第26話【珍獣はかく語りき ②パンパカパーン】

 閉園してから、かれこれ二か月くらい経ったやろか。

 わしが生を受けてから、今の今までずっと生活してきた玉子動物園のコアラ館とも、とうとうお別れの時が来てしもうた。

 わざわざに、大川のおっちゃんも休み取って駆けつけてくれよった。

 久々におっちゃんの顔見たら、なんや胸がジーンと熱うなってしもたなぁ……。


 リッテ製菓の兄ちゃんから、当選者に渡すための手紙を預かったんやが、流石に漢字は読めへんので、大川のおっちゃんに読み仮名を振ってもろた。

 ちゃんと噛まずに読めるか、ちょっと心配やったけどな。 


 段ボールの中には、ふかふかのクッションと、三日分はあろうかいうくらい、ユーカリが敷き詰められとった。

 長旅になるんか……と思っていたら、行先は玉子動物園のある神戸市の隣の隣、西宮市やそうな。……ちっか!

 とはいえ、環境はガラリと変わるやろうし、住み慣れたコアラ館を去るのは、やっぱり寂しい。不安がない言うたら、そら嘘になるわな。


 出発前には、大川のおっちゃんと昔話しながら、友達や家族のことを思い出してた。気がついたら、もう出発の時間になってて……最後は笑顔で別れたかったんやけど、それは無理やった。

 お互い、顔は必死に笑顔作っとるのに、涙だけはごーごー流れとったなぁ。


「今までありがとう」

 最後に交わした言葉は、それだけやったけど、ほんまに心から出てきた一言やった。

 出会えたことに、感謝や。



 トラックに積まれる頃には、泣き疲れて寝てしもうとった。

 どれくらいの時間が経ったんかはわからんけど、目が覚めたら、何や知らん人間のメスの声が聞こえてきた。どうやら二人のメスがおるらしい。なんやドキドキしてきた……。


 けどな、そのドキドキはすぐにイライラに変わったんよ。

 外での会話がちょくちょく聞こえてくるんやが、さっきから『なんかクサい』だの「うそでしょー」だの、ギャーギャー騒いどるからや。

 こっちとら長時間、狭い箱に入れられとんねやぞ!


 黙っとってもらちが明かんから、「はよここから出してくれ」って言うてやったんや。ほなら、また急にギャーギャー言い出しよってなぁ。

 わしその声に驚いて、ビクってなってもうたんよ。そしたら、片方のメスがわしに向かって『怪獣やー』とか言いよるんよ……。


 いやいや、わしこんな可愛い珍獣ちゃんやで。自分で言うのもなんやけど。

 そこんとこ、そろそろ分かってくれたかなぁ~思て、箱を開けてくれるん待ってたんやが、まぁだ外でゴニョゴニョ話しとるから「心配せんでも噛んだりせぇへんで~」って声かけたんよ。

 そしたら、やーっと箱を開ける決心がついたみたいやねん。

 ……でもな、なんや物騒な話が聞こえてきたんよ——。


 『もし箱の中からホンマに怪獣が出てきたらどうする』とかほざきだして、片方のメスが、もう一人のメスに向かって『武器取って来い』言うねん!

 いや、だからわし攻撃力ゼロやっちゅーねん! 可愛さはMAXやけどな♪


 いやいや、冗談言ってる場合やないねん、わし!

 武器は何がいいかっちゅう相談も普通に聞こえてて、あげく『包丁持って来い』いう言葉を聞いた時は、これはシャレにならん思て、流石のわしもかなり焦って、咄嗟とっさに「わしをどうするつもりやねん」って、声を荒げてしもたわ。


 さすがに包丁はやりすぎやと気づいてくれたんか、結局フライパンで落ち着いたみたいやけど……それも要らんっちゅーねん!

 とにかく、箱を開けてくれさえすれば、いくらでも交渉の余地はあるから何でもえぇわ思て、じっと待っとった。

 『せーの!』いう掛け声と共に、テープがビリビリっと剥がれて、ついに光が差し込んできたんよ。……やっと解放や!


「パンパカパーン♪」

 ——あ、これはわしが口で効果音付けたやつな。演出大事やろ?

 いつもとちゃう体勢で寝よったさかい、腰がバッキバキなっとってなぁ。ストレッチしながら回り見渡してたら、ふと視界に入ってきたもんに目が釘付けになった……。


 おいおい、話がちゃうやないかっ! ちゃっかり持っとるがな、!!

 『包丁は物騒やからフライパンにしよ』いう話はどこいったんやて突っ込んだら『いざという時に……』やて。

 いや、だから、いざという時なんて絶対こーへんから!!


 まぁでもな、そういうドタバタのおかげで、わしの緊張もどっか行ってしもてた。

 そやそや、例の菓子屋の兄ちゃんからの手紙を代読せなあかんのやった。

 居住まいを正して咳払いをし、手紙を読み上げた。


「この度は、ご当選おめでとうございます。玉子動物園の閉園に伴い、コアラの銀仁朗の譲渡権を大原様が獲得する事となりました。末永く大切にしてあげてください。……って、なんでわしがこの台詞言わなあかんねん! 口恥ずかしいやないかい!」


 せっかく噛まずに手紙を読んでやったのに、二人ともキョトンとして固まってしもてた。

 まぁ、コアラが懸賞で当たるなんて前代未聞やろうし、当然か。

 相手さんも緊張しはってるんや思たから、場の空気和ましてやろうと、渾身のコアラジョークかましたってんけど……盛大にスベッた。恥ずっ!


 とりあえず二人に自己紹介してもろた。母上の英莉子えりこさんと、娘のれいいう名前やった。

 母上が言うには、今日はまだ帰ってきてへんけど、父上の健志けんしと、玲の妹・さくらいうんがおるらしい。

 母上は、『今日から四人と一匹家族ですね♪』って満面の笑顔で言うてくれたんやけど、その手には包丁が握られっ放しやったんで、ちょっと狂気を感じてもたわ。あははは……。


 でもまぁ、なんやイイ感じの家族な気がしてホッとしたのも事実やな。

 動物園が閉園して、この先どうなる不安ばっかりやったけど、案外この家でも楽しくやっていけるかもしれへんなって、ちょっとだけ希望が湧いてきた。

 わしも早よ、この新しい家族の輪に馴染めるよう、頑張ってみようと思た。

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