第25話 灰と化した島
故郷に帰っても、そこに愛する
ピーター・ドールは大地の上に立って灰と化した島を、惨劇のあとが痛々しくのこる故郷を眺めている。
十字の島は大公の兵士たちがやってきて、虐殺、拷問が繰り返された後に焼き払われていた。黒焦げになった男や女、老人や子どもの遺体が道端に転がっている。
領主館は見る影もなかった。母のいた居室の壁だけが残り、あとは瓦礫と灰の山。肘掛け椅子にはエメラルド色のビロードのドレスがかかり、焼けた白い骨が絨毯の上に寝かされている。
プリシラがそっとピーターの肘に触れた。
「お母さまね……?」
沈痛な声を出す。
ピーターが無言でうなずいた。
「なんてことを……。なんてひどいことを。エミリーは?あなたの婚約者は?」
プリシラがたずねる。涙が頬を伝っていった。
「不明です。あまりに遺体が多くて……」
ピーターは険しい顔をして、地面を見回し、婚約者の名前を呼び始めた。必死の形相で……。
「まあなんて恐ろしい……」
リリーが後から駆け寄ってきて言う。
兵士たちは異様な光景と死体のやける強烈な匂いに吐き気にもよおされて、目を逸らした。だが、どこを見ても死体だらけ……。
さて、島にはまだ焼き尽くされていない場所、惨殺されていない住民が残っていた。地獄のような暴力を目の当たりにして、まだ生きている。プリシラは慄然とした。どうしてこの人たちは生き残ってしまったのか。
「貴婦人が連れ去られていきましたよ、あの男たちに……」
住民がおびえながら言う。
「領主様の婚約者が……」
プリシラはあまりのことに身を震わせた。どうやってピーターに伝えるべきだろうか。ついこの間婚約したばかりの恋人が大公の人質になったのだと……
「どこに向かうんです、それで……」
バートンはプリシラにたずねた。ピーターの打ちひしがれた背中を遠くから見つめながら……
「公爵と共に戦うわ」
プリシラはそう言うと身震いした。寒気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます