第6話

「……」


孵らずの森での調査を終わらせた翌日。

自宅で朝食を食べ終えてから横になって考える。

何もせずに事が起こってから後悔するのとあまりやる気がない中無理に動く事、どちらがマシかで考えて引き受けてしまったが、やる気がない事を抜きにしても中々に厄介な仕事を受けてしまった。


「五大ギルドの調査……なぁ……」


現在30近く存在するギルドの中でも、特に規模や戦力が大きいとされている5つのギルド。

ダンジョン攻略を主とした活動とし、国内最強ギルドと名高い『白の騎士団』

運営からの鎮圧、討伐依頼を積極的に受け、対人を得意とするメンバーを多く有する『黒の結社』

探索者にしか出来ない事、探索者でも中々出来ない事を見世物にして興行として成り立たせ、またある程度の探索者の育成も引き受けている『赤色のサーカス』

探索者なら誰でも必ず1度はお世話になるだろう、国内で1番の治癒魔法を扱える『深淵の天使』蒼井ユウが活動している『蒼井探索病院』

最高レベルの鍛冶師や加工屋が揃い、高性能な武具や魔道具を生産している『黄龍ノ工房』

運営からもその功績を認められ支援を受け、かなりの特権が解禁されているギルドたちだ。


「何処から行くべきか……」


それぞれに見知った仲の奴も居るので、会いに行く事自体は出来る。

しかし、誰が裏切っているのかわからない以上、迂闊に話を聞く事も出来ない。

記録や証拠を、向こうからバレない様に自力で探る必要があるのだ。

国内でも有数の実力者達が所属しているギルドで、誰にもバレない様に裏切り者の調査を…


「…無理じゃないか?」


異名探索者が単体として他探索者とは一線を画すほどの別格として扱われるとしても、それは単純な戦闘能力での話だ。他は知らないが、自分は別に潜入調査なんかのスパイ紛いの事が得意な訳ではない。

しかも五大ギルドと並ぶ実力というだけで喧嘩して圧勝出来る訳じゃないし、状況や相性次第では負ける場合もある。

運営側としても裏切り者捜索は秘密裏に行いたい以上、下手にこちらの手助けも出来ない。

万が一調査中の姿を目撃されてしまえば、最悪異名持ちがギルドや運営に対し敵対の意思アリとみなされて殺されてもおかしくはないだろう。


「……………よし、一旦別の事考えよう!!!」


このまま考えていても受けた事を後悔する理由しか上がらなさそうなので一度現実逃避の為にスマホを開く事にする。もしかしたら有益な情報を得られるかもしれないというほんの少しの期待もあるが。

SNSを開けば、昨日の事でかなり通知が溜まっている。

昨日から何も言ってなかった所為で心配する声だったり、今回の一件について色々好き放題言ってくれる声だったりが届いているが、一先ず無事な事を伝え、心配してくれていた人達には感謝を伝えておく。

とりあえずの報告は出来たので、次は何か情報がないかと画面をスクロールする。


『深化の原因はダンジョンの意思!?』『要塞蜂の深化は先駆者の自演説!?探索者徹底解説』『今最も熱い武器”ハイゼルボウ”』


「まともな情報ねぇ~~~~…………」


色々と出てくる事件についての情報は自分が知ってる程度の事か、見当違いもいい所の内容のものばかりであまり有益なものはない。

ダンジョニスト運営が依頼を断った腹いせに深化モンスターを黒炎の剣にぶつけた、なんてのもあったりでため息が出てしまう程だ。


「まぁこんなところに何かあっても困るのはそうなんだけど…………お」


そうして半分諦めながらも流す様に見ていた画面に、ちょうど良い情報が入ってくる。

どうやら赤色のサーカスが近い内に公演を開いてくれるようだ。

場所もここからそう遠くはない。


「チケット、まだ売れ切れてなきゃいいんだけど……」


すぐにサイトを開き、チケットの購入画面へと向かう。

どうやらまだ売り切れていない様で、特に問題なくチケットの購入は出来た。

しかし、自分の分を購入した後に気が付く。

自分一人が見に行くのは不自然じゃないか………?

理由もなく会いに行くのが不自然だろうからとチケットを買ったが、別に見に行くのも不自然だ。

こういうのに興味がある人間だとは思われていないだろうし、実際興味が一切ない訳じゃないがわざわざ見に行くほど興味がある訳ではない。


「…人形師を誘うかぁ?いやでもなぁ……」


人形師は向こうの団員となんか仲が悪そうだから、断られる可能性の方が高い。

というか異名探索者が2人仲良く来るという光景はあまりにも怪しい。絶対に何かしらを疑われる。

つまり、同じ理由で他の異名探索者の知り合いも呼べない。

遊びに誘えるほど仲が良かった友人も、半年以上まともな連絡を取っていないので急に誘うのも難しい。


「うーん………」


このままでは結局振り出しに戻ってしまうと頭を悩ませていると、手に持っているスマホから振動が伝わる。

通知を覗けばダンジョニストでのパーティーチャット機能で、城ヶ宮さんからの連絡が来ている。

内容は報酬金についてと、連絡先の交換。最悪メッセージでもいいが、出来れば直接話したいとのこと。

そういえばあの時、交換してなかったな…

しかし、城ヶ宮さんからのこの連絡は渡りに船だ。


『連絡先は送らせて頂きました。それで直接会うのに関してなんですが、もしもこの日が空いていたら……………』


――――――――――


「お~い、カナタ君。」

「城ヶ宮さん!」


1週間後。駅前で城ヶ宮さんと待ち合わせをする。

向こうも大規模攻略の後でしばらくはゆっくりするつもりだったらしく、後始末は大変だったものの今日の為に時間を空ける事が出来たとのことだ。本当にありがたい。


「すみません、こっちの事情で日時を指定しちゃって」

「構わねェさ。それに、赤色のサーカスなんてこういう時でもなきゃ見れねぇだろうしな。」


飲み物を飲みながら城ヶ宮さんはそう答える。

炭酸ジュースとか飲むタイプなんだな…と思いながら、あと一人の到着を待つ。

『もう着く』なんてメッセージが来てるから、もうすぐだとは思うが…


「おーーーい!」


そんなこんな考えている内に、遠くから手を振りながら走ってくる制服姿の彼女の様子が見えてくる。

目の前で立ち止まれば、息を上げながらこちらに声を掛けてくる。


「到着!!ギリセーフ!?」

「セーフも何も別に多少遅れたって大丈夫だよホムラさん。」

「ったく、汗ダラッダラじゃねぇか。水筒の中身あるか?」

「ある!……ちょっと待ってね……今飲んで動くから…」


水筒を縦に持ち上げ、中身を飲み干す勢いで水分を補給した彼女…猫ノ宮ホムラはやっと落ち着いたのか

中身の無くなった水筒を片付けてから城ヶ宮さんから渡されたペットボトルを受け取り、それも少し飲んでから話し始める


「おいおい、あんま飲み過ぎんなよ。あと帽子。ちゃんと被っとけよ」

「わかってるって!久しぶり!カナタさん!」

「ははは…1週間ぶり、ホムラさん。元気そうで何より。」


あの時に見た分では怪我は殆どなかったものの、要塞蜂の毒液をまともに喰らって体に異常がないのかが心配だった…が、城ヶ宮さん曰く特に何も問題が見つからずにすぐに退院できていたらしい。

とはいえそれでも元気過ぎな気もするが…まぁ、いいかと思い流す。


「それじゃ、行こうか。」


――――――――――


「おぉ~~~~~っ!!!」


目的地に到着すると、ホムラさんは目を輝かせながら辺りを見渡す。

入口からでも見えるサーカス小屋はかなりの大きさで、周りでは様々な出店が並んでいる。

出店の中ではピエロや動物モチーフのコスチュームを身にまとい、客に商品を提供しているスタッフが見える。

子供達は大はしゃぎで近寄っているが、そんな子供達に集まられているスタッフ達の様子は何処かぎこちない。恐らくは赤色のサーカスで修練を積んでいる一般の探索者達だろう。


「ハルおじちゃん!」

「おうおう、好きなモン買ってこい。待ってるから。」

「は~い!」


こっちはこっちで、ホムラさんが楽し気に屋台の方に走っていく。

なににするか悩みながら眺めている彼女の様子を見ながら、城ヶ宮さんがこちらにも話しかけてくる。


「そういえばだが、カナタ君。」

「はい、どうしました?」

「前に言ってた報酬の話だが」


あぁ、と返事をする。

報酬についてはこちらだともう決着したものだったが、まぁ城ヶ宮さんからすれば納得する訳ないよなぁと思いながら丸投げしてしまっていたので、大変申し訳なく思っていた。

こちらには今までの分があるので報酬がなくてもいいのだが、あの時の発言を考えると向こうの取り分が減っていたらいいなぁと思いながら話を聞く


「6:2:2で決まったから、ちゃんと受け取ってくれよ。」

「ありがとうございます。…でも、よく向こうが納得してくれましたね?」


結果は6:2:2か。

こちらの為にかなり頑張ってくれたのだろう。

最初は0で良いと言ったのに、あの勇者と交渉して2割まで取り戻してくれたのだから、相当大変だったろうと思う。

私が話した時では取り分が同じなんて有り得ないとまで言っていたのに、どうやったのだろうか。


「ケッ、最後の最後にトドメだけ持ってっただけで、3割貰おうなんて馬鹿な事言ってたからな。」

「最後まで納得行かねーってツラで睨んできてたが、無視してこっちの主張を無理矢理通してやったよ。」

「ははは!よく圧掛けてきますよねあの人。」

「ダハハハハ!!たかだか1探索者の圧に屈してたらギルドの長は勤まんねェよ。それに、あんなガキが凄むよりダンジョンのボスの方がよっぽど恐ろしいわ!」


それに同感だとお互いに笑い合う。

流石、『黒炎』であるホムラさんの代わりに黒炎の剣を纏め上げる人だ。



「ん~………たこ焼きにしよっかな~……」


凄く悩む。

まだ時間はあるのだが、待たせすぎるのもカナタさんに悪い。

とりあえずはやっぱりたこ焼きと、からあげも買おう。

そう決めて、まずはたこ焼き屋の方から近付く


「「すみません、たこ焼き……」」


声を掛けた所で、すぐ隣で同じ様に注文しようとした女性と被ってしまう。

しまった、周りを見れていなかった…少し恥ずかしいと思いながら、

とりあえず謝ってから譲ろうと思いすぐに頭を下げる。


「あ、ごめんなさい。先大丈夫ですよ。」

「いえいえ、こちらこそ~、それじゃあ、お言葉に…甘えて……」


お互いに軽く頭を下げつつも、そのまま話が進もうとしていたところで、突然相手が静止する。

突然返事が無くなってしまった事に首を傾げて様子を伺うが、

向こうは深く被った帽子にサングラス、マスクと完全防備で表情を見る事が出来ない。

どうしたものかと困っていれば、ハッとした様子で戻ってきた女性がこちらを指さす


「ア、アンタっ……!猫ノ宮ホムラ………!!!」

「…え!ボクの事知ってるの!」


突然、ワナワナと震えながらもボクの名前を呼んだ事に驚く

一応帽子被ってるんだけど、わかるもんなんだなぁと思っていたら、目の前で話を聞いていたピエロのお兄さんが「そりゃ知らない事はあんまりないでしょ……」と呟いていた。

…結構バレバレだったけど、周りが空気を読んでくれてたみたい。

しかし、どうにも相手の様子はこちらのファンといった感じではなさそうだ。


「知ってるも何も、アタシは、アンタの所為で……!」

「ボクの所為って……ボク、何かした?ごめんだけど、全く心当たりがなくて……」


こちらの所為と言われてるけど、本当に心当たりがない。

そもそもギルドメンバー以外との交流なんて殆どないし、ダンジョンに潜った際は他の探索者達とルートが被らない様に徹底していた。

普段でも、人に恨まれる様な事はした覚えがない。そういう事はすぐに炎上するので、ハルおじちゃんから口うるさく言われていたのもあってルールを破った事はほとんどない。


「………そりゃそーよね、アンタにとってアタシなんて取るに足らない雑魚探索者だものね……!」

「い、いや…別にそんな事は思ってないし言ってないよ?ボクが何かやらかしちゃったんだったらしっかり謝るから、まず貴方の名前とボクが何をしたのかを……あ、ハルおじちゃん呼んできて良い?ウチのギルドマスターだから、こういう問題は………」

「そういう問題じゃないっ。あぁもう、霧波ツユハよ!こっちは視聴者やアンチから散々アンタと比較されてどれだけ……!!」


そう言って、目の前の彼女は帽子とサングラスを外す。

水色の髪の毛と、こちらを力強く見つめている翠色の瞳が見える。

目の前のお兄さんが驚いているのを見るに有名な人なのだろう。

すぐに帽子を被り直していたし。とはいえ、あまり他探索者の情報なんかはハルおじちゃんに任せっきりなのもあって名前を言われても全くピンと来ない。

とはいえ、相手は明らかにこちらに怒っている事だけはわかる。


「えーっと……その、とりあえず、ごめんなさい。」


一先ずは、帽子を取って頭を深く下げて謝罪する。

別に自分が悪い訳ではないが、向こうが言いたい事もわかる。

私も、同じ二つ名持ちとして黒薔薇や白巫女と比べられる時があったし、前回の事もあって色々言われているのにムカついた時があった。気持ち自体は決してわからない訳じゃない。

これが正解かはわからないけど………


「本当に申し訳ないけど、ボクは貴方の事は知らない。でも、貴方の言ってる事の気持ちはわかる。」

「………………っ、黒炎が、そう易々と頭を下げないでよ……!」

「…………」


ただボクが謝罪しただけで向こうが納得するとは思っていなかったけど、まさか簡単に頭を下げた事に怒られるとは全く思っていなかった。

このまま頭を下げ続けてもどうにもならないと思い、困惑しながらも頭を上げる。

そうして向こうの表情を見れば、今にも泣きそうな表情でこちらを睨みつけている。

ど、どうすれば………


「ホムラ、どうした。何かあったか。」


そんな時に、後ろからハルおじちゃんが声を掛けてくれる。

ボクの所で何かあったのを見て来てくれたんだろう。

カナタさんも心配そうな表情をして来てくれている。


「えっと、ねぇ………」

「………」

「あー……とりあえず、場所を移した方が良さそうだな。向こうで話を聞いても?」


周りを見れば、少し人だかりが出来ている。

そりゃ店の前でボクと誰かが喧嘩っぽい事してたら流石に目立つか。

向こうとしてもやはり目立ちたくないらしく、黙ったまま頷いてハルおじちゃん達と一緒にその場を離れてくれる。

とりあえずボクも向かおう、と思って動こうとした瞬間に店に居たお兄さんから「お客さん!」と呼び止められる。

振り返れば、たこ焼きを2パック分用意してくれている。


「あ、ありがとうございます!お代は…」

「お金は良いから、早い所行ってあげてな。」

「……ありがとうございます!」

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