第55話 捕獲
そこに四人の男が現れた時、極彩色の巨体は蹲っていた。
全身を揺らして何かを必死に咀嚼している。
地面には血だまりが広がっていた。
少し離れた場所で止まった男達は巨体を指差す。
「おっ、いたぞ」
「こんな所におったんか」
異様な光景を前にしても、彼らに動揺は見られなかった。
岬ノ村の人間にとって"みさかえ様"は慣れ親しんだ存在だからだ。
こうして村の敷地から勝手に逃げ出すのも珍しくはなかった。
山を下りないように躾けているため、周辺を捜索すればいつか見つかるのである。
顔を血で汚す"みさかえ様"は、死体を貪り食っていた。
死体はあちこちの肉が齧り取られて原形を留めていない。
へばりついたアロハシャツの切れ端だけが唯一の特徴だった。
男達は目を凝らして死体を観察する。
「あれは……逃げた生贄か?」
「服が同じじゃ。間違いないじゃろう」
彼らが話し合っていると"みさかえ様"が上体を起こした。
そして甲高い絶叫を発する。
血の涙を流しながら、ぎらついた殺意を男達に向ける。
「暴走しとるな。さっさと止めるぞ」
男達は一斉にガスマスクを装着した。
彼らは"みさかえ様"の足元に缶を転がす。
すぐに缶から煙が噴き出て"みさかえ様"を包み込んだ。
催涙ガスを浴びた"みさかえ様"は悶絶し、その場で自傷行為に走る。
両手で顔を押さえ、地面に何度も頭をぶつけていた。
その間に男達は動き出す。
「今だ! 囲んで気絶させろっ」
男達は持っていた鈍器で"みさかえ様"を滅多打ちにする。
悲鳴を上げる"みさかえ様"は無抵抗だった。
岬ノ村の人間には危害を加えないように躾けられているためだ。
暴走と呼ばれる状態にあっても、本能的な部分で命令を守っていた。
やがて男達は弱り切った"みさかえ様"を縄で縛り、死体と一緒に引きずっていく。
「村に連れ帰るぞ。一応、豊穣の儀もやらんといけんでな」
先導する男はふと"みさかえ様"を一瞥する。
破れた鱗の隙間から、人間の皮膚が見え隠れしていた。
首筋の辺りに古傷がある。
それは何かに噛まれたような痕だった。
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