第2話
「…ちょっとごめん、予定変更。救援要請来てる。」
そう一言だけ配信を見てくれている皆に伝えて、
そのまま通知を受け取りダンジョニストのアプリを開く。
救援要請が出ている場所を確認するが、わからない。
「そりゃそうだよなぁ……」
なんせ、救援要請を出したのは”配信をしていない”ギルドだ。
本来、配信はダンジョニストが探索者に義務付けた命綱だ。
勿論探索者の行動を監視するため、でもあるだろうが
それ以上にピンチに気付ける様に、すぐに駆け付けられる様に、無理をさせない為のシステムでもある。
しかし特例として、ギルドの大規模攻略は配信の義務を免除出来る。
それはギルド内での情報の保護や、仮に強力なモンスターと出会ったとしても人数が居る為救助が来るまで耐えられるという信頼から来ている。
しかし、今回に限って話は別。
救援要請を出している場所が”中層”なのが問題だ。
黒炎の剣はそこまで話を聞くほど有名なギルドではないが、『ギルド』には弱いギルドなんてものは存在しない。
どのギルドであっても中層で躓くはずがないのだ。ましてや、それが推奨レベルが極端に高い訳でもない孵らずの森で。だというのに何故か救援要請を出している。
これはつまり、なにかしらの異常事態が発生しているという事なのだ。
「あんまし猶予はない……」
:カナタさん!今黒炎が配信つけたから確認したよ!敵は要塞蜂の深化存在かもしれない!
焦りが芽生える中、視界の端でそんなコメントが見える。
要塞蜂の……深化存在
もしもそれが本当なら、非常に不味い。
孵らずの森の推奨レベルも、通常であればの話だ。
相手がボスの深化存在だとすれば、必要なレベルも10~20は変わってくる。
ダンジョニスト運営と連絡を繋げば、向こうも焦った様子で繋がった瞬間に声を掛ける
『救援要請を受けてくださりありがとうございます!早速ですがそちらのランクと―――』
「≪先駆者≫の狛神カナタ!現在地はD-8付近です!」
『先駆者……はい、現在G-16で黒炎の剣が戦闘中です。すぐにそちらに向かってください。向こうでの状況がわかり次第すぐに連絡させていただきます。』
「了解です。」
そこまでのやり取りを終えれば、すぐに走り始める。
向かう方向さえわかれば、そちらに向かって直進するだけだ。
幸い孵らずの森は他ダンジョンと違って木々が壁の様になっているだけなので、向かいたい方向に正しく進めば最短で着くはずだ。
当然木々の中を探索者が入らない理由は存在する。
視界不良、純粋に障害物が多く戦闘に不向き、そして…大量のモンスター。
「ギィィィィッッ!!」
先程出会ったモンスタービーの強化個体、上層とはまた少し姿が違ってその体には所々毒々しい紫色の線が混じっている。
それが突然現れた人間に驚く様子もなく、即座にこちらに噛みついて来ようと突撃してくる。
こんな所で立ち止まる暇はないが、毒はどれだけ耐性を付けたって無視出来る者ではない。
即座に弓を構え、貫通のエンチャントを付与する。
お互いに向かい合う中、相手が避けられなくなるタイミングをしっかりと見計らって弓を放つ。
ヒット、真正面から矢に貫かれたモンスタービーは無残に体を大きく抉られ、そのまま力なく墜落していく。
休む暇もなくそのまま2射目を準備し、周りに気を配りながらまた走り始める。
モンスタービーは必ず群れで行動する。
上手く気配を消しているであろう残りが、確実に私を殺せるタイミングを狙っているはずだ。
何匹居ようと変わらない。矢の数は残り9本、だが変に温存しているだけの余裕はない。今はとにかく、最速で到着することだけを考えて動く。
ヴヴ……
「そこ!」
微かに聞こえた羽音に反応し、すぐに立ち止まって2射目を放つ。
しかし反応はなく、落ちた音もしない。ただビュンと矢が風を切った音だけしか耳に届かず、不発を理解する。
撃たされた。
その事に気付いた瞬間、背後から気配を消していた2匹が現れる。
事前に手で持っていた3本目の矢をすぐに番え、放つ事で一体は対処できる。
しかし、2匹を同時に倒す事は出来ない。
残る1匹がこちらに毒針を突き刺さんとして突撃する。
「……ッ!」
1度撃たされたのは完全にこちらの敗北だ。
しかし、まだこちらにはお前達に見せていない牙が残っている。
モンスタービーの毒針を間一髪で避けながら、右手でしっかりと握られた解体用ナイフを、相手に突き刺し返す。
「ギ、ィィッ!!!!」
短い悲鳴と共に叩き落されたモンスタービーが動きを止める。
これで、3体目。
そして……4体目。
モンスタービーがどれだけ速かったとして、正面で音を鳴らしてすぐには後ろに行けないはずだ。
振り向けば、不意を突く為に静かに飛翔しながらもこちらを確実に貫かんとしている、今までの奴らよりも一回り大きいモンスタービーが居た。
おそらく中層に居るモンスターの中でも、かなり多くのモンスターを喰らってきたのであろう傑物。
全てはこの瞬間、武器を使い切ったこちらを確実に攻撃出来るタイミングを狙う為に。
しかし、勝負は既に決まっていた。
死角から何故か突き刺された貫通エンチャントを施された矢、モンスタービーは何が起こったのか理解できないまま、核ごと撃ちぬかれて墜落していく。
こちらへ向けて帰って来た矢を掴み、振り返る事なくまた走り出す。
やはり、何かがおかしい。
今回は自分だったから対処出来たが、本来ならあのレベルのモンスターが中層程度で出てくるわけがない。
ギルドでも対処しきれない中層ボス
確実に下層以上のレベルと言えるモンスタービー
今のこのダンジョンは、あまりにも滅茶苦茶だ。
「頼むから、到着するまで持っててくれよ……!!」
『狛神カナタさん、こちらの方で情報が出ましたのでご報告させていただきます。』
『黒炎の剣が対処しているモンスターは≪要塞蜂≫の深化存在……要塞蜂もそうですが、モンスタービーも多数深化している様で、対処に苦戦しているようです。』
『現在、≪黒炎≫を含む5名が応戦中、11名が毒で戦闘不能、残り8名は救助活動で動けない状態との事です。』
「……了解。」
走り始めてから5分、向こうの状況が確定したと運営からの通達を受ける。
ハッキリ言って、向こうの状況は苦戦で済ませられるレベルではない。
到着まではあと少し。矢ももう1本しか無い。
道中現れたモンスターは少し避けながらも排除してきたが、知っている倍は強い。
要塞蜂も、おそらくここの下層ボスレベルで留まらない強さをしているはずだ。
「頼む、間に合え……!」
――――――――――
「陣形を崩すなーーーーッ!ホムラに攻撃が届いちまったら俺達全員死ぬと思え!!」
「う、うぅぅぅぅぅぅ………ッ!」
こんなはずじゃなかった。
「オォォォォォッ!ここが踏ん張り所じゃろがいッ!オレが落ちたら一気に陣形が崩れちまうだろがァ!」
「ああぁぁぁぁ………!!!」
ボクのレベル上げの為のダンジョン攻略。
下層以下に居る高レベルのファイアスライムを求めてやってきたボク達は、孵らずの森の攻略を開始した。
ファイアスライム用に水属性を扱える魔法使いを事前に育成して、モンスタービーは火炎耐性を持ってるにしても、ボクなら焼ける自信があったから。
でも、何かがおかしかった。
中層で既にボクの炎を一撃は耐え始めるモンスタービー
他のモンスターも、苦戦する程ではなかったが、なんだか前に来た時よりもレベルが高い様に感じた。
『…何かおかしい気がするんだ。』
『急にどしたの?ハルおじちゃん。』
『もしかして、ボクがアイツらをすぐに焼けてないのを気にしてるの?大丈夫だって、誤差だよ誤差』
『それもあるんだが……やけに強くねェか?孵らずの森ってここまで難しいダンジョンだったか?』
『ん~………』
確かに、今までも何度か潜った事はあったが、中層でここまで強いモンスターには出会った記憶がない。
昔こそそりゃあモンスタービーに火属性の魔法をぶつけて耐えられていたが、今のボクなら普通のモンスタービーの耐性ぐらい、楽に無視出来てたはずだ。
『ダンジョンに異常があるかもしれねェな。運営に報告して帰るのも手だが……』
『えーっ!?ここで帰ったら何も収穫ないじゃん!大損失だよ!?』
『………』
ギルド総出の大攻略。
一番の目的こそファイアスライムだが、全員を連れての攻略なのだから下層のモンスターの魔石を50程は手に入れないと割に合わない。
それなのに中層のモンスターを数十倒した程度の戦果で帰ってしまえば大赤字だ。
勿論、ギルドマスターであるハルのおじちゃんが心配する理由はわかる。
ギルドメンバー全員の命を背負っているおじちゃんは、迂闊な判断を下す事が出来ない。
しかし、ここで多少の違和感の為に引いたとして、攻略の為に無駄にしたお金や時間、孵らずの森の中層で
違和感こそあれど、未だ中層。下層ボスの討伐経験もある私達が、こんな所で引き返すリスクの方が大きいのだ。
『大丈夫、ボクはまだまだ温存出来てるし、多少強くてもここのレベルならあと300は倒せる自信あるよ?』
『…………わかった。中層までの番人の魔石までは回収しよう。でも、討伐対象はマグマスライムじゃなくて要塞蜂だ。万が一がある状況で、エースであるお前が機能しないっつーのは最悪の事態を招く可能性があるからな。』
『オッケー!任せてよ!』
この時のボクは、完全に舐めていた。
『たかが最高60レベル台のダンジョン。ウチが突破出来ない訳がない。』と。
しかし、素直にギルドマスターの言う事に従っていたらよかった。
そうすれば、こんな状況にはならなかった。
一人、また一人と倒れていく戦場。
頼りの綱だったボクも、完全に機能は出来ていない。
火属性が、全くと言って良いほど通用しないのだ。
モンスタービー1体を倒す為には先程までの2倍程の威力が必要になるほどで耐性が今までの比ではない。
要塞蜂に至っては、一度放った火球が虚しく弾かれた。
雷属性じゃなきゃまともに戦い続ける事は出来ない。
でも、火属性の魔力ばかりを持ってるボクじゃ、変換に時間が掛かってしまい、いくら魔力に量があっても連発する事が出来ない。
皆の周りを飛ぶモンスタービーを必死に撃ち落としていても、肝心の要塞蜂に届かせるだけの余裕が存在しない。
「…っ、ホムラちゃん!危ない!」
「あっ………」
そうしてまた、撃ち漏らしたモンスタービーが確実に勝ちの目を潰すべく動けないボクを狙い、また皆がボクを庇って体に毒の牙を刺し込まれる。
「ぐぅッ」という悲鳴だけが聞こえて、ボクの元に寄りかかる様にして倒れる仲間。
ボクの所為だ。
ボクが進もうなんて意見しなければ
ボクが撃ち漏らす事なく倒していれば
ボクがもっと強ければ。
「っ………あぁ、あぁぁぁぁぁ!!!!」
「ユウタ!…クソッ!3人になっても基本的な動きは変えるんじゃねェぞ!互いにカバーしてやるんだ!」
必死にハルおじちゃん達はボクの事を守ってくれるが、4人でギリギリだったのに3人になった今、もはや完全に崩れるのも時間の問題。
このままやったってどうしようもない。
援軍が駆け付けるまで耐えるには人も力も時間も、あまりにも何もかもが足りない。
こんな、ボクを守って地道に堅実に戦うやり方を出来る余裕はない。
どこかで、賭けに出る必要がある。
「………。」
「…っおい!ホムラ!何考えてやがる!?」
ハルおじちゃんはすぐにボクの考えに気が付き止めようとするが、それよりもボクの方が速い。
3人の中心に居たボクは飛び上がり、四方八方に居た雑兵達よりも上から、黒い炎を叩き込む。
ただの炎を一切通さない程の高い耐性を持っていたとしても、生憎こちらはただの炎とは全くの別物だ。
込める魔力を増やし、奴らを焼き尽くせるだけの火力で墜としていく。
慣れ親しんだ、ボクが一番強い戦い方だ。
これであれば、少し強いだけの雑魚ならば時間を掛けずに倒す事が出来る。
守られずとも、一人で戦闘を続けられる。
しかし、問題は……先程よりも何倍も早く、タイムリミットが迫っている事。
あと数分もせず、ボクは戦えなくなるだろう。
「だからこそ………!」
「……!ホムラ……!」
両手を構え、今ある魔力の大半を次の一撃に注ぎ込む。
ここまで耐えてきたが、もうボク含め、全員限界が近い。
このまま防戦を続けたとしても、助けが来るのは全滅後だ。
ならば、僅かな可能性に賭けて少しでもアイツと周りを削る。
次に誰が倒れても崩壊するのならば、ボク一人で出来る限り相手の戦力を道連れにする。
数が減らせれば、まだ持つ事が出来るかもしれないからと。
「ギィィィィィィッ!!!」
「なにかをする」と勘付いたモンスタービー達は、すぐさまこちらへと向かってくる。
ボクはすぐさま、自身に向かってくるモンスタービー達に残りの魔力を使ってその視界を闇で奪う。
ただの時間稼ぎでしかないし、目の前に集中している現状ではどうしても撃ち漏らしが出る。
でも、こちらにだって仲間が居る。
「全員、撃ち尽くせーッッ!!アイツに一匹も近付けさせるんじゃねェぞ!!!」
モンスタービーのターゲットを一身に受けたおかげで怪我人を守る為に防御にリソースを割かなくてもよくなった彼女たちが、ハルおじちゃんの指示の元上手く1人の雷魔法を混ぜ込んだ水弾でこちらに近付く存在を撃ち落としてくれている。
「頑張れ!ホムラちゃん!」
「行ってくれ!」
「その後はこっちに任せてくれ!必ず持ちこたえる!」
「……!!」
激励の言葉を受けながら、巨大な黒色の火球を作りあげる
目標は、周りを飛んでいるモンスタービーの兵士達と、傍観を続けている要塞蜂。
倒すまではいかずとも、致命的なダメージは与えてやる……!
「燃やし…尽くせッ……!?」
そうして狙いを定め、貯めに貯めた魔力を解放しようとしたその瞬間…
今まで動かなかった要塞蜂が、初めて動きを見せた。
しかしその動きは、こちらの攻撃を避けたり、仲間に防御させようとはせず
むしろ、真正面からその巨躯を前に出し………
大規模の魔法と一体のモンスターとの衝突、
轟音が鳴り響き、爆風で宙に居た体が吹き飛ばされる。
今の一撃で全てを使い切ったボクは、そのまま叩きつけられる様に地面に衝突する。
結果は、わからない。
立ち上った土煙が視界を埋め尽くしており、ふらつく体を持ち上げて上を見上げる。
「………嘘でしょ………」
そんな、声が聞こえた。
少しずつ晴れていく視界
そこに居たのは、胴体を大きく抉られた要塞蜂。
確かに、ボクの一撃はあの怪物に致命的とも言える一撃を与えた様だ。
しかし……それだけ。
要塞蜂の後ろからゆっくりと現れるモンスタービーの変異種…その数は、依然として絶望的だ。
アイツは、この状況を見て……あれだけのダメージを受ける事を最良と判断し、実行した。
自身が万全のまま残るより、圧倒的な数の差で押しつぶす方が確実だと。
「………ッ!」
確かに、全てを削れるとは考えていなかった。
ただ、あの一撃はどれだけの壁があったとしても、最奥の要塞蜂にも多少のダメージは与えられるという確信があった。
数を多く減らし、要塞蜂にもダメージを与えられれば…希望があるかもしれないと。
だというのに、壁になったのは要塞蜂であり、巻き込まれたモンスタービーは全体の4分の1にも満たない数。
未だに、数の差ではこちらが大きく負けている。
「…まだだ。」
「まだ負けちゃいねェッ!ホムラがここまでやってやったってのに、ここで負けられる訳がねぇ!!」
大盾を構えたハルおじちゃんは、雄叫びを上げる。
進んで先頭に立ち、攻撃を始めようとしていたモンスタービーを2体斬り殺す。
そんなギルドマスターの姿を見て、我に戻った2人も震えを抑え覚悟を決めて、立ち上がる。
残りの動ける人達も出来る限りの援護をし続ける。
文字通りの総力戦。持てる力だけではなく、何もかもを出し切って皆が戦う。
「こんな所で終われない」「仲間達の決死の覚悟を無駄にしたくない」
そんな気持ちが、既にギリギリの皆の体を突き動かしてくれているのだ。
しかし、覚悟や気持ちで勝てる程ダンジョンというものは甘くない。
数に押され、力に負け、少しずつ何もかもが崩壊していく
絞りカスのボクにはもはや何も出来ず、ただ守られ見るだけしか出来ない。
「どうし、たァ!雑兵共がぁ!もう、終い、かぁ……!」
「ギュィィィィィィ!」
「………!」
疲労で武器を振り下ろすので精一杯のハルおじちゃんを狙い
複数のモンスタービーが上空から襲い掛かるその瞬間
青白い稲光が、ボク達の真上を駆け抜けた。
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