第32話 誰かに背を預けるということ
光希と目が合った。楓は頷いて、刀を振るう。もっと、
誰かと共に戦うのは初めてだった。楓を死角から狙う
楓は獰猛に、そして不敵に笑った。
さあ、狩りをしよう。
「相川!」
「ああ!」
目くばせひとつで意思が伝わる。体勢を低くして
「あと一匹!」
満月に向かって地面を蹴りつけた。銀の髪がはたはたと舞う。握りしめた刀が楓の両手に重力を伝える。光希の放った雷撃に惑う獣が見えた。
最後の
「こういうのも、悪くないだろ?」
「うん。おまえとなら、悪くないな」
光希が拳を持ち上げる。何をすればいいのか、楓はすでに知っていた。楓も拳を作って、光希の拳にこつんとぶつけた。
「わ……たし、は、まだ、終われ、ない……っ、んです!」
青白い顔の花蓮は土に爪を立てた。光希が刀の切っ先を花蓮の首筋に向ける。
「やめておけ。こんなになってもおまえは……」
花蓮はずっと独りだった。楓と光希を殺すという任務はおそらく単独任務。相川が十本家のひとつであること、楓が天宮の姫であることを
「わかって、ます。私が、捨て駒、だってこと。ですが、こんな、目の色をした私、には、居場所、なんてどこにも、ないんですよ」
黒髪に黒目の多い五星結界の内外。
「霞浦がおまえを心配していたぞ」
光希の言葉に花蓮は静かに首を振った。
「……だめですよ、私なんか」
ぱきん、と何かが砕ける音が花蓮の手の中から響いた。
「相川! 先行っててくれ!」
「分かった! 桜木を頼んだ!」
霊力で無理矢理身体を動かしている光希は先に木々で作られた道を登り出す。倒れたまま動こうとしない花蓮を楓は乱暴に背負った。
「……なんなんですか、バカなんですか。私、あなたを殺すつもりだったんですよ」
花蓮がげほげほと咳き込む。楓は花蓮を背負う腕にさらに力を込めた。
「でも、殺さなかっただろ」
「だって、それはっ、殺しても、あなたは死なないし、相川光希はぶっ壊れ性能ですし、ふざけすぎなんですよ!」
「確かになー」
崩れていくだけの道を楓は気を失ってしまった花蓮を背負って駆けていく。
「天宮!」
土と木の破片を目一杯黒髪にくっつけて、楓はひょっこり地上に顔を出した。光希の手をとって、夜空の真下へ。満ち足りた月の眩しさに目を細める。
「楓!」
「天宮さん!」
「楓おかえりいい~」
「天宮さん生きててよかったぁぁ」
夏美と夕姫に抱きつかれて撫で回されて目を回す。友達というものに触れられるという体験も楓には初めてで。
夏美、涼、夕姫に夕真。四人がそんなに嬉しそうにしている理由は楓にはまだ半分くらいしか理解できていないけれど、この関係は楓にとってかけがえのないものになるだろうという予感があった。
「楓さん! 愛してますわあああああ!」
「え゙え゙え゙!? なんで、霞浦まで!?」
亜麻音に熱烈なラブコールをされる理由の方は、さっぱりよく分からないのだが。
「なんでさあああああっ! 霞浦、ボクのこと嫌いじゃなかったっけえええええっ!?」
「楓さんの強さに心を撃ち抜かれましたのおおおおお!」
「はああああああああ!?」
***
動かした天宮の霊能力者たちに後始末の指示を飛ばし終え、木葉は溜息をついた。元々天宮が逢津付近の大規模討伐を計画していたため、
「それにしても、半妖、ねぇ……。あまりにも、最悪だわ」
天宮楓には十五になるまで接触してはならない、という天宮桜の指示はおそらく天宮楓の正体が露見することを防ぐためだったのだろう。半妖は異端だ。最後の天宮の姫を守りきるには、正体に関する秘密すらも守らねばならない。
「光希、あんたの背負い込んだものは想像以上に重いわよ」
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