あらすじ
明治初期の武陽の街に”舞香”という少女がいた。妖や妖精が視えることで両親から疎まれ居場所のない彼女は、16歳になったことを機に嫁に出される。
嫁ぎ先は”清春”という名の武士のもと。彼と初顔合わせを済ませると、”季節外れに咲く桜”を見に行くという。
その桜が魔性を帯びた妖で、清春が桜を斬ると申し出危険を侵そうとする。
道中気遣ってくれた優しさや、自分が妖が視えるという特異にも態度を変えない彼に、幻滅されたくないと舞香は妖との対話を申し出る。
対話に向かい、幻想的な妖の世界、”幽世”に誘われ、桜が何故季節外れに咲き乱れているか、その理由の一端を知る。
帰還後、桜は枯れて、舞香は2週間という時間を神隠しに遭っていたことを知らされる。
武陽の街に戻った時、両親は家を売り、舞香を残して武陽を去っていたことが明らかになる。居場所を喪った舞香に、清春が自分の家を仮宿にすることを提案する。
妖が視える居場所のない少女と、妖が視えないのに妖狩りを生業とする青年の奇妙な生活が始まる。
奇妙な生活と言っても、清春は仕事で常に家を空け、舞香は時間を持て余している。結婚の話が舞香を家から離す両親の方便であったことに気付き、清春の家で居場所のなさに沈む舞香。
そんな彼女のもとに、清春の義姉と名乗る春香が現れる。
春香は”鴉宮”という妖狩りの組織の人間で、舞香の”妖が視える”能力を生かした仕事の打診をする。
その提案を受け、舞香は清春と共に川の主の祠へと向かう。
妖が視える彼女は川の主から歓迎され、そして幽世に誘われ彼女の古い記憶を垣間見る。古くから在り続ける川の主が、変わっていく人の営みに様々な想いを抱いていることも知る。
帰還後、いつ還ってくるか分からないにも関わらず待ち続けてくれた清春に心を近付ける中、流し雛から灯籠流しへと変わっていった風習の移ろいと時の流れに、人の変遷を見守る川の主の存在に心を向けながら、美しい光景を2人は眺める。
様々な怪異事件を共にし仲を深めた舞香と清春。
そんな折に、古い書状が届く。
ある隠れ里に住まう一族からの結婚式の招待状。夫人同伴での出席が義務付けられており、舞香はその妻役を申し出るが清春は自分の事情に関わらせたくはないと拒絶を見せる。
結局折れて、2人で隠れ里に向かうことになる。
隠れ里は、閉鎖的な土地で新郎と清春は旧知の仲だった。
新婦であるマユラという女性と、仲を深める舞香。
しかし式は惨劇へと変貌する。
舞香は、妖を視ることが出来るため新郎が何故鬼に至ったか。その慟哭を垣間見る。ただし惨劇を止めることも関わることも出来ず、凄惨な物語を見届けるだけ。
そして清春という男の背景も思い知る。妖狩りという一族の業と、戊辰戦争を生き残ってしまった侍の寄る辺のなさを。
失意に暮れる中、帰ってきた武陽の街で春香が告げる。
舞香の両親の行方が分かったと。
両親と会わない事を決めた舞香だったが、清春の屋敷が再開発の為に取り壊されることを知る。
何処にも居場所がないと嘆く中、鏡越しに彼女は幽世に誘われてしまう。
一方、舞香の両親に会った春香と清春は、舞香が40年もの時間を神隠しに遭っていた存在であることを知る。再び神隠しに遭う定めであることも。
神隠しに遭った舞香は、キクロスという異国の妖に姫君のように扱われる。居場所の無い現実に帰るべきか、穏やかな美しい幽世の世界に永遠に居続けるか。選択を迫られる。
異国の妖相手では何も対策が取れないと春香に告げられ、喪失を受け入れざるを得ない清春。失意に暮れる中、舞香を気に入った川の主から手渡された宝玉が目に入る。舞香を救える可能性に清春は動き出す。
喪うばかりの人生で、人生を投げていた清春だが、今度こそ奪われない様にと足掻くことを決める。
春香の助けを借りて、舞香を救うための神事へと向かう。
美しい幽世の世界に浸りながら、此処が自分の居場所とは思えない春香。運命だと受け入れようとする中、静かな幽世に激震が響く。
直感で清春と春香の仕業だと気づいた舞香は幽世の世界を駆ける。現実の世界へと向かって駆ける。
次元の狭間に飛び込もうとする直前、キクロスに捕まる舞香だが、その決意を告げる。違う時間へ飛ばされる懸念も覚悟して、現実の世界への帰還を決める。
エピローグでは、何度も自分を助けてくれた春香が、異国に政略結婚の為に嫁ぐことを知らされる。彼女の求めもあって笑顔で見送ることになる。
様々な神隠し事件の果てに、様々な問題が残っていることも覚悟しながら、清春と共に生きていくことを決意して、物語の幕が閉じる。
妖精に愛されしもの ~ある神隠し事件の顛末について~ 二桃壱六文線 @nakasugi
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