第3話
残っていた最後の1本。
使うのであればこれ以上のタイミングは存在しなかっただろう。
必死に戦っている人達。何もかもが尽き果て、倒れてしまう直前。
力強く引き絞った矢に雷属性の魔法を付与し、放つ。
それは彼らに襲い掛からんとしていた蜂共を一掃し、奥に居る怪物に回避を取らせる。
見ればわかる、間一髪と言って良いほどギリギリのタイミング。
「……間に、合った……!!」
すぐに先頭の3人の元に駆け寄り、様子を確認する。
ボロボロではあるが、目立った外傷はない。
他は恐らく噛みつきや毒針を喰らっているのだろう。青い顔で気を失っている者が大半だ。
ギルドレベルの探索者の肉体であれば毒だけでそう簡単に死ぬ事はないだろうが、出来るだけ早く地上で適切な治療をする必要があるはずだ。
「救援要請を受けて来ました、≪先駆者≫の狛神カナタです。先に聞いておきたいんですが、皆さんの状態はどうですか?戦えますか?」
「…ワシもコイツらも戦える。……って言いてェ所なんだが、悪い。足手まといになっちまう。」
そういう男性の表情は苦しげで、他2人もだいぶ疲弊しているのが見て取れる。
当然だろう。周囲の状況が先程までの激戦を物語っている。
「大丈夫です。よくここまで頑張ってくれました。後は自分に任せてください。」
「…………」
改めて、対峙する相手の方へと向き直る。
目の前に居るモンスター…要塞蜂は、胴体の右側が抉られているが、今まで見た物よりも一回り二回りほど大きく、その外殻は刺々しい見た目。手負いとは言え、それでも尚ただの要塞蜂とは別格の圧を感じる。これは確かに…存在そのものが深層へと近付いていると言えるだろう。
深化は魔力を持つ存在が大量の魔力を一気に体に取り込んだ場合に起こり得る現象だ。
体の許容量を大きく超えた魔力は肉体の中で暴れまわり、そんな暴力的な魔力に適応しようと肉体が変化することによって怪物へと変貌し、素の力だけでも前とは大きくかけ離れた物になる。
故に簡単に起きない様にされている事象のはずなのだが、ここまで大量のモンスターが深化しているのは、異常事態だろう。
「なんて、深く考えるのは後でだな。」
「さーて、それじゃ…だいぶデカイ傷を負わされてる所悪いけど、今度は俺が相手だよ。」
向こうはこちらの出方を伺っているのか、モンスタービーすらもゆらゆらと動くだけでこちらに攻撃を仕掛ける様子はない。
自身が手負いの中でも後手に回ろうとするのは、慎重か慢心か。
どちらにせよ譲ってもらえるというのなら、ありがたく先手は頂く事にしよう。
弦を引き絞り、手元に集中すれば矢の位置でバチバチと音を鳴らしながら魔法が生成される。
「
狙いを定めて放てば、魔力で作られた矢は弾ける様に分かたれ、1本1本が飛び回る十数体の蜂達の心臓部…魔石が存在する胸部を的確に撃ち抜く。
まずは上々。敵が戦況を把握しきる前に、即座に次の行動に移る為に地面を蹴り上げる
ここでようやく敵性存在の脅威を理解した相手は動き始める。
こちらの移動に合わせて追従するのが5体。周囲を取り囲むために13体。
残り60体近くは未だボスの周りから離れようとはしない。こちらから要塞蜂の姿が見えない様に間に入り、何時攻撃しても壁になれるようにしているようだ。
「にしたって、ちょっとこっちに回す数が少ないんじゃないの!」
こちらを囲んで叩くには数もスピードも全く足りていない。
向こうがこちらに牙を届かせる前に全てを撃ち落とすのだって可能だ。
しかし、それがわからない相手とも思えない。この包囲は相手せず抜け出す事を優先した方が良いだろう
矢雷放閃を真正面からこちらを狙うモンスタービーに向けて放つ。
先程と違い狙いを定め、正確に操作するだけの暇は無いが、拡散するように放たれた魔力の矢は狙いを付けずとも敵の体を貫く。
穴が空いた事に気付いた近くの2体がすぐにこちらに牙と針を向けて突っ込んでくるが、それよりも速く駆け抜ける。
ヂッ
直後、背後からそんな音が一瞬だけ聞こえる。
振り向いて何が起こったのかを確認すれば、そこには何もなかった。
さっきまで自分の後ろに居たモンスタービーは何処かに消え失せ、あるのは大きく抉れ、ジュグジュグと音を立てながら何かを溶かしている毒液。
そしてそれは奥の木々、さらには遠くのダンジョンの壁面すら溶かしてしまっている。
「……マジかよ」
ただ毒液を吐き出したのではない。
一点に集中させ、それでも尚広範囲になるレーザーの様な噴射
もしも命中していれば、確実に死んでいただろう。
奴はそんな大技を確実に当てる為に、自身の姿を隠して、そのうえで壁や足止め諸共こちらを消そうとしてきた。
「………」
正直、これを初見で撃たれて被害が0だった事は幸運でしかない。
横薙ぎに撃たれていれば動けない人達に命中していた可能性だってある以上、そうじゃなかったというだけでラッキーだ。
そのうえで縦だった今回も、たまたま別の中層ボスが居ない方向に撃ってくれた。
他の中層ボス…マグマスライムと大猿魔。
勿論これだけの威力であれば、ただの中層ボスであれば2体ともとてもじゃないが受ける事は出来ない。
だが、その2体も深化していた場合は話が別だ。
とてもじゃないが、要塞蜂以外の強力な深化存在を相手取れる状況ではない今、万が一向こうが動き出してしまえば、それこそ本格的な詰みだ。
「不味いな………」
思わず、そんな言葉がこぼれてしまう。
恐らくは気安く撃てないはずの奥の手だろうが、2発目が無いとは言えない以上早々に決着をつける必要がある。
とはいえ………
「
ギリギリと弦を引き絞り、今度は拡散ではなく一点集中。
狙いは要塞蜂の大きく抉れた腹、傷口を通り上手く心臓部の魔石の位置を貫く様に…!
「ギィィィッ!!!」
しかし、悠長に魔力を込める暇を与えてくれるほど甘くはない。
即座に壁役に徹していたモンスタービーが周囲を飛び回りながら隙を見て挟み込む様に攻撃を仕掛けて妨害を狙ってくる。
仕方なく即座に放ち、そのまま回避しまた包囲から抜け出す事を優先するが
視界の端、邪魔が入ったとは言え多少の魔力を込めたはずの矢雷一閃は体を動かし傷口で受ける事は避けた要塞蜂の外殻を多少破壊したものの、その体にはまるでダメージが入っていなさそうだ。
(やっぱ普通に攻撃するだけじゃ絶対貫けないな……)
露出している肉ならいざ知らず、『要塞』とまで名前に付けられるモンスターの外殻を貫くのはそう簡単な事じゃない。
今嘆いた所で仕方のない事だが、何処まで行っても市販であり、中級者用の域を超えない弓では深化したボスに致命傷を与えるのは難しい。
要塞蜂を守る兵士のモンスタービーの数は未だ40体近く。
決して倒すのが苦というわけではない。いくら深化存在といえどこいつらは通常種。時間さえ掛ければ確実に倒しきる事は出来る。
だが、問題はそこだ。いくら自分でも今の状況でこいつらを即座に倒すのは不可能。でも時間を掛けてしまえば何時先程の毒液レーザーが飛んでくるかわからない。2発目は確実に何かしらの被害が出る。
「どうする……!」
頭の片隅で、様々な思考が過る。
時間を掛けても駄目。上手く急所を狙おうにも向こうが傷口を避ければ貫くのは困難。そもそも周りのモンスタービーの妨害でまともな威力も速度も出せない。
もう少し時間を掛ければ属性を変えられるか?でも雷以上にアレに通用する属性があるのか?
猶予は後何秒だ?
迷っている場合なのか?
「………」
数秒の思考の後、結論を出した私はそのまま「カナタ君ッ!ちょいと横槍失礼させてもらうぜェ!!」
「!?」
突然、そんな言葉と共に先程仲間と一緒に後ろに下がったはずの大盾を持った男性が強引に私とモンスタービーの間に入り、その盾を振るいモンスタービーを吹き飛ばした。
一体何を、という言葉が出る前にまた別の子からこちらに声を掛けられる。
「『先駆者』さん」
そう言ってこちらに声を掛けてくるのは、黒髪の女の子。
だいぶ若く見える、まだ学生ぐらいじゃなかろうか。
そんな子がこちらに駆け寄って、手を取る。
「協力してください。”策”があるんです。」
――――――――――
場面は少し前。
奇跡的なタイミングで救助に駆けつけてくれた『先駆者』の言葉を信じ、一度ギルドメンバー全員で集まり治療を受けている所。
戦闘を行っている彼の姿を後方から眺めていたのは、『黒炎の剣』のギルドマスター、
少し遠いが、そんな中でも戦闘の状況はハッキリと見える。
彼もまた、ウチのエースであるホムラと同じ『二つ名』を与えられた人間だと実感出来る実力を持っている。
「…持ってる武器ぁ、ハイゼルボウのまま…だよな。」
最初は救援に来てギリギリの状態だったこちらを救ってくれた事に感謝していたが、彼の武器を見た時には驚愕した。
ソロでこちらに来たというのに、何かしらの匠によって用意された武器ではない、最近売り出されたばかりとはいえ、一般に出回っているレベルの量産型の武器でこの場所にやってきたのだ。
勿論、二つ名を持つ人間の実力を疑う事はない。孵らずの森のレベルであればそういった武器でも彼は戦えるのだろう。しかし、深化したモンスターがボスを含め大量に居る状況でも尚その武器を使ってまともに戦闘を成立させられるとはあまり思えなかったのだ。
しかし、ほんの数回の動きを見て理解した。魔力の扱い、多対一の戦い方が異様なまでに上手い。
「弓使いだというのに、前衛として扱っても遜色ない身のこなし…相当な数戦ってきたんだろう。」
自分よりも遥か年下だろうに、自分とは大きく違うと感じる能力の差。
本当に、才能という物を深く感じさせてくれる。
「だが、このままやっちまうと無理だ。」
先程要塞蜂が見せた毒液のビーム。
アレを見せられてから明らかに動きに迷いを感じる。
恐らく、こちらが完全に足枷になっているのだろう。
早く引ければいいものを、負傷者と疲弊しきった人間達だけでは、まだ深化したモンスターが居るかもしれない帰りの道を突破出来るかも怪しい……いや、不可能だ。
救助隊が来るにもまだ時間が掛かる。そもそも狛神カナタが間に合っただけでも奇跡に近いのだから。
ならばこちらに出来る事は…
「ワシは行く。」
「…ハルさん!?無茶ですよ!まだ体力だって…!」
「だとしても、こっちの命運は今カナタ君が勝てるかどうかに掛かってんのさ。なァに、狙いはわかってる。ホムラが作った傷口からあの矢をぶち込むんだろ?それをするにはあの雑魚共が邪魔だ。タイマンなら、ワンチャンスがある。」
そうだ。要塞蜂との1対1であれば、攪乱をモンスタービーに任せっきりのアイツだけじゃカナタ君の行動を邪魔し続ける事は出来ない。足を止めて狙い、魔力を込める時間を作る事が出来るハズだ。
それだけが今残っている勝ち筋なら、こちらはソレに全てを賭ける。
「万全とは言えねェが、俺だって1ギルドの長。1秒でも長く守り切って見せるさ。」
「ちょ、マスター!」
軋む体を無理矢理動かし、いつも自分と共に戦ってくれた大盾と剣を手に持つ。
そうだ。俺はギルドを任せられた人間。
こいつらの命を背負って、戦わなきゃいけない存在だ。
今までの奮闘、ホムラの覚悟を決めた一撃、そして救助に来て必死に戦ってくれているカナタ君の努力。
これらを無駄にして、我が身可愛さで最善を尽くさないのは明確な裏切りだ。
何時だって俺は、命を賭して守りたい物を守る。前衛として、責任を持つ者として。
「ハルおじちゃん。」
そうして一歩を踏み出した時、不意に声を掛けられる。
聞き馴染んだ声。一番守ってやりたい、可愛い可愛い姪の声だ。
一刻を争う今の状況。ただの制止の声であれば無視してすぐにでも彼の元に駆けつけるべきだが、そのような声色ではない。
振り向けば、ホムラは魔石を嚙み砕き先程と同じ様な、覚悟を決めた表情でこちらに言う
「あの人と話がしたい。15秒…8秒で良い。」
「私を信じて、戦ってほしい。」
「……」
俺は、ギルドマスターだ。
ホムラを大事に思う叔父だ。
だからこそ
「任せろ。」
ウチの一番のエースの言葉を信じない訳がない。
その返答を聞いたホムラは、俺と同じく走り出す
全ては、全員で勝利を手に入れるために。
――――――――――
「協力する。」
突然「策がある」とこちらに言ってきた少女。
誰だか知らないが、迷う暇なんてない。
あの男性が突然横から入ってきたのはきっとこの子の為だ。
それならば、これは『
「必ず、あの蜂にボクの黒炎をぶち込んで見せる。だからその後に黒炎に向かってありったけの魔力の矢を打ち込んでほしいんだ。」
『黒炎』
そのワードを聞けば、彼女が件の『黒炎』の二つ名を持つ探索者だという事を理解する。
二つ名持ちなのであれば、尚の事その考えを疑う余地なんて無い。
それが策だというのなら、それに全てを賭けてやる。
ポケットに入れていたファイアスライムの魔石を彼女に無言で投げ渡せば、彼女はなんの躊躇いもなくそれを噛む事なく飲みこんだ。
「壁に入ってきた奴は全員撃ち落とす。確実に当ててくれ。」
「…了解!」
そこまで話し合えば、あとは言葉は必要ない。
『黒炎』の疾走に合わせて、弓を構える
ここが正念場だ。
「壁に入ってきた奴は全員撃ち落とす。確実に当ててくれ。」
「…了解!」
彼から貰った小さな炎属性の魔石を一気に飲み込み、すぐに深く踏み込んだ地面を蹴り上げ走り始める。
中層に居たモンスター達が多少強かったおかげで助かった。おかげで、手を包めるだけの大きさの黒炎を出せる。
ここで、ハルおじちゃんに妨害され即座に取り囲んで潰そうとしていたモンスタービーがボクの存在に気が付き、一気に対象を変更する。
未だ50体近くもいる奴らは、先程もやってくれたボクの存在を最大限警戒し最初から全力で妨害しようと全員で掛かってくる。
しかし、回避行動なんて絶対に取らない。アイツに避けられない様に、1秒の猶予だって与えたくない。
だから最速、最善のルートだけを見据えて足を動かす。目を逸らさない。絶対に、彼がやってくれる。
「
そう言い、背後から放たれた雷の矢が鳥の姿に変化し、より指向性を持った状態で的確に敵を撃ち抜く。
ボクに攻撃を当てそうな奴、進行を邪魔しそうな奴なんかを的確に撃ち落とし、一歩遅れた他のモンスタービーも雷の矢で撃ち落とす。
信じてた!でも間に合わないんじゃないかとも思って怖かった!
そんな逡巡の余計な思考を捨て払い、また飛び上がる。
狙いは胴体。私が付けた傷ではなく、さっき彼が付けたほんの少し外殻を貫いた場所!
そこへ向けて思いっきり右腕を振りかぶり、奴を脅かす
そうすれば奴はそれに気付き、迎撃ではなく防御を取ろうと体を捻る。
「
そうしてボクの真横、右側から胸元を余裕を持って通り抜ける青白い稲光が奴の肉体に着弾する。
出来上がったのは、先程よりももっとクッキリと作られた、おあつらえ向きの穴。
そこに、容赦なく右手で作った黒炎弾を捻じ込む
「ギ、ァァァァァッ!!!」
いくら火炎耐性があるからと言って、ボクの黒炎は特別。ましてや、身を守ってくれる外殻ではない肉であれば、余計に消えるまでの時間はある。
「先駆者さん!」
「
そこに、すかさず先駆者さんが魔力で作りあげた雷の矢をこれでもかと一点に撃ちこみ始める。
次第に小さな種火の様だった黒炎が徐々にその勢いを増し始め、少しずつ要塞蜂の体を包む様に燃え始める
これが『黒炎』。火属性と闇属性を混ぜ合わせて創り出した、ボクだけの魔法だ。
火属性はその属性の魔力を込めれば込める程その勢いを増すが、それに魔力を変質させる闇属性を混ぜる事で「燃焼の際に炎に触れた魔力をそのまま燃料としてくべる」事を可能にしたのだ。
それにより魔法同士の勝負では基本相手の魔法を飲みこみ威力を増し、魔力で出来た存在を燃やせば燃やす程その威力を更に増す事が出来る魔法。
勿論水属性に弱かったり氷属性相手には大した効果を発揮出来なかったり、耐性がある相手には火属性としての性質がそれを大きくでも上回らなければ燃焼し続ける事が出来ずいずれ消えてしまう等の弱点こそあれど、基本は水属性を扱い、火耐性が高い相手以外には有利が取れる。
さらに、こうして高い魔力を持つ仲間がいるのなら、敢えて燃料となる魔法を撃ちこんでもらえれば
「ァァッ!ギッ!ギギュァァァァア!!!」
「ゴリ押しだって出来る。正直、先駆者さんがコイツを燃やし尽くせるだけの魔力があるかは賭けだったけど、あの感じを見るに出来ると思ったよ!」
「あの感じを見るに出来ると思ってたよ!」
そう言い、未だ燃料として矢を撃ちこみ続ける自分に向けてグッとサムズアップをしてくる黒炎。
策があると言い、それに何も言わずに乗ったのだが……
「それにしたって、こちらに対する信頼が半端ないな。」
嬉し半分困惑半分、そんな微妙な感情のまま答える。
一切躊躇せずにモンスタービーに囲まれてるなか走り続けたり
こちらが穴を作ってくれるのを信じて一切止まらずに叩き込んでいたりするだけではなく、
作戦の一番重要な部分である「こちらが黒炎を燃やし続けられるだけの魔力をまだ持っている」というのをただの勘と信頼だけで委ね切ったそっちの判断に驚く。
「だって、ここまで条件が揃わなきゃ誰かが犠牲にならなくちゃいけないんだよ。」
「だったら、信じて全力を尽くしてから死んだ方がいいじゃん?」
「…………」
とんでもない子だ。この子は。
後がないから賭けたって、あそこまで思い切って動ける人間がどれだけいるだろうか。
狙うは最善一択。次善も保険も全て捨て、負ければそれまで。そんな狂った考え方が出来る探索者は、殆ど居ないだろう。なんせ、「死ねばなにもかも終わり」そんな死の危険をよく理解し、常に意識しているであろう探索者であれば、たとえ何かを失う結果になるとしても確実に生き残れる方法を選んだだろう。
だが、今回はそれでは全員が生き残る事は出来なかった。
「それに………やってくれると信じたのは…」
「アイツがとんでもないのを撃った時、貴方はこっちの事を気にして迷ってくれましたよね。」
「…だから、信じたんです。この人なら、絶対にやりきってくれるって。」
真っ直ぐな目、あまりにも眩しく感じるそれは、何処となく過去の知り合いの事を思い出させる。
この子は…
「…本当に、」
「将来が楽しみだよ、『黒炎』さん。」
「…ホムラ。
「…狛神カナタ。しっかり憶えておきます、ホムラさん。」
「へへへ、こっちも憶えました。カナタさん。」
「ギ、ギィィィィィィッ!!!!」
「!?」
完全に、終わったものだと油断していた。
未だ燃え盛る黒い炎の中、その動きを停止させていたはずの要塞蜂が突如飛び上がる。
ホムラさんは突然の出来事に一瞬呆気にとられる。
瞬時に弓を構え、矢を放つ。が、命中した矢は黒炎の燃料になるだけで奴の体を貫けない。
何をするつもりだ?自爆?悪足掻きでこちらにも黒炎をなすり付けようとする?
様々な選択肢が思い浮かんだが、どれも外れる。
要塞蜂は、最後の力を振り絞り、未だ黒炎によって包み切れていない先端…毒針の先をこちらに向ける。
…まさか、毒液の噴射は……口からだけじゃ………
「……!危ない!!」
ドン!
横から無理矢理押し飛ばされた
それに気付いたその瞬間には、もう手を伸ばしても届かない位置だった。
こちらを押し飛ばした彼女は、一瞬だけ笑い、そのまま目の前から居なくなる。
ヂッ
またあの音が聞こえる。
今度は、こちらが助けるはずだった少女を巻き込んで。
「……ホムラァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」
絶叫が聞こえる。
彼女を大事なギルドのメンバーと思っているのであろう人達が、怪我すら気にせず走り始める。
こちらは動けず、ただ茫然と、尻餅をついたまま目の前だけを見つめる。
この結果は………俺が、しくじってしまった。
「ギ、ィ、ィィィ……!」
奴の声が聞こえ、そちらを見やる。
要塞蜂は自身を殺す憎き相手の一人を落とし、残り一人は動けないままでいる今を見逃す程甘くない。
もう残っていない力、無理矢理その巨躯をこちらに向け、倒れ込めば……
「……ッ!」
そんな苦し紛れの悪足掻きに、殺されるわけにはいかない。
反射の様に動いた足が、即座にそののしかかりを避けるべく地面を蹴り上げる。
こうして避けてはいたものの、実際には動かずとも当たる事はなかった。
要塞蜂の巨躯が、私を避ける様に2つに分かたれていたからだ。
「救援要請を受け、『勇者』とその仲間達、さんじょ~ってね。」
「二つ名持ちが2人掛かりで随分と苦戦してるって聞いて、来て上げたんだよ。」
「……あらら?感謝の言葉は?」
そんな、『勇者』の言葉を聞きながら
要塞蜂との戦闘は、終了した。
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