸命仕事をしてきた皆さんが潰れて行くのは…
…どうでしょうか…?
…よく考えてから発言してください。
…今後については部長から話があります。
…部長…お願いします。」
会議室は、静けさに包まれた。
上司らに目を向けるとただただ黙って座っているようだった。
御局だけは、我関せずといった具合に腕組をしながらこちらをを向いている。
部長が前へでて話を始める。
「各部のトップ、並びに同系列企業の社長も交え話し合いや交渉を行いました。
その際に、同系列企業の社長数名から企業拡大という名目で社員を引き継ぐ事が可能とのお話が出ました。今後については面談を設け、一人ひとりに対応していきます。」
社員達からの安堵や不安の声が出る中。
御局が声を上げた。
「あの。この会議。何が言いたいのかさっぱりなんだけど。端的に話してくれない?こっちも仕事あるんだけど。」
堂々とした立ち振舞の理由はこの状況をまったく理解できていないからこそだったのか。
部長は、ゆっくりと御局を見た。
「…あなたは理解できていないようですね。…仕事?いまから何の仕事をなさるのですか?…会社がなくなる話をしているのに?」
「…はぁ…??」
御局は、目を見開き俺達を見つめる。
ここまで来ると滑稽さすら感じる。
「今。社長は、調査に来られた方々と話をしています。現状。このまま行けば会社は、なくなります。今、している仕事も会社もなくなります。御局さん…あぁ。失礼。尾辻さん。あなたの今のポジションも無くなるという事がおわかりですか?」
御局は、眉間にしわを寄せ苦虫を噛み殺す様に睨んでいる。
「…私。この会社の秘密も何もかも知ってんのよ?そんな私に歯向かっていいわけ?それに、社長や奥様と行った会食で顔も広くなったんだから。そんな私に歯向かうわけ?あんた達。次は無いから。」
御局は、フンッと鼻を鳴らし椅子に深く腰掛ける。
勝ったと言わんばかりだ。
「尾辻さん。今のお話。面白いです。お話しいただけますか?」
御局は、はっと短く笑ったあと立ち上がり、俺達のほうへゆっくり歩き始めた。
そして、俺達の前まで来ると意気揚々と話し始めた。
御局は、得意げに横領や社長の浮気、ある女性へのパワハラなどなど俺達が握っている証拠と答え合わせをするかのように話し始めた。
「会食では、ウチと取引のある下請け会社やらライバル会社やらの幹部それに企業の部長やら…あぁ。あんたは呼ばれてなかったけど。」
そう言いながら部長を指さす。
口元は、にやりと歪み勝ち誇ったようだった。
俺は、じっと御局を睨みつけた。
部長は、なおも冷静に表情を動かすこと無く話を聞いていた。
「社長は、太っ腹だった。会食のお金を出すだけではなく。「これからもご贔屓に。」って封筒まで渡して…私達にも封筒を…」
そこまで話し終わったあと。
御局は何かを感じ取ったのか、周囲を見渡した。
社員達は、薄気味悪い程静まり返っていた。
「…なっ。何よ。
…あぁ。この話を聞いて羨ましいなんて思ったんでしょ!
……ねぇ!!そうでしょっ!!!」
「…残念…」
静まり返った空気を切るように部長が言葉を切り出した。
「…全部…知ってます。」
「…へっ…?」
御局から力ない声が漏れた。
御局は、後退りをしながら
「また…嘘でしょ?ねぇ…」
と力なく言葉を漏らす。
「…会食の会場…私の知人のお店なんです。
今は、別の方がオーナーをされているらしいんですがね。
…少し…コネがあったものですから…
社長へご紹介したんです。
…会食の日。たまたまお店に立ち寄りましてねぇ…えぇ。 たまたま …。」
「…でたらめ…デタラメよ…」
御局は、力なく俯いた。
ブツブツと何か呟いたあと…
部長へゆっくりと近づく。
さっきまで気配を殺していた上司が叫ぶ。
「…やめろ!!!!」
その声と同時に御局が部長へ飛びかかろうと走り出したその瞬間。会議室の扉が開いた。
「会議中失礼します。」
スーツをきっちり着た男女が入ってきた。
それを見た御局は、ゆっくりと二人を見たあと。対象を変えた。
「何?あんた達。」
御局は、男の方をじっと見た後、目を見開いた。
「社長秘書の…」
男女は会議室へ入るとゆっくり御局へ近づいた。
「申し遅れました。こちらでは、社長秘書の長部
女は、ズイッと御局に近づいた後、名刺を見せながら
「こちらでは、新入社員森川
俺は、驚きのあまり部長に目を向けた。
視線に気づいた部長はにっこりと笑っていた。
この人…まさか。
部長は、にこりと笑った顔を元に戻し、社員へ向き直り話をした。
「皆さん。突然のことで混乱していることと思いますが、今後についてなど面談を行いますので一旦、ご自身の部署へお戻りください。」
社員達は驚きながらもわらわらと会議室から出ていった。
その中には、御局と上司、その取り巻きもいた。
「尾辻さん。本村さん。そして、つるんでいた方々はこちらに残っていただけますか?給料以外でいただいたお金…申請されていませんよね?そちらについてと…弁護士の方からパワハラの訴訟の件でお話があるので残ってください。もうまもなく到着されまさすから。」
俺と部長は、弁護士の方と警察の方、税務所の職員が来たことを見届けた後、会議室からでた。
会社の廊下を歩きながら
俺は。部長の背中に疑問を投げかけた。
「長部さんと森川さんのこと…知ってたんですか?」
部長は、沈黙の後
「えぇ…なんせ私が立ち上げた調査会社の社員さんですから。」
俺は。目を丸くしたまま口を抑えた。
抑えていないと声が漏れてしまいそうだった。
部長は、俺に向き直りズイッと一歩近づいてきた。
「冴島くん。君も一緒に働かないか?」
俺はさらに目を丸くしたまま固まってしまった。
それを見た部長は、ハッハッと笑い自分の部署へと入っていった。
その背中に俺はいつの間にか声をかけていた。
「待ってください!部長!俺…
終わり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます