第7話

先程の場所から少し移動してベンチのある場所に座る。

ホムラさんと揉めていた人も今は大人しく、サングラスを掛けたまま黙ってしまっている。

少し遅れて、たこ焼きを2パック両手に持ってホムラさんが小走りでやってくる。


「これ、さっきのお兄さんが!」

「……ありがとう。」


ホムラさんからたこ焼きを渡されても、怒る素振りは見えない。

とりあえずは落ち着いているのだろう。


「さっきは、ごめんなさい。貴方に怒ったって、理不尽なだけなのに。」

「…えーっと、大丈夫だよ?ツユハさん。理不尽に何かを言われるのには慣れてるし…」

「…………」


一度移動の時間を挟んだおかげで、相手も完全に頭が冷えた様だ。

先程の様になにか問題が発生することはなさそうでとりあえずは一安心。

しかし、ツユハという名前は何処かで聞き憶えが……


「……ん?ツユハって、まさかあの霧波ツユハさんか?アイドルやってるっつー……」

「はい、そうです。」


どうやら、城ヶ宮さんの方は知っていた様で、霧波ツユハという名前が出てくる。

そこまで言われてようやく思い出した。有名配信探索者を多く有し赤色のサーカスとは別方面でエンタメを提供している企業『Dlive!』に所属しているアイドルグループ…確か、フルダイブだったか。

グループメンバー5名が全員現役探索者、そしてリーダーがゴールドの★ランクで去年結成時に話題になっていたはずだ。


「アイドルだったんだ…それで、比較されてたって事?でもボクアイドルじゃないんだけど……同じ火属性を使う人なの?」

「…この名前で火属性使ってたら、それはそれで話題になりそうね……探索者を始めた時から水属性を使ってるわよ。」

「比較されてきたのは、たまたまアタシと貴方の生まれた年がおんなじだったから。」


その言葉で、大体の事を理解する。

年齢や立場が同じというだけで、過程を見ずに結果だけを評価する。

よくある事だし、探索者として上を目指すのなら無視すべき意見だ。

多くの人に見られやすいのなら、猶更。

しかし、気になる人間はそう言われても気にしてしまう。彼女がそういうタイプなのだろう。

自分を評価してくれる言葉より、自分を認めない存在に認めてもらう事に躍起になってしまう。

そして上手く行かない。当たり前だ、そういった人間の殆どは結果が悪いから認めていないんじゃない。認めたくないから認めていないんだ。そんな相手の考えを改めさせる事なんて不可能に等しい。

そうして溜まっていった負の感情が先程猫ノ宮ホムラ比較対象と出会ってしまった事で爆発してしまったのだろう。


「同い年って言ったって…ツユハさんは探索者になってからどれぐらいなの?」

「それは…2年弱、ぐらい。」

「それじゃあ、ボクと実力が違うのは当たり前だよ。ボクは中学生になってすぐに潜り始めたから、」


ヘラヘラと笑いながらホムラさんは言う。

中学生という事は……3年ちょっと前か。ダンジョニストの整備も進んでたというのによく……

そもそも、その期間で二つ名まで行っているのも十分恐ろしい才能だが。


「でも、アタシはここまで頑張ってきたけど最近はずっとゴールドスター止まりで、プラチナに行けた事はない。結局、その程度の才能だったってのは自分が一番理解してるつもりだよ。」

「それは違うだろ」

「え?」

「あっ……」


咄嗟に口を塞いでしまう。

口を出すつもりはなかったのだが、向こうの発言に我慢出来ずに本音が漏れてしまった。

3人共黙ってこちらの方を見てしまっている。

これは…素直に自分の意見を言い切ってしまった方がいいだろう。


「ごめん、我慢出来なかったから口出ししてしまうけど…霧波さんは今、自分の才能はその程度って言ったけどさ。2年ちょっとでゴールドの一番上まで行けたのは才能があるよ。」

「ダンジョニストのランク付けの基準は配信上なんかでの運営が把握してる限りでの戦闘の様子だったり、実際の魔力量を見て付けられている訳だけど…」

「一番重視されているのは時間を掛けて魔石を取り込めば増えていく魔力よりも、実戦での動きや魔力操作なんかの戦闘スキルなんだよ。そして、霧波さんはそれが高かったからゴールドまですぐに上がれた。」

「で、でも…そこからはもう半年も停滞してるんですよ……」

「それはプラチナ以降になると、探索者としての独自の戦い方個性を要求されるからだよ。」


ゴールドのスターランクはダンジョニストにおいて、一つの到達点であり壁として扱われている。

理由は至って単純。辿り着くのが難しく、ここから一つ上がる事が一段と難しいからだ。

シルバーまでは多少の実績を持って申請すれば上げられるのだが、ゴールドランクに上がってからは毎月運営がチェックするシステムになる。それ故に、ゴールドまではすぐだったがそこからは全然上がらなくなってきた、なんて探索者は多い。これがスターランクまで上げるのが難しい理由。

そしてスターランクまで上がった後に、立ちはだかるのはプラチナの壁。

ゴールドスターで解放されるダンジョンは最大レベル55まで。

このレベルは、純粋な実力だけで勝利出来るボスやモンスターばかりだ。

しかし、それ以上のレベルが設定されているダンジョンのモンスターは自分の持つ武器を理解し、それをこちらに押し付けてくる。

本来のファイアスライムには中途半端な耐性を許さない火力がある

モンスタービーは数で囲み毒を使って相手を確実に仕留めに来る連携力。

猿鬼も縄張りにトラップを仕掛け、相手の意識がトラップに持っていかれた所に騙し討ちを仕掛けに来る知能がある。

だからこそプラチナランクには、こういった様々なアプローチを持つモンスター達に対抗出来る手札を多く有しているか、様々な事を無視して強引に勝利を掴めるだけの力が要求される。


「プラチナランクに上がれない人の殆どは、基本が出来ているからこそ基本に囚われてしまって、実力を十分に発揮出来なくなっている事が多い。」

「…………」

「もしもプラチナランクを本気で目指しているのなら、今の霧波さんに必要なのは固定観念を壊す事。」

「自分を認めて、自分を信じてくれる人を信じて、自由になれないのならそれ以上は目指せない。でも、出来るのならまだまだ伸びます。絶対に」

「………………」


霧波さんは俯いたまま返事をしない。

言い切ってしまった後に思ったが別にこの人はこんな上からアドバイスを求めてた訳じゃないよな……

流石にお節介が過ぎたかと思っていたら、向こうが口を開く


「…そうですね、カナタさん程の人がそう言うのなら、私に足りない物はそこなんでしょうね。」

「認めて…信じて、自由に…ですか。頑張ってみます。」

「…!うん、応援してます。」


顔を上げて、こちらを見ながらそう返事をしてくれる。

まだ自信が付いた訳じゃないだろうけれど、何処か変わった様に思える。

少しは力になれたのかもしれない。


「はいはいはい!!カナタさん!ボクもダイヤのトライアングルから上がりたい!どうすれば上がると思う!?」

「…ホムラさんに関しては黒炎がインチキだから…魔力操作を伸ばせば順当にあがるんじゃないかな…」



とりあえず霧波さんは謝罪したし、ホムラさんも大丈夫と言ったので一先ずこの話は一旦終わりにして、「折角なら一緒に見ようよ!」というホムラさんの誘いで霧波さんも一緒に来る事になった。

今日はお忍びらしいので、あまり目立たない様意識しつつ会場に入る(とはいえ、先程ホムラさんが色々な人に見られたし、城ヶ宮さんも十分に目立つが)

まだまだ開始時間前という事もあり、座って待機してる人も多い訳ではない。4人分の席の空きを見つけるのは容易だろう。


「広ぉ~…流石5大ギルド。規模段違いじゃん。」

「そりゃあ国から魔法やモンスターの見世物を許可されてる唯一の場所だし、元々白の騎士団と並ぶ最古参のギルドだしな。」

「へぇ~……知ってた?」

「そりゃ知ってるわよ、探索者やってるんだから」

「やってるけどボク知らない……」


向こうは向こうで楽しそうにダンジョンの歴史についての話だったりをしている。

一先ずは話が弾んでいる様子なので、こちらもこちらで顔なじみに連絡をしておこうとメッセージアプリを開く。


『今日の公演、見に来てるから頑張ってくれ』

『!!!!!!!!』


一言だけ言っておこうと思ったら、すぐに既読が付いて返信が送られてくる。

確認、早くないか?準備中のはずだろ今


『師匠、そんなに元気になってたの!というか来てるんですか!?事前に言ってくれれば色々用意したのに!!!!』

『だから黙ってたんだよ。』


相も変わらず、メッセージだけでもその元気さが伝わってくる。

まぁ、しばらく連絡することがなかったのでまだ変わらず元気なのは良かったが


『まだ開演まで時間あるんですから会いましょうよ師匠!!』

『時間あるってもう30分前だろ。』

『座長からもオッケー貰ったので今から行きますね!!』

『待て待て待て、じゃあ俺がそっち行くから』


こっちの知らない所で速攻で話を付けて来るなよ。

しかも最後のメッセージに既読が付かない。スマホを閉じやがったな………


「カナタさん?なんか難しい表情してるね。どうかしたの?」

「あぁ…いや、友人がここの団員でさ。一応連絡したらこっちに来るっぽい。」

「ほぉ~…顔が広いんだなぁ、カナタ君。」


そうこうしてる内に遠くの席でざわつく声が聞こえくる。

そちらを見てみれば、遠くからでも目立つ真っ白な奴が観客に両手を振って挨拶しているのが見える。

一人一人に挨拶をしながら一周するように走り、その途中で目が合う。

1回は素通りしていくが、観客全員に挨拶を済ませた後にはすぐにこちらの方へと走ってくる。


「ししょ~~~~っ!!会いたかったですよぉ!!!」

「俺も会いたかったけどクソ目立つから移動しないか???」


ただでさえその大声だけでも目立つというのに、真っ白な髪に高い身長、更には挨拶の直後にこちらに来られたら注目されるに決まってる。

自分が構わなくても流石に霧波さん達に迷惑が掛かるのは困る。


「白虎、さん……!?」

「ん?ハイ!ジブンが『白虎』こと白森ミトラです!」


だが、自分の予想した反応とは少し違い、霧波さんの方は驚いた表情でミトラの事を見ており、ミトラも自分の名前を名乗っている。

二つ名を貰ってたのか。道理でざわつくわけだ。


「そちらの方々は師匠のお友達ですか?」

「そうだけど、一旦移動しようなミトラ。めっちゃ見られてるんだ今。」

「なるほど!初めまして!自分師匠の弟子の…!」

「頼むからこっち来い!!!」

「あ、あぁ~~~……お友達の方~~~……!!」



とりあえず目立ちながらも必死にミトラを引っ張って外に連れ出す。

あまり人の通りが少ない場所にまで連れて行き、ここなら大丈夫だろうと手を離して向き直る。


「師匠!元気になったんですね!」

「あぁ、おかげ様でな。しばらく連絡取れなくて悪かったな。」

「いえいえ!元気になった事を知れればそれが一番の喜びです!」


こちらの事を慕ってくれているのはよくわかるしありがたいのだが、正直そこまで言われるのは気恥ずかしい。

照れて目線を逸らせば、向こうは更に嬉しそうに「ふふふっ!」と笑う。


「はぁ、一番は言い過ぎだろ。…そういえば、二つ名を貰ってたんだな。おめでとう」

「…!はい!師匠のおかげです!」

「それも言い過ぎ。ミトラの実力だよ。」


こっちが教えたのなんてどれだけ前の話だと思っているんだ。

二つ名になる程育てた覚えはないし、そこに恩を感じられても困る。

元々こちらを持ち上げたがる所があったが、未だにそこも変わっていなさそうだ。


「今のジブンを作ったのは師匠ですよ!」

「だからって弟子の功績が師匠のモンになる訳じゃないんだよ、お前の頑張りまで奪って自分の手柄にしようとするような奴に俺はなりたくない。」

「むー………そういう意味じゃないのに………」

「わかってるけど、それでも。こっちにだって素直に弟子の成長を喜ばせてくれ。」


そこまで言えば、ようやく向こうも納得したように黙ってくれる。

師弟の関係を肯定すればわかりやすく喜ぶのが、またなんともな……

まぁいい。とにかく早い所話を済ませて席に戻ろう


「んじゃあ、先に言っておきたかった事は言えたし、ミトラは早く戻れ。話ならまた今度時間を作るから。」

「さきほどの師匠のお友達へのご挨拶は!?」

「…後で聞いておくから、次の機会な。」

「えぇ~~~~…………」


とりあえず、また今度に会う約束だけしてさっさとお互いに戻る事にした。



開演までもう少し。流石に席は完全に埋まり始め、かなり賑わっている様子だ。

だよな、もうすぐだもんな…と先程まで大丈夫と言っていたミトラを心配に思いながら小走りで向かい、軽く謝罪しながら席に戻る。


「空けて申し訳ない、戻りました。」

「おかえり~。」


腰を下ろした所で、隣の席の2人から視線を感じる。

そちらの方を見れば、先程の事を聞きたそうな霧波さんと興味深々でこちらを見ているホムラさんがこちらをじっと見つめてきている。


「その…白虎さんとはどういう関係なんですか?」

「あー、5年前にちょっと悩みを聞いたんだよ。ほら、ミトラはテイマーでしょ?」

「はい、白い虎型のモンスター『シロ』を従えた探索者、ですよね。」


調教師テイマー、正直世界的にもかなり珍しいであろう種類の探索者。

召喚士サモナーと同じくダンジョンに存在するモンスターを従えた探索者だが、当然召喚士含め居ない。

全くと言っていいほどいない。召喚士であり調教師でもある蠱毒の奴か、ミトラぐらいしかモンスターを従えた探索者で強い人間を知らない。

理由は召喚士も調教師も、一般的な前衛職や魔法使いと比べて圧倒的に強くなりにくい上に強みを発揮しにくい。良くも悪くもモンスターと本人の実力次第な為難易度に見合った力があるとは言えない。

テイマーはモンスターを生かしたまま自身の魔力を多く流し込み『契約』すれば従える事が出来る。

勿論契約には様々な条件がある為、テイマーは基本自分より弱いモンスターしか契約できない。

それに加えモンスターを強くするために魔石をしっかり与え、実戦経験を積ませ、その上で契約を破棄されない様に自分も強くなり続ける必要がある。


「テイマーなんて全然居ないし、一応あの時は…やってる奴も居たけど、ミトラ含めて上手く行ってる奴は全く居なかった。」


あの時は特に、最前線で強みを理解しそれを他者に教えられる存在が居ないのも大きかった。

結局モンスターと契約したのに力を上回られ襲われる奴や、狩りの効率が悪く自分もモンスターも強くなれない結果、泣く泣く契約破棄することになったりで上手く使い切れずに死なせる奴ばかりだった。


「実際、テイマーは実力がなきゃなれねェが、実力があるヤツがわざわざテイマーを選ぶ事はなかったし、今でも数は少ねぇよなぁ。」

「最近のテイマー志望は皆ミトラさんに師事してもらう為に赤色のサーカスに集まってるとかはよく聞きます。」

「らしいね。ここに入ってからは弟子志望が多いって聞いたことある。…まぁ、そんなテイマー事情な事もあって、ミトラもだいぶ悩んでたんだよね。」


『私はッ!どうしてもこの子と戦いたいの!私を選んでくれたこの子と!!!』


ミトラとシロの関係性は深くは聞いていないが、他のテイマーたちとは違いお互いに望んだうえでの契約だったらしい。

ミトラは誰に何と言われたとしてもシロを手放すつもりはなかったし、シロもどれだけボロボロになっても主人を守る為に傍に寄り添っていた。

しかし、モンスターにとって魔力は必要不可欠なのもあって魔石は用意しなくてはならないし、ミトラ自身も強くならなければシロとの契約が強制的に終了してしまう。

そうなってしまえばもう終わりだ。


「それで、シロの為に魔石を少しでいいから譲ってほしいって土下座されたのが最初。」

「へぇ~……渡したの?」

「いやー…それが、当時はだいぶ調子に乗ってたのもあってねぇ。」


『どうしても欲しいなら、俺から無理矢理奪い取ってみろ。』


確か、そんなことを言った気がする。

この先は特に2人には言えないが、『仮に殺してもバレる事はない』とも言っていた。

昔のダンジョン探索は帰り際の疲弊した探索者を狙って襲う探索者が決して居ない訳ではなかったし、まだダンジョニストのルール整備も完全に行き届いていなかった。

そんな背景もあってか、当時の私はとにかく「テイマーが実際どの程度やれるのか知りたい」と思ってしまい、そんな事を言っていた。

声を抑えつつそんな感じだったと伝えれば、当時を知っている城ヶ宮さんは笑って2人はドン引きしている。


「え、えぇ……?ダンジョン内での探索者同士の戦闘は禁止のはずじゃ………」

「まぁ、5年前だろ?そん時ぁまだルールを真面目に守ってる奴の方が少なかったからなぁ。」

「なんか…カナタさんって割とやんちゃな人だったんだね。」

「やんちゃで済ませてくれてありがとね……」

「ちなみにですけど…結果は?」

「圧勝。向こうがまだゴールドだし、そもそも疲弊して本調子を全く出せてなかったからね。」


正直、当時でも勝つのはわかっていた。

目に見えて疲弊している上に、ゴールドランクのほぼ無名。

対するこちらは当時から既に二つ名持ち。文字通り天と地ほどの差があった。

しかし、ミトラはそれを理解しても勝負に乗ってきた。

こちらに殺す気がなかったのもあっただろうが、他に道がなかったのだろう。


「でも、どれだけ限界の状況でも向こうは魔石が入った袋だけを狙って、俺には一切の攻撃をしようとしなかったのは凄いと思ったよ。」


ミトラはシロの為に人の道から外れる様な真似は意地でもしなかったし、シロはミトラのそんな意思を理解していたのか、ミトラはただただ袋を奪おうとしかせず、シロも牙や爪をこちらに向ける事は一度もなかった。

そんな2人…1人と1体の覚悟を見て、こちらも強く心が動かされた。


「だから勝負はこっちの勝ちだったけど、魔石を渡して強くしてやるって言ったのがミトラとの始まりだね。」

「それで師弟の関係になった訳なんですね。」

「別にこっちは友達ぐらいのつもりなんだけどねぇ。まぁ、慕って貰えるのも悪い気はしないし、向こうが頑なに師匠呼びをやめないから受け入れてるけど」


一通り話せば、霧波さんもホムラさんも満足してくれた様だ。

昔の事を思い出すと、本当にミトラは成長したなと改めて感じる。

私が見ていた時期はまだプラチナのスクエアで、そこから二つ名まで到達出来ているのは感慨深いものがある。


《皆様、お待たせいたしました!》

「お、始まるか?」


そうこうしている内に、時間になったようだ。

照明は落とされ最低限の明るさを保ち、様々な注意点を説明するアナウンスが行われている。

会場は静まり返り、全員が今か今かとステージに注目している。

注意点を言い終えれば、一筋のライトが照らされてステージ中央に立つ道化が観客に向け明るく告げる


「…それでは皆様!どうぞ心ゆくまでショーをお楽しみください!」


突如として現れた複数の大きなびっくり箱の様なものが開けば、そこから楽器を持ったサーカス団員が現れ、開演に相応しい音楽と共にステージを彩る。

観客達もそんな演出に感動し拍手があがりながら、ショーが始まる。





人気のない路地裏。

遠くからでも、少し騒がしくなった会場の音が聞こえてくる。


「おや、始まりましたか。ホラ、早く起きてください。」


そろそろ時間だと、隣でいびきをかいていた大男に告げる。

男は眠そうなしぐさをしつつもゆっくりと体を起こし、大きく背伸びをする。


「アァ?………んだよ、もう始まっちまったのかぁ?ふぁ~……ねみ。」

「あのねぇ…一応言っておくけどさぁ。テメーらが無理言ってるのに僕が付き合ってあげてんだよ?そこんとこ、わかってる?」


そんな緊張感のない現場に呆れた様子で彼が言う。

怒りながら文句を言う姿に全くと言っていいほど恐怖を感じないが、それでも彼はこの作戦の要であり、一番の強者だ。


「えぇ、勿論わかっていますよ。付き合ってくれている貴方には感謝しています。」

「はっ、どーだか。お前、いっつもニコニコ面で気持ちわりーからわかんねぇよ。まぁ、言われた分の仕事はやってやるからちゃんと成果を出せよ。」

「えぇ、勿論です。」


酷い言われようだが、どうでもいい。

私達の関係は所詮同じ目的を持つ者同士。仲良しこよしである必要などない。

そう、目的さえ達することが出来れば、他はどうでもいいのだ。


「それでは、手筈通りによろしくおねがいしますね」

「蠱毒」

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探索者はダンジョンに沈む おいしい煮魚 @ymame

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