第32話 トリスタンの計画
兄のカールセン公爵は大砲と大砲の間の高台に立って、大声で戦闘を指揮していた。矢があられのように降ってくる。トリスタンのそばにいた兵士の手に矢が刺さった。公爵は顔に灰色の泥がついて、必死の形相で戦場に立っている。
「兄上!」
トリスタンが叫んだ。
公爵は弟の姿を認めると、近くまで降りてきて、トリスタンの背中に手を添えると矢の飛んでこない場所へと連れていった。
「なんの話だ?」
ニコラスが水を飲みながら聞く。
トリスタンは鋭い目つきで兄を見た。
「冬の城へ行くって話をしたでしょう?兄さんたちがあの事件を起こす前に」
「ヤッスラに行って、どうするつもりだ?」
ニコラスが聞く。
どこかで、雷の鳴るような轟音が鳴った。男たちの苦悶の声が聴こえる。二人は無表情で、お互いを探るように見ていた。
ニコラスは寛大な兄を演じながらも、相手を自分の思い通りに操ろうとしている。一方、トリスタンは兄を不審の目で見ていた。
「ピーター・ドールの婚約者と太后を救出するんです」
「ヤッスラの城に移送されたみたいだな」
公爵がすべらかな声で言う。
「だが、二人を取り戻してどうする?たしかに太后はあのような試練にあうべき方ではない。然るべき敬意を受けるべき方だ。だが、エミリーは……」
「兄さんの言ってることはわかってる。恋敵の婚約者を助けるなんて間抜けだって。でもそれしか方法はないんだ。あいつはは恋人のこととなると戦争の勝敗なんてそっちのけだし、プリシラは情に負けてドールの言いなりになってる。このまま状況が続けば、兄さんは大公に負けるだろう。大勢の兵士たちが命を落として……」
ニコラスは皮肉に唇をゆがめた。
「お前が義務を果たしていたら、こうはならなかっただろうな。王になることだってできた。ピーター・ドールをプリシラから引き離すことだって……」
「乱暴なやり方でプリシラを思い通りにできると思ってるんですか?彼女がそんなに従順だなんて……。僕はプリシラを差し置いて王になろうなんて、一度も考えなかった。兄さんでしょう、プリシラを思い通りにしたかったのは」
トリスタンが淡々と言う。
「好きなように考えればいいさ。だが結局のところ、お前の決断は賢明なものなんだろう。精鋭を連れていけばいい。もしドールの女がお前に逆らったら、喉を掻っ切るんだ」
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