第25話【珍獣はかく語りき ①閉園】

 ここは、兵庫県にある玉子動物園。

 1928年に開園され、もうすぐ創立百周年……のはずだったが、それを迎えることはできなかった。

 2024年の春に閉園することが決まっているからだ。


 玉子動物園には、かつてたくさんの動物が飼育されていた。

 少し前までは、日本国内で唯一、パンダとコアラを同時に見られる稀有けうな動物園として全国にも名をせていた。

 しかし、コロナ禍による来客者の減少や、物価高の煽あおりを受け、経営難におちいり、遂には閉園を余儀なくされた。


 この話を聞いたコアラである、わし銀仁朗ぎんじろうは、どこか申し訳ない気持ちになった。

 ご存知やろか? コアラの餌代えさだいが驚くほど高いとういことを。

 わしらはユーカリを主食にしていて、それ以外の物を殆ど食べない偏食家なんや。


 そんなわしらの為だけに、専用の農家さんが手間暇かけて育ててくれとるらしい。そのありがたみを知らず、ただ無心にむしゃむしゃと貪むさぼってるんが、わしらコアラの日常や。

 一頭あたりの年間の餌代は、なんと一千万円!!

 ……まぁ、それがどんだけ価値があるんか、わしは正直知らんけどな。


 昔はコアラの個体数も多く、わしらが暮らすコアラ館にも、ぎょーさんお客さんが来てくれよったから、餌代が高くても問題なかったんやろな。

 せやけど、最近になって友達や、わしの兄妹達が次々に死んでもうたんや。今やこの広いコアラ館にいるのは、わし一匹だけになってしもうた。


 飼育員の大川のおっちゃんから聞いた話やと、かつて動物園の目玉やったパンダも、一年くらい前に死んでもうたらしい。玉子動物園の集客の要やった二枚看板が、今やわし一匹……。

 そんな状況で、どんどん客足は遠のき、ついには閉園が決まってしもたゆう訳やな。


 残念やが、当然わしにできることは何もなかった。

 これからどうなるんやろかと考えてた矢先、何や見慣れん人間が大勢やって来た。園長の吉田翁おうと大川のおっちゃんらと何やら話し込んでいる。

 聞けば、リッテ製菓とか言う菓子屋の人間やったらしい。何やよーわからんけど、わしの飼育権を園から買い取ったとかとかなんとか。

 わし、どうなるんやろか……。とりあえず、寝よ。



 次に目を覚ましたとき、大川のおっちゃんに事情をわかりやすく説明してもらった。

 なんや『コアラのマッチョ』とかいう人気(ホンマに人気あんのかいなそんなけったいな名前で……)のお菓子のキャンペーンで、わしの飼育権を懸賞にするらしい。それに当たったら、わしを一般家庭で飼えるようになるらしいわ。

 ……えっ? それ、わし大丈夫なん??

 まぁ、はなからわしに選択肢はないんやろけど……。


 それより、大川のおっちゃんとの会話で、一つ解せんことがあった。

 園が潰れる訳やから、当然そこで働いてた人間たちも別の仕事を探さなあかんなるわな。大川のおっちゃんは玉子動物園からそない遠くない、淡路島とかいう場所にあるウェールズの丘とかいう動物園みたいなとこで働くことになったらしい。そこには、コアラが飼育されてるらしい。


 ……いや、可笑しくない⁉

 わしは知らん家に連れてかれるのに、大川のおっちゃんは、ちゃっかり別の動物園に行くとか可笑しくない⁉

 『わしも連れてってー』って、わしなりに最高のおねだりポーズで懇願してみたんやが、やはり答えは『アカン』やった。

 まぁ、結果はわかってたけどな。


 園長の吉田翁も、長年園を支えて続けてくれてたみたいやが、歳には勝てんみたいで、限界っぽいわ。借金も結構嵩かさんどるらしく、わしの飼育権の譲渡で得た金も、その返済に充てるつもりみたいや。

 そんなこと聞いたら、これ以上わがまま言うわけにはいかんなるわな。

 しゃーない、なるようになれや。


 

 こうしてわしは、段ボールに入れられ、とある一般家庭へと宅配されることになったんや——。

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