第28話 岬ノ村の真相

 安藤は首を傾げる。

 彼は少し思案してから問いを重ねた。


「どういうことかな」


「岬ノ村の宗教は架空のでっちあげじゃ。みさかえ様も架空の神じゃ」


「おい! いきなり何を言ってんだ!?」


 松田がずかずかと歩いてくると、村人の胸ぐらを掴んだ。

 村人は息を詰まらせながら答える。


「む、村のルール……教義は欲を満たすための口実に過ぎん。本当は誰も信仰心を持っとらんし、それは暗黙の了解で通っとる」


「村がみさかえ様を崇めるのは形だけってことだね。信仰心という建前で責任から逃れているわけか」


 説明を聞いた安藤は納得する。

 一方で松田は激昂し、村人の腹を蹴り飛ばした。

 悲鳴を上げた村人は背中を丸めてせき込む。

 松田は血を吐いて苦しむ村人の髪を掴み、顔を寄せて怒鳴った。


「じゃあ豊穣の儀って何なんだよ!」


「全国から人間を攫って殺す祭りじゃ。みさかえ様への生贄という体じゃが、実際は村の人間が食う。人肉は一番のご馳走でな……ふふふ、たらふく食えるのは豊穣の儀の時期だけじゃ」


 突如、村人がゲラゲラと大笑いする。

 村人は安藤と松田を見上げ、涙を流して愉快そうに言う。


「女は犯して孕ませるんだぞ! 特に若い娘! トンネルに集めて死ぬまで犯す! 子孫繁栄は大事だからなぁっ! ぶわっはっはっはっはっ!」


 村人は堰を切ったように泣き笑い続ける。

 恐怖で苦痛でやけになったのかもしれなかった。

 その姿を安藤は冷たい目で観察する。

 いかなる真実を知っても、彼の表情は不変だった。


「カニバリズムと凌辱か。酷い風習だね。大昔からずっと繰り返してきたのかな」


「滅茶苦茶だ! 狂ってやがる!」


 怒鳴った松田が村人を何度も蹴る。

 容赦のない暴力は村人の手足や腰の骨を砕く。

 そのたびに悲痛な声が上がるものの、松田は動きを止めようとしなかった。

 彼は執拗な暴力により、自らの思考を掻き消そうとする。


「人間が人間を食うだと……!? ふざけやがって、立ち退きどころじゃねえぞクソ!」


「落ち着きなよ。声で居場所を特定される」


 見かねた安藤が止めに入ると、リボルバーの銃口が彼に向いた。

 引き金に触れた松田は早口で問い詰める。


「……どうしてそんなに冷静なんだ。おかしいだろうが……まさかてめえ、全部知ってやがったのか!」


「慌てふためいて事態が解決するならそうするさ。でも現実は違う。僕達はよく考えて行動しないといけない」


 安藤は動じない。

 淡々と正論を返し、松田の目をじっと見据える。

 呼吸を荒げていた松田もだんだんと理性を取り戻し、やがてリボルバーを下げて舌打ちした。

 安藤に謝ろうとするが、プライドが邪魔をして言葉は出てこなかった。


 いつの間にか笑うのをやめた村人がよろめきながら立ち上がる。

 満身創痍の村人は、血だらけの顔で懇願する。


「な、なあ……知ってることは全部話したぞ。これで助けてくれるんだよな!?」


「うん、ありがとう。もういいよ」


 安藤が短機関銃の引き金を引く。

 三発の銃弾が村人の腹と胸を貫通した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る